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カナン大平原編

26.カナン大平原を越えよう(26)

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「はーい、話を続けるよ。現状、俺たちが最も必要としているのは戦力だよね。魔物化騒ぎに、ひいてはラグナス帝国の謀略ぼうりゃくに対抗する手駒が一つでも多く欲しいと望んでる。早い話が、そこにローガたちを加えるってこと」

「おお、その手があるか。いや、でも罪はどうするんだ?」

「命の危険を伴うような仕事をさせることを条件に、エドワードさんに頼んで不問にしてもらう」

 ローガは死に場所を求め、連れのワブ族の若者も自暴自棄になっている。危険は望むところだと思う。

「とはいえ、貴重な戦力だからね。簡単に死なないように鍛練は思いっきりしてもらうつもりだけども」

「双方のニーズに合う上、見ようによっては罰を受けてる形になりますからね。貢献で償いにもなるし。俺も同じこと考えてました。で、冒険者ギルドの討伐依頼はジオさんに取り下げてもらうか、完了扱いにしてもらうかするんすね?」

 俺は「そういうこと」とヤス君を指差して言葉を続ける。

「できれば討伐扱いが望ましいね。死んだことにしてもらいたいから。それで新たな身分を用意してもらって、ローガ以外の身元の引き受けはサイガさんとヒューガさんにお願いしようと思ってる」

 元がまともなのが環境でおかしくなっている感じなので、環境次第じゃまた更生するだろう。仮に駄目だったとしても、サイガさんたちにしばかれて終わりだから心配もない。

「で、ローガは兄妹に任せる。一番の癒しになるだろうからね」

 デネブさんが「英雄様……!」と呟いて目を潤ませる。アープは両手を組んで膝立ちになり、満面の笑顔で目を輝かせる。「はいそこ、尻尾で絨毯を叩かない。埃が立つからね」と注意したところでサクちゃんが腕組みし、軽く息を吐く。

「パイラブ村でも思ったが、ユーゴは本当に知恵が働くな」

「サクヤ、よく恥ずかしげもなくその村の名前を口にできるね」

「ぐっ、仕方ないだろ。そういう名前なんだから。名前ってのは呼ぶ為にあるんだ。文句はビルさんに言うのが筋だ」

「間違ってもミヅキさんの前では言っちゃ駄目っすよー。どうしてもってときは開拓村とかスパイキークラブの村って略さず言うのをお勧めします。普通に引くんで」

「あー! そういや俺、リンドウさんとこにスパイキークラブのお土産渡してないや! うわー、すっかり忘れてたよ!」

 不意に頭を殴られたような気分。【異空収納】内にはどれだけあったろうか。確認すると、まだ二十匹はあった。お土産にするには十分な数だろう。ホッと一安心。

「ユーゴ、話が変わってるよー」

「ああ、ごめん。えー、それでね、ローガ一味がいなくなることで、ほぼワブ族は存続不可になる。だから、ユオ族の中で風習を気にしない人たちを移住させるってのはどう?」

 アープとデネブさんが目を見開いて顔を見合わせる。そして難しい顔をした。何か問題があるのか訊くと、あちらの生き残りはユオ族に対し恨みを抱いているとのこと。

「そりゃ当然っすね」

 ヤス君が呆れたように鼻で笑う。

「セイオは部族間に嫌なもんを残しましたよね」

「一人が馬鹿をやるとすべてが嫌われるってやつだな」

「でも十人くらいしか住んでないんでしょ? ローガたちがいなくなったら、今度はそっちが野盗や魔物に襲われちゃったりするんじゃない?」

「あのね、君たち、そういうのごちゃごちゃ考えなくて良いの。デネブさんはもう移住者募っちゃってください。そんでもう、移住しちゃってください」

 デネブさんが「は、はぁ」と納得いかない様子。

 ええい面倒臭い。話が進まん。

「あっちにしたところで、背に腹は代えられんのですよ。こっちにも風習やら毛の色やらで出て行きたがってるのがいるでしょうし、とっとと進めてください」

「わ、分かりました」

 デネブさんが頭を下げる。ヤス君が肩を竦めた。

「強引っすけど、それが一番っすよね。ユオ族に招き入れるって方が難しいでしょうし。それで、予言と絡ませるって話はどうなってるんです?」

「それなんだけどねー……」

 昨晩デネブさんが『血の憎悪を断ち切る』と言ったことがどうにも引っ掛かった。確か予言では『血の憎悪を打ち払う』と言っていたはずなのに。何故、違う表現が出たのか。

「『断ち切る』って聞いて、俺の頭には『縁』って文字が浮かんだんだよ。これがね、何らかのメッセージなのかなと。それで『打ち払う』って表現もさ、殺すってイメージとは結びつきにくいでしょ? どっちかって言うと『追い払う』って感じじゃない?」
 
 なんとなく、言葉を組み合わせることで最良が導き出される気がしたことを話す。

「つまりね、ローガ一味、アープ、デネブさんの三人、ワブ族の生き残りも希望者がいればそれも含めて、カナン大平原と『縁を断ち切り』、土地から『追い払う』ことで、すべて解決できるなと思った訳だ」
 
 
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