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海辺の開拓村編
33.そこで略すと危ないけど皆喜んでるからいいか(5)
しおりを挟む「はい、また罪が増えましたね。冒険者ギルド職員への暴行教唆、国民への暴行教唆も罪状に加えます。それとこれは至極当然の話ですが、あなたが今しようとしたことは、私にも今すぐできるんですよ? それはお分かりですか?」
「な、何を言っとる?」
「お分かりになりませんか? 私一人であなたたちを皆殺しにできると言っているんです。ただそれではこの場の皆さんの気も晴れないでしょうから、そうですねぇ。両手足を折って、裸にひん剥いてスパイキークラブの前に置き去りにしましょうか」
偽衛兵の一人が逃げ出そうとしたが、狂気の獣と化したミチルさんの餌食になった。激しい衝撃音を放って消えてしまう。あれはどこまで飛んでいくのだろう。
俺は怖ろしさのあまり身動きができない。ヤス君とサクちゃんも同じく。フィルに至ってはガタガタと震えている。ミチルという名の恐怖が場を支配していた。
「か、金を――」
「贈賄罪も加えます。極刑に近づいてますが、まだ馬鹿を続けますか?」
ミチルさんの横顔が怖ろしい。まるで悪魔のようだ。
偽衛兵は既に武器を捨て始めていた。村長もそれを目にして諦めがついたのか、がくりと項垂れて床に崩れ落ちた。
それを確認したミチルさんが村人たちに向き直る。ヒィッと短い悲鳴が上がるが、無理もないだろう。この人こんなに強いのか。
「それでは、皆さんにお伝えします」
ミチルさんが制服のポケットから手紙を取り出し読み始めた。
『まずは謝罪させて欲しい。惨状を知りながら、これまで救うことができずに申し訳なかった。心から詫びる。
当地の開拓はアルネス領主である私エドワード・マクレーンが五年前に発案計画したもので、本来であれば、アルネスの事業として行う予定だった。
だが四年前、新王の命により領地を接収され、王国政府に開拓事業ごと奪われる形となった。
これは言い訳になるが、進言が通らず、王命を突き通されたが故に従わざるを得なかったこともまた伝えておく。
自領ではないゆえ、手を拱くこととなったが、今回の一件を期に王国政府の管理が杜撰であったことを徹底糾弾する気概でいる。
堪え忍んでくれたその忍耐に見合うだけの賠償金を国庫から必ず毟り取り、自領として取り戻すことを約束する。
その間、当地への代官派遣はない故、アルネス領主権限で村民内から村長を立てることを許す』
「以上です。また追って通達があると思います。あと、領主様から新たな門出のお祝いとしてこの村の改名も許されています。皆さんでお決めになって頂いて結構とのことですよ」
「だ、代官が来ない? 村長を立てることを許すって」
「ビルさん! ビルさんがこの村の村長だ!」
村人たちは歓声を上げ、ビルさんを胴上げした。わっしょいわっしょいの掛け声と共に、高く上がったビルさんのおでこがゴチーンと天井の梁に衝突。村人たちは手を叩いての大爆笑。
ビルさんもおでこを撫でつつ泣いて喜んでいた。痛いのか嬉しいのか。あれは絶対こぶができただろう。
渡り人組も村人たちから怒涛の如く感謝を受けることになったが、事故を目撃した後なのでわっしょいは断った。
ただ、気持ちを無碍にするのは申し訳ないので、ビルさんのおでこを回復してあげた。二回目のゴチーンで村人たちが大喜びしてくれたので何よりだ。
さて、新村長となったビルさんの最初の仕事は村の改名。俺たちもその歴史的瞬間に立ち会うことになったのだが、ビルさんの発した言葉は「パイラブ村」だった。
村人たちが大歓声を上げ、あちこちで村の名前が叫ばれた。その異様な状況下に置かれた俺たち部外者組は言葉を失い立ち尽くしたが、俺は心の中でこう思っていた。
そこで略すと危ないけど、皆喜んでるからいいか、と。
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