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ウェズリーの街編
7.成長する賢人(2)
しおりを挟むフィルが口を尖らせて言葉を続ける。
「君たちと違ってさ、僕は壁を超えられない。教えられた通りにやってみても、ユーゴの【陰陽盾】もヤスヒトの【箱庭】も、皆が使える念動力でさえ使えない。元々、本を読むのは好きだったけど、今は必死だよ。このパーティーでは知識でしか居場所が見つけられないんだから」
言われてみれば、ダンジョンの魔物に関する知識はすべてフィル頼み。どの階層に何が出るか、名前や適正階級までほとんど答えられなかったことはない。ダンジョン外ではポイズナプリーとスパイキークラブを知らなかったくらいで、ほぼ網羅していると言ってもいい。
それに加えて素材の価値まで知っている。【異空収納】に収めるべきかどうかの判断はフィルがいないとまずできない。
魔石にしか価値がないものや、羽根などの一部分にしか使い道がないものなど、知らなければ無駄に容量を圧迫してしまうだろう。
冒険者ギルドで買い取りに出したとき、儲けが大きくなっているのはフィルの指示で無駄が省かれているところにあるという訳だ。
「読書家だとは思ってたけど、そんなこと考えてたのか」
「そりゃそうだよ。僕が一番追い出される可能性が大きいんだから」
それはない。と言おうとしたところで、部屋の扉が控え目に三度ノックされた。
フィルが立とうとするのを手で制し、俺が枕元に浮かべた【光球】の明度を上げて扉の前に行く。
ついでにステボで時刻を表示。午後十時。こんな時間に部屋を訪れられたことは今まで一度もないので少し緊張する。
「起きてますー?」
「ああ、ヤス君か」
誰何する前に呼び掛けられ、声でヤス君だと分かった。
ホッとしながら扉を開けると、サクちゃんと二人で立っていた。ヤス君は苦笑していて、サクちゃんは難しい顔をしている。何かあったのだろうか。
「どうしたの? 珍しいね、こんな時間に」
「いや、ちょっと話がありまして」
取り敢えず中に入ってもらうと、フィルが半身を起こして手で示し、隣にヤス君を座らせた。俺も同じく手で示し、自分のベッドにサクちゃんと並んで座った。
フィルが枕元に浮かべている【光球】の明度を上げる。二つの光で部屋は昼間のように明るくなる。全員の顔がはっきりと見えた。
ヤス君が「えー」と困ったような顔で後頭部を掻きながら、口を開く。
「サクやんにはもう話したんすけど、明日のダンジョンで行けるとこまで行ったら、俺はパーティーを抜けます」
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