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ウェズリーの街編
25.どうでもいいの三連発と毛髪の心配をする男(2)
しおりを挟む俺に対応した職員はモンテさん。丸眼鏡を掛けた兎人の中年男性。茶色の毛並みと垂れた長い耳が、温厚そうな顔立ちをより穏やかに見せている。
受け答えや動作は、ややふっくらした体つきを含めた見た目通りの優しいもので、ほっこりした気分で滞りなく従魔登録を済ませることができた。
「はい、これで従魔登録は完了です。では、ユーゴさん。こちらの従魔証明を、サブロちゃんに付けてあげてください。どこでも構いませんからね」
カウンターに置かれたのは、向日葵のような飾りのついた銀色のペンダント。サイズがまったく合わないが、調節は鍛冶屋で行ってくれとのことだった。
「重要なのは、その花の形をした部分だけですのでね。名前を忘れましたが」
「向日葵ですか?」
「ああーそうでしたそうでした、向日葵です。イノリノミヤ様の伝説に登場する従魔には、その向日葵の花の形をした装飾品がつけられているんですよ」
それにしても、よくご存知で。と、モンテさんが微笑みを深くする。これはやらかしたと思った直後に、腰に軽い衝撃。フィルが小突いたのだと察する。モンテさんによれば、この世界では向日葵は伝説の花なのだそうだ。
思い返してみれば、こちらに来てからは夏らしいものをほとんど見ていない。蝉、素麺、向日葵、風鈴、団扇。あとは西瓜と打ち上げ花火。
探せばどこかにあるのかもしれないが、それは来年のお楽しみになりそうだ。季節は既に秋。過ぎ去る前に、秋らしいものを探したいものだ。
そんなことをぼんやりと考えた後で、俺はモンテさんに顔を寄せ、囁き声で件の職員についてのことを訊いた。するとあからさまにモンテさんの表情が曇った。
「また、チエが何かしたんでしょうか?」
モンテさんが周囲に気取られないように小声で訊き返してきたので、俺はルードから訊いた内容をかいつまんで話した。それが原因でルードに協力することになったという部分は特にしっかりと。
話を終える頃には、苦悩するモンテさんが出来上がっていた。顔色を悪くし、カウンターに両肘を着けて頭を抱えている。
「申し訳ないのですが、私にはどうすることもできません」
理由を訊いたが、モンテさんは言い渋った。口が堅い人なのだと察する。その理由はなんとなく分かる。あの職員、チエがおそらく渡り人だからだろう。
だがそれだけではない気がする。チエの受付に向かう冒険者の質が、他と比べるとどうにも良くないように思える。勿論、そういった者だけではないのだが、比率が高い印象。チンピラに裏社会の仕事を斡旋しているように錯覚する。
モンテさんに口を割らせる為に、エドワードさんの名前を出す手もあるが、客分の証明になるような物は持っていない。確認してもらうにしても時間は掛かるので、何か別の方法を考えた方が無難だと判断した。
目下のところの急務は、ルードの依頼を終えること。期限は本日中とのことだが、冒険者ギルドは二十四時間営業ではない。受付が閉じる午後八時までにはサラマンダーを届けなくてはならない。あと七時間ほどだ。
ルードもついてくると言ったが、昨日の朝から動きっぱなしというのはあまりに気の毒なので帰ってもらった。一眠りしたらまた冒険者ギルドに来てもらう予定。来なかったらルードの責任なのでそこは知らない。
冒険者ギルドを出て、パーティーで坑道に向かう。途中に鍛冶屋があったので、俺はサブロの従魔証明になる装飾品の調整をしてもらうことにした。
三人には先に行ってもらった。坑道は新米冒険者の訓練に使われる場所だと聞いたので、さほど危険はないと判断した。一人遅れて入っても大丈夫だろう。
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