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もう一人の渡り人編

1.スキンヘッドドゴンべチーン(1)

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 坑道付近にはほとんど人気ひとけがない。いたとしても鉱夫か遠くに見える田畑の手入れをする農民くらいなもの。だがそれでも、いやだからこそというべきか、二十人もの堅気かたぎらしくない男が全員土下座をしているのはやはり目立つ。

 大岩や廃墟となった建造物、またその周囲を囲う石壁などもあるので、隠れていることは間違いないのだが、それでも人目は気にしてしまう。

 なので、邪魔にならない場所に移動して、足を崩して車座になってもらった。これなら遅い昼休憩に見えなくもないだろう。いや、賊の悪巧わるだくみにしか見えんか。

 戦っているときよりも動悸がしたが、他にやりようもないので仕方なく状況を受け入れた。見た目が怖い連中なので、早々文句を言いに来る者はいないだろう。

 大金槌使いの巨漢が胡座あぐらを掻いて座り、俺に向かい深々と頭を下げた。

「俺はドゴンといいやす。旦那にやられたときゃあ、これで年貢の納め時だと思いやしたが、こうして治してくださって、感謝してもしきれやせん。本当にありがとうございやした!」

 ドゴンがまた頭を下げると、全員頭を下げて「ありがとうございやした!」と大声で言う。声は揃っていないが、とにかく声量が凄い。野球部員かと思うくらい熱意も感じられる。ほとんどが泣いていることもあって感謝は十分に伝わった。

「ああ、うん、気にしなくていい。ただ、ちょっと静かにね。もうちょっとでいいから、声を落とそう。近所迷惑になっちゃうからね」

「くっ、旦那はなんて心配りのあるお人なんだ。おい! お前ら! ちゃんと聞いたか! ご近所さん方の迷惑にならねぇように静かにするんだぞ!」

 地鳴りが起きたのかと思うような大声でドゴンが言う。すると「はい! 静かにします!」と全員が大声で返答した。

 俺は思わずドゴンに歩み寄って平手で頭を叩いていた。ドゴンは綺麗に剃り上げられたスキンヘッドに手を当て「え……」と困惑したような顔で俺を見上げた。

「静かにしろって言ってるだろ! わざとやってるんじゃないか⁉」

「め、滅相もねぇ! すいやせんでした!」

 頭を下げるが、また声がでかい。

 多分、言っても分からない類の人なんだろうな。諦めよ。

 フィルが頬を膨らませて顔を背けている。肩が震えているので、笑いを堪えているのが一目瞭然だ。こっちは笑い事じゃないんだぞ。

「それで、何か話してくれるんっすか?」

 俺が溜め息を溢している間にヤス君が訊いてくれた。流石。

「へい。俺たちが知ってることは少ねぇんですが、それは全部お話しやす」

 ドゴンが話し始めた。まずは、自分が生まれたときのことから始まった。ドゴンは半狸人なのだが、耳も尻尾も持たずに生まれてきたそうだ。

 だが、腹は生まれたときから狸人も驚くほどに立派で、叩いたときにドゴンと良い音が鳴ったから両親が大喜びしてそれが名前の由来になったのだとか。

「知らーん!」

 べチーンとドゴンの頭を平手で叩く。躊躇ちゅうちょは一切ない。ドゴンはまた頭に手を当て「え……」と戸惑いを隠せないような顔で俺を見上げた。
 
 
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