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ウェズリーの街編
18.可愛い珍客(4)
しおりを挟む闇竜? という疑念の感じられる静かな鸚鵡返しを食らいつつ、俺は従魔の説明を読み終える。内容は単純明快。責任と愛情を持って世話をすること。それがちゃんとできていれば、スキルを利用する権利を与えてくれるというだけ。
不当に扱ったり、世話を怠ったりして嫌われると、従魔の方から一方的に契約の破棄がされるらしい。戦闘中にこういうことが起きると寝返りで命を落とすリスクもありそうだが、可愛がっていれば問題ないので俺には関係ない。
従魔契約が済んだからか、闇竜が俺の腕に飛びついてきた。するするとよじ登り、肩に乗って、そこから首の周囲を巡る。どうやら落ち着ける場所を探している模様。少々こそばゆいが、そっとしておくことにする。
というのは建前で、実は気にする余裕がないだけだったりする。契約は済ませたが、ちょっとした問題でステボの表示が待機中になったままなのだ。
「闇竜って、ダークドラゴンってこと?」
フィルが小声で訊いてきた。
俺は従魔のステボが扱えるかどうかを確認しつつ首を捻る。
「それは分からないけど、種族が竜で、その後に闇竜って書いてあった。多分だけど、魔物の名前って見た人が勝手に付けたもんだよね? 実際の名前や種族は違うんじゃない? 魔物のステボ確認して呼んでる訳じゃないんだし」
「確かに。ハンたちも偽名を使えてるしな。ん? それは話が違うか」
「いや、言いたいことは分かるからいいよ。それでユーゴはどうするの?」
質問の意味が分からず、フィルを凝視する。
「どうするのって、何?」
「契約だよ」
あれ? したって言ってなかったか? うん、言ってないな。
「ごめん、言い忘れてたけど、もうしちゃった。今は色々と調べてるところ。取り敢えずステボは自分のものと同じように扱えるみたいだね。ただ、幾つか制限があって、他者閲覧はできないみたい。それと、ちょっと困ってることがある」
フィルが額に手を遣り、具合が悪そうにしながら「何?」と訊いてきた。
「命名権が与えられてるんだよ。それでずっと頭を悩ませてる」
「名前付けないとどうなるんすか?」
「契約が完了しない。名無しで完了もできるみたいなんだけど、やっぱりちゃんと名付けてあげたいじゃない? 懐いてくれた子だし」
闇竜が俺の左肩で立ち上がり「ピギー」と鳴いて頬に抱き着いてくる。俺の言ってることが理解できたのか、なんだか喜んでいるように感じられた。
「ユーゴが決めるべきだろ。俺たちの従魔じゃないしな」
「そうっすね。けど従魔かー。俺は生き物苦手っすけど、メリットでかいっすよねー。ちょっと興味出てきましたわ。小型の哺乳類系ならどうにか可愛がれる気がしますし。懐かれる条件って何なのかなー?」
「ちょっと色々と起きすぎてついていけなかったけど、これって凄いことだよね。目の前で従魔の謎を解き明かされちゃった訳だし。僕も欲しくなっちゃったよ」
「いや、あの、名前の話は」
知らん。好きにしなよ。まだ続いてたんすか? と、それぞれ一言で済まされた。自分で決めないと駄目だというサクちゃんの言葉で命名についての話題は終了していたらしい。三人はヤス君の術についての会話を始めてしまった。
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