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ウェズリーの街編

13.ツギハギ殺人熊と荒廃した大地が似合う男(4)

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 一気に脱力。俺は安堵の息を吐きながらその場にしゃがみ込む。フィルは魂が抜けたように膝から崩れ落ち、サクちゃんは両手両膝を地面につけて震えた。

「ハハッ、大袈裟っすね。でもまぁ、そういうことっす。天井から落ちる形になるんで、気構えは必要っすけどね」

「心臓に悪いよ。だけど凄かった。驚きすぎて棒立ちになっちゃったよ」

「まったくだ。なんて物を作ったんだ本当に」

「僕はもう、君たちがそういう類の生き物なんだと思うことにするよ」

 フィルとサクちゃんが着衣の埃を払いながら立ち上がる。俺も二人に合わせて立ち、ヤス君のいる小型装甲車の側に歩み寄る。

「そういえば、これ【天眼芯】で転移させて出てきたよね」

「魔力で生成した物っすからね」

 俺は【箱庭】から普通に出せると思っていたが、出入口を通過させると消失してしまうらしい。言われてみれば【陰陽盾】は魔力で生成したものは消失させてしまう。当然【異空収納】もだ。

 ただ、その内部では術は使用可能なので【天眼芯】を利用することで出入口を通らず外へ出ることが可能なのだとか。逆もまた然りとのこと。

 そしてヤス君に触れているものであればすべて一緒に転移が可能らしい。

 そりゃそうだ。そうじゃなきゃ転移後に素っ裸になっちゃうもんな。

 詳しく訊いたところ、服の上のものも転移対象に含まれているそうなので、厳密に言えば直接肌に触れる必要はないそうだ。要は転移時に発生する魔力がヤスくんから伝播できれば良いとのことである。

「転移するとき、魔力が俺の体を覆うんすよ、被膜みたいに。そこに接触したものが一緒に覆われる感じっすね。だから俺に触れてる人に触れても転移対象になります」

「じゃあ、俺らも転移で運べるってことか」

「そういうことっす。だからシンドゥー王国領に【天眼芯】を置いてこようとしてんすよ。行きの旅程を短縮できるでしょ?」

「ヤスヒトって頭脳派だよね。凄い発想。僕じゃ思いつかないよ」

「んなことないっすよ。俺はトライ&エラー繰り返してるだけっすから」

「にしてもだ。俺たちじゃそこまで到達できん」

 俺はうんうん頷いて同意する。ヤス君は照れ笑いした。

「運が良かったってのもあります。異空間からの転移なんで難しいかと思ったんすけど、できたんすよ。【箱庭】の中には魔素も普通に存在してますし、使った側から補充されてるというか、常に一定量が保たれてるんすよね。不思議なことに」

 ん? ちょっと待てよ? 異空間からの転移?

「ヤス君、今気づいたんだけどさ、それって要は【天眼芯】を元の世界に持ち込めば、全員帰ることもできるってことだよね?」

 フィルとサクちゃんが目を見開いて「えー⁉」「何だと⁉」と驚愕の声を上げる。その反応に、ヤス君は嘲笑するように鼻を鳴らした。

「元の世界に持ち込む方法がないから皆ここにいるんじゃないっすか」

「あ、そうか。ちょっとユーゴ! 驚かせないでよ!」

「そうだぞ。ちょっと期待したじゃないか」

「いや、違うんだよ。俺が言ったのはそういうことじゃなくて、魔素溜まりの魔物に向かって【天眼芯】を投げ込めばさ、罠を通過して運良くあっちに届くかもしれないなと」

 一回では無理だろうが、探知が可能なのであれば、届いたかどうかの判断もできるので、何度か繰り返す価値はあるのではないかと俺は続ける。

「もし成功すれば、帰れるんじゃないかって思ったんだよ」

 沈黙が訪れる。ヤス君が顎に手を遣り、サクちゃんは腕組みして唸り、フィルは小首を捻って上を向く。そんなになるようなこと言ってないと思うが。

「それが【異空収納】や【箱庭】と同様のものと考えた場合は、【天眼芯】が消失してしまいますけど……。でも必ずしも同じものとは言えませんね。確かに通過さえさせることができれば帰還は可能か。考えもしなかったっす」

「ユーゴってこういうとこあるよな。発想が奇抜というか天才肌というか」

「多分、色々とズレてるんだよ。頭おかしいもん」

「フィルよ、それは悪口だ。ヤス君のときとは偉い違いだがもういいよ。取り敢えず、やることやろう」

 会話をしつつ、俺たちは四十一階層に降りた。

 サクちゃんは大丈夫だと言ったが、損壊した装備で下層を進むのは危険だと判断。

 多数決で脱出が決まり、俺たちはまた四十層に戻り、転移装置を使って街に戻った。
 
 
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