上 下
245 / 409
ウェズリーの街編

18.可愛い珍客(4)

しおりを挟む
 
 
 闇竜? という疑念の感じられる静かな鸚鵡おうむ返しを食らいつつ、俺は従魔の説明を読み終える。内容は単純明快。責任と愛情を持って世話をすること。それがちゃんとできていれば、スキルを利用する権利を与えてくれるというだけ。

 不当に扱ったり、世話を怠ったりして嫌われると、従魔の方から一方的に契約の破棄がされるらしい。戦闘中にこういうことが起きると寝返りで命を落とすリスクもありそうだが、可愛がっていれば問題ないので俺には関係ない。

 従魔契約が済んだからか、闇竜が俺の腕に飛びついてきた。するするとよじ登り、肩に乗って、そこから首の周囲を巡る。どうやら落ち着ける場所を探している模様。少々こそばゆいが、そっとしておくことにする。

 というのは建前で、実は気にする余裕がないだけだったりする。契約は済ませたが、ちょっとした問題でステボの表示が待機中になったままなのだ。

「闇竜って、ダークドラゴンってこと?」

 フィルが小声で訊いてきた。

 俺は従魔のステボが扱えるかどうかを確認しつつ首を捻る。

「それは分からないけど、種族が竜で、その後に闇竜って書いてあった。多分だけど、魔物の名前って見た人が勝手に付けたもんだよね? 実際の名前や種族は違うんじゃない? 魔物のステボ確認して呼んでる訳じゃないんだし」

「確かに。ハンたちも偽名を使えてるしな。ん? それは話が違うか」

「いや、言いたいことは分かるからいいよ。それでユーゴはどうするの?」

 質問の意味が分からず、フィルを凝視する。

「どうするのって、何?」

「契約だよ」

 あれ? したって言ってなかったか? うん、言ってないな。

「ごめん、言い忘れてたけど、もうしちゃった。今は色々と調べてるところ。取り敢えずステボは自分のものと同じように扱えるみたいだね。ただ、幾つか制限があって、他者閲覧はできないみたい。それと、ちょっと困ってることがある」

 フィルが額に手を遣り、具合が悪そうにしながら「何?」と訊いてきた。

「命名権が与えられてるんだよ。それでずっと頭を悩ませてる」

「名前付けないとどうなるんすか?」

「契約が完了しない。名無しで完了もできるみたいなんだけど、やっぱりちゃんと名付けてあげたいじゃない? 懐いてくれた子だし」

 闇竜が俺の左肩で立ち上がり「ピギー」と鳴いて頬に抱き着いてくる。俺の言ってることが理解できたのか、なんだか喜んでいるように感じられた。

「ユーゴが決めるべきだろ。俺たちの従魔じゃないしな」

「そうっすね。けど従魔かー。俺は生き物苦手っすけど、メリットでかいっすよねー。ちょっと興味出てきましたわ。小型の哺乳類系ならどうにか可愛がれる気がしますし。懐かれる条件って何なのかなー?」

「ちょっと色々と起きすぎてついていけなかったけど、これって凄いことだよね。目の前で従魔の謎を解き明かされちゃった訳だし。僕も欲しくなっちゃったよ」

「いや、あの、名前の話は」

 知らん。好きにしなよ。まだ続いてたんすか? と、それぞれ一言で済まされた。自分で決めないと駄目だというサクちゃんの言葉で命名についての話題は終了していたらしい。三人はヤス君の術についての会話を始めてしまった。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...