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海辺の開拓村編

30.そこで略すと危ないけど皆喜んでるからいいか(2)

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 という訳で、ある程度スパイキークラブの捕獲が済んだところで村人たちを集会所に集め、スパイキークラブの対処方法について話し合ってもらった。

 村人たちによれば、これまでは見掛けたら刺激せずにその場を離れるという方法が取られていたらしい。

 追い払う、あるいは駆除する際は自己責任とのお達しが村長からあった為、率先して行う者がいなかったとのこと。

 また対処の為に冒険者に依頼が出されているという情報があったことも、自発的な行動に移れなかった原因として上げられた。

 そして一番の理由は、用途がないこと。人は金にもならないただ危険な害虫のために自分の命を賭けたりはしないのだ。

 だから相手にしなかった。見て見ぬ振りをし続けてきた。だがそれも今日で終わりだ。

 海鮮王に、スパイキークラブはなる。ありったけの金を掻き集めてくれるこの村の名産品になってくれるはずだ。

 そんな思いを胸に、俺は塩茹でしたスパイキークラブを集会所に集まった村人たちに振る舞っていた。

 最初は怪訝な表情を浮かべていた村人たちだったが、ビルさんとアニーが大喜びで食べている姿を見て、一人、また一人と口にし大絶賛。全員が食べ終える頃にはスパイキークラブは生活を支える食材として認知され、一躍脚光を浴びていた。

「うんめぇー! こりゃ売れるぞ!」

「スパイキークラブが出てる期間は村を漁場にすんべ!」

「魔石もあるんやろー、尚ええな!」

「いんやー、ビルさんのお陰だなこりゃ!」

 誰からともなくビルさんコールが始まった。ビルさんは照れ笑いして頭を掻き、アニーはそんな父の姿を見て、笑顔で友達と飛び跳ねている。

「なんだかこっちまで嬉しくなるね」

 俺の呟きに、サクちゃんとヤス君が「だな」「そっすね」と微笑んで首肯した。俺たち渡り人組は、少し離れた場所で村人たちを眺めつつ、小さなハイタッチを交わす。取り敢えず、ここまでは計画通り。頑張った甲斐があったってもんだ。

「あとは村長がどういった行動に出てくるか、だな」

「とはいっても、今日明日の話じゃないっすからね」

「うん、俺たちはもう帰るし、たまに様子を見に来なきゃいけないね」

「浅はかなことする馬鹿なら助かるんっすけどね。あれ? 何か来ますね」

「へ? 何かって何? 探知してたの?」

 一抹いちまつの不安を抱えたまま解散の挨拶まで進んだのだが、招かれざる客が現れた。集会所の扉が乱暴に開け放たれ、その音で出入口に視線が集中する。

 そこには高級感のある服に身を包んだ、よく肥えた小柄な男性が立っていた。

「貴様らっ! これは何の騒ぎだっ!」

 その中年と思しき男は、シュールレアリスム画家のような口髭を摘み撫でながら、目を三角にして怒鳴った。場が静寂に包まれる。

 ふと、村長、と誰かが囁いた。

 村長⁉

「ハ、ハハ、馬鹿でしたね」

 ヤス君が引きった半笑いで呟く。俺は驚きのあまり絶句してしまった。

 いや、油断は禁物だ。そんな奴はいないだろう。

 まさか昨日の今日で王都にまで話が届く訳がない。転移術で届けたとしても話がまとまる訳がない。エドワードさんとの交渉もこれほど早く済むとは思えない。

 となれば奥の手がある。そう見るべきだ。

 これまでの熱気が嘘のように鎮まり、集会所は狼狽うろたえた村人たちの僅かなざわめきが残るだけとなる。

 だが、怒りをあらわにした様子の村長に対し、負けじと言い返す者たちもいた。ビルさんと一緒に行動していた士気の高い三人だ。

何処どこに行ってやがったこの野郎!」

「お前がやってたこたぁ、もう皆知ってんだからな!」

「散々俺たちのこと馬鹿にしやがって! 帰れこの詐欺師が!」

 たった三人の怒号ではあったが、その熱意は本物。村人たちにまた火が点いた。集会所に熱気が戻り、あちこちで激しい糾弾の声が上がり始める。

「やかましいっ! この反乱者共がっ!」

 村長が叫ぶと、わらわらと衛兵隊が集会所の中に入ってきた。

「衛兵⁉ エドワードさんが動かしたのか⁉」

「いや、違いますね。雰囲気が全然」

「あー、ヤス君が言うなら間違いないね。本当にただの馬鹿だったんだ……」

 俺は落胆して状況を静観した。困惑の波に飲まれつつある村人たち。衛兵隊はその周囲をぐるりと取り囲む。

 村長は偉そうにり返って歩きながら、悪どそうな顔つきを更に醜悪しゅうあくに歪め、ふところから一枚の紙を取り出してかかげた。
 
 
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