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カナン大平原編

33.カナン大平原を越えよう(33)

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 んー、あとひと押しといったところかね?

「そうは言ってもねー。俺たちだって暇じゃないでしょ? 【箱庭】の中は空にしておきたいし、承諾してもらわなきゃ、結局全員極刑になるんだから、この場で殺したって一緒じゃない。無駄は極力省かないと。時間が勿体もったいない」

「確かにな。もう選択肢は提示した。前者を選ぶなら全員この場で殺せばいいだけだからな。破格の条件だと思うんだが、信じないことにはしょうがないよな」

 サクちゃんも俺の演技に乗ってきた。目配せがあったので間違いない。いつぞやのフィルのように、とても悪い顔をしている。

「ま、待て!」

 ローガが初めて焦ったような顔を見せた。

「まずは俺を殺せ。他の連中は後にしろ。命乞いしたら助けてやれ」

「え、命令? いや、あのさ、自分の立場分かってる?」

「こいつは駄目だな。話にならん。ヤスヒト、連れてきてくれ。俺がやる」

「ま、待て、待ってくれ! 頼む! 頼むから俺を先に殺してくれ!」

 ローガが必死さを感じさせる口調で言う。

 何だろうかこの不快感は。凄くイライラする。心からの願いなのは間違いないだろうが、こちらの同情心を誘っているようにも感じられる。

 ああ、そうか。こいつは――。

「お前、いい加減にしろよ」

 俺はサクちゃんを軽く退けてひざまずき、ローガと目線を合わせる。

「顔に書いてあるんだよ。『もう嫌だ。俺の所為で人が死ぬのは見たくない。俺がいるからこんなことになるんだ。俺なんかいなきゃいいんだ。誰でもいいから殺してください』ってな。なぁローガ、お前、母親に救われたとき何て言われた?」

 ローガが困惑したような素振そぶりを見せ、呼吸を荒くする。

「『生きろ』。そう言われたんだろ? お前はそれに従ったに過ぎない。お前が呼び込んだ災いなんて何一つない。周りが勝手にお前をそうなるように仕向けただけだ! お前は忌み子なんかじゃない。ただのまともな男なんだよ!」

「ち、違う。俺は、俺は母親を食った忌み子だ。おやっさんや、おばさんまで死なせちまった。俺が死ねば、皆はーー」

「お前が死んだら、皆死ぬぞ? 皆がお前の後を追うぞ?」

「そうだ。お前は大切に思われてる。だからあいつらも一緒にいるんだ。仲間なんだろう? ならお前が助けなくてどうする」

「ローガの他には誰も助けられないっすよ? あと、死にたがりはもういいんじゃないっすかね?」

「そうだよ。君が死ぬ必要なんて、まったくないんだからね?」

 ローガは泣きそうな顔で俺を見つめる。

 目に涙が溜まって、溢れる。

「生きろよローガ。お前がまともに生きれる場所を俺が用意してやるから。生きろ。仲間と一緒に」

「生きて、いいのか……? 俺は……?」

 俺は「ああ」と首肯する。

「生きてサッカーでもすればいい。いや、野球の方が良いか。控えも取れる人数だ。スポーツは楽しいぞ。色々と発散できる」

「なんだか締まらんな」

「ユーゴさんらしいんじゃないっすか?」

「馬鹿だよねー。黙って頷いて終われば良いのにさ」

 酷い言われようだが、なにはともあれ懐柔かいじゅうは完了した。
 
 
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