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カナン大平原編
20.カナン大平原を越えよう(20)
しおりを挟む「ローガは、元はユオ族の者だったのです」
驚いたことに、ローガはデネブさんの双子の弟だった。デネブさんが薄く青みがかった毛色だったのに対し、ローガは暗く濁った赤い毛色で生まれてきたという。
青を神聖視するユオ族では、ローガは不吉を呼ぶ忌み子とされる。
デネブさんの父は族長ではなく、風習にこだわる人でもなかった。産婆をしたのも父方の祖母で、家族は皆、差別を嫌う心優しい穏やかな人たちだったという。
「当時の族長セイオは風習にとにかくこだわる男で、選民思想というのでしょうか。『青くなければユオではない』と毛色に青みがない同族を蔑み、虐げる奴でした。それが分かっていたから、ローガは家族に隠されていたのです」
だが、それから六年後の冬、アープが生まれたときに悲劇は起きた。
「話は、生まれたばかりのアープをセイオが殺そうとしたところから始まります。おそらく、部族で最も青く美しい毛色を持った者が現れたことが許せなかったのでしょう。あるいは、焦りか。自身の地位を守る為にやったのだと思います」
「何だよそれ! クズじゃないか!」
「最低最悪なクソ野郎だな!」
「まったくだ! 万死に値する!」
話に聞き入っていた俺たちはセイオに対して痛烈な批判を行った。スタジアムでスポーツ観戦しているときに、応援しているチームの選手がラフプレーを食らったときのような雰囲気に、アープもデネブさんも少し呆気に取られたようだ。
「デネブさん、固まってないで早く続きをお願いします!」
「あ、はい。セイオは、秘密裏にアープを殺そうとしていた為に、俺たち家族を外におびき出しました。そして凶行に及ぼうとしたのですが」
俺は「分かった!」と膝を叩いてデネブさんを指差す。
「ローガがセイオを殺した!」
「いえ、そうではなく」
デネブさんが否定した直後、フィルが「はい!」と勢いよく挙手する。
「異変に気づいてお父さんが家に飛び込んだ!」
「いえ、違います」
今度はサクちゃんが自信なさげに小さく挙手する。
「ローガがアープを抱えて外に出た?」
「あ、惜しいです」
クイズ大会か! と、俺が心でツッコむくらいには場が熱くなったのだが、デネブさんは普段から惚けたアープを相手にしている為か、俺たちの馬鹿な行動にも大した反応は見せず、すんなりと話に戻った。
「ローガはアープを抱えて大声で助けを求めました。それで家の中に俺たち家族が入ったのですが、その後、セイオの言い分の方を皆は信じたのです」
そういうことか。
「セイオは『忌み子がアープを殺そうとしていた』って言った訳ね」
「はい。そんな訳がないと、俺たち家族はセイオを責め立てました。ですが『何故ここに忌み子がいる。貴様らは災いを招く者を隠していたな』というセイオの言葉一つで、ユオ族のほとんどが俺たちの敵に回ったのです……!」
デネブさんが歯を食いしばって俯く。拳を床に軽く打ちつけた。
「俺たち家族は、どうにかローガを逃しました。ですがセイオは止まりませんでした。たった六歳の子供を、散々痛めつけ、罵声を浴びせ、逃げざるを得ない状況に追い込み、それでも飽き足らず、あの人でなしは追手まで差し向けました。『忌み子はいつか災いをもたらす。息の根を止めよ』と、そう言って」
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