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海辺の開拓村編
32.そこで略すと危ないけど皆喜んでるからいいか(4)
しおりを挟む「来るのはエドワードさんかジオさんだと思ってたんすけど」
「俺も。なんでミチルさんなんだろ?」
「なぁ、何がどうなってるんだ? いい加減教えてくれよ」
仲間外れにされた子供のような顔で訊くサクちゃんに、俺は苦笑しつつ答える。
「衛兵はエドワードさんが出した兵じゃないってこと。どっかのゴロツキを金で雇って、板金鎧を着せてるだけの偽物だよ。村長は嘘に嘘を重ねまくってんのさ」
「ビルさんを反乱の首謀者に仕立て上げて、他の村人を言いくるめるつもりだったんじゃないすかね? 罪に問わないとか、水に流すとか言って。宿場町のゴロツキと同じで、武力で抑え込んで、恫喝して従わせようって魂胆っすよ」
「それ大丈夫か? なんか、相当危ない橋を渡ってるように聞こえるんだが」
だから馬鹿だって言ってるでしょ、と俺とヤス君の声が揃ったところで小声会議終了。フィルとミチルさんが歩み寄ってきていた。
「おかえりフィル。最近連絡なかったから心配してたんだぞ? 元気にしてたか?」
「あーごめん。最近仕事が立て込んでてさー。じゃないよ! 我が子を迎える親の言い回しやめろ! 里帰りか!」
渡り人組が「おおー」と拍手で歓迎する。
「まったく、帰ってきた途端にツッコませないでよ。ジオさんとエドワードさんにも話してきたよ」
「あの、ミチルさんはどうしてここに?」
ヤス君が訊ねると、ミチルさんがにっこりと笑って四方に一礼した。
「皆さん、お疲れさまです。今回、こちらにいるアイアン階級の冒険者であるフィル君から報告を受けて、冒険者ギルド規定違反の調査確認の為に参りました。アルネス冒険者ギルド、サブマスターのミチル・コムラと申します。それで、どなたが依頼主かは分かりますか?」
サブマスター⁉ なんか出世してる⁉
「あ、あいつです!」
俺が混乱してる間にビルさんが村長を指差す。すると村人たちが一斉に村長を指差し同調した。それに合わせて責め立てる声が上がり、集会所は騒然とする。
俺はミチルさんのサブマスター宣言が聞き間違いだったのではないかと悶々としていたが、村長の怒鳴り声で我に返った。
「黙れ黙れ黙れっ! 黙らんかっ! おいっ! そこの女っ! よく聞けっ! わしはっ国王陛下からっ直接この地の代官を任じられて――」
「うるさーい!」
ミチルさんが物凄い大声を出した。場が静まり返る。
「冒険者ギルドの罰則に貴賤の差はありません! これは王国法に基づいてますからね! 貴方がどこの誰であろうが、しっかりと罰は受けてもらいます!」
「ぐ、ぐ、おい衛兵! この女を殺せ! いや、皆殺しにしろっ!」
村長の怒鳴り声が響いた直後、偽衛兵たちが武器を構えて襲い掛かってきた。
だが、真っ先にミチルさんを狙って襲い掛かった一人が車の衝突事故のような音を放って一瞬で姿を消すと、集会所はまた静まり返った。
皆、立ち尽くしていた。俺も目を疑った。ミチルさんが偽衛兵を殴ったのは分かった。だがその後が信じられない。
偽衛兵が集会所の壁を突き破って飛んでいってしまったのだ。
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