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カナン大平原編

30.カナン大平原を越えよう(30)

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 あ、ローガだ。と思ったとき、ローガはこちらに視線を向けた。そして目があった瞬間、なんと俺に手を向けて火球を放ってきた。

「【陰盾インジュン】!」

 別に詠唱する必要はないのだが、こっそり考えていた名前を口に出したかった。吸収する方の異空盾。飛んできた火球をバチッと防ぎ消滅させる。

 ローガは落下しながら驚愕の表情を浮かべたが、器用にも体を素早く回転させて床に四つん這いで着地した。

 俺は驚嘆した。なんて凄まじい身体能力だ。【過冷却水球】を踏み抜いていなかったら、もっと驚いていただろう。

「手前ぇ、なんだ今の、お、おお、おわああああ」

 ローガが俺を睨みつけて喋っている間に、その両手足はしっかりと凍りついていた。四つん這いで着地なんかするからじたばたすることになる。

 気の毒だが、その状態では体育座りの氷結拘束は難しいので放置した。床に這いつくばって起き上がってを繰り返してもらうことにする。火球の仕返しだ。

 ローガに火球を何度か撃たれたが、今度は排出する方の異空盾である【陽盾ヨウジュン】で掻き消した。

 二発同時の場合は【陰盾】と【陽盾】を同時に扱い掻き消す。面倒なので意識を刈り取りたいのだが、下手に近づくとヘマをしそうなので、我慢した。

 こっちで失敗して追い詰められても、二十四人すべてが落ちてくるまで頼れる仲間は入ってこない。ヤス君に確認が必要かと問われたときに、必要ないと俺が言ったからだ。

 だが甘く見ていたと少し後悔。

 ヒヤリハットを一年分書けそうだなこりゃ!

 ローガは氷で滑る犬のような間抜けな状態でも、しっかり火球を飛ばしてくる。それを躱しつつ他も色々しなきゃいけないなんて繁忙期でクソ忙しいときの脳汁噴出状態に近くなってくる。

 ええい、そんなに優秀じゃないんだ俺は!

 いい加減、ローガがぎゃあぎゃあうるさいので口を塞いだ。鼻も半分塞がったが、それは暴れるからだ。こっちは位置の調整をしている。責任はない。

 そのまま酸欠で意識を失ってくれると楽なんだけどなー。

 そんなことを心で呟きつつ、二十人目をこなしているとき、ローガの周囲にピンポン玉サイズの炎の球が大量に出現した。

 気づいた時点で次々に飛んでくる。

「うあっつ!」

 初撃と、途中で幾つか食らった。どうにか籠手こてで防ぐことはできたが肝が冷えた。

 軽く殴られた程度の衝撃なので、一発食らうくらいなら問題ない。ただ、分かっただけで十発は飛んできた。こんなものを捌きながらあと四人はきつい。

 うわー、これは失敗したかも。先にローガの意識を奪った方がいいかな?

 思案中に、二十一人目が降ってくる。【過冷却水球】を置いたが、ローガがまた細かい火球を連射して、作った側から破壊していく。

 あちこちで水が飛散して凍りつく。大小様々な氷礫が床の上を跳ねて滑る。

「ああーもう! 鬱陶うっとうしいー!」

 生成速度も連射速度もローガの方が上。数は十六発。やっと確認できた。

 撃ち尽くすと再度補填するまでは発射できないようなのと、撃ち始めると方向を転換するのが難しいようで、初撃をかわすとかなりデタラメな方向に飛ぶ。

 幸運だったのは、二十一人目を倒したのがローガの火球連射だったこと。【過冷却水球】を壊されて焦ったが、降ってきた仲間に火球を連続で直撃させて、すっ転ばせてくれたのだ。

 それをやらかしたとき、ローガは硬直し目を点にしていた。

 思わず含み笑い。やべぇ、めっちゃ睨んできた。

 非常に面倒臭いローガの攻撃を躱したり防いだりしながら、二十一人目と二十二人目を拘束。

 二十二人目は風術を放ってきた。【風刃】だ。早いし薄いし見えづらいのでこちらも厄介。【氷塊】を念動力で飛ばして顎に当て、なんとか意識を刈り取る。

 ホッと僅かに息を漏らしたとき、ローガが仲間に火球を撃ち始めた。

「氷は溶けないぞー」

 忠告してやったが、目が小馬鹿にしたように歪んだ。笑っている、ということは、氷を溶かすのが目的ではなく目を覚まさせようとしてるのだと覚る。
 
 
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