158 / 409
海辺の開拓村編
29.そこで略すと危ないけど皆喜んでるからいいか(1)
しおりを挟むザザ村に戻り、仲間と合流した俺は、予想していたよりも順調にことが進んでいたことに驚かされた。
少なからず反発や衝突は起こると思っていたのだが、村人たちは急に現れた余所者の指示にも素直に従ってくれていた。ヤス君によると、彼らは最初から協力的だったそうだ。
これはやはり、昨日ビルさんが熱意を持って訴えてくれたのが大きいだろう。今朝も村人たちに呼び掛けて、どんな作業も率先してやってくれたらしい。お陰で午前中はトラブルもなく、指導は円滑に進んだとのこと。
村人が主体になってワイワイ行われているスパイキークラブの捕獲を手伝いながらそんな話を聞いていたのだが、俺の頼れる仲間二人とビルさん含む数人の村人たちの表情はあまり宜しくない。
何か懸念材料があったようだと覚り、どうしたのか訊ねてみると、ヤス君が腕組みして「うーん」と唸った。
「見ての通り、上手くいってはいるんですけど、一つ問題があるんすよ」
問題? と訊き返すと、昨夜から村長とその取り巻きの姿が見えないという返答があった。
「行方をくらましたと見るべきだろうな」
「すいません。私も村人への周知にばかり気を取られて……」
「いえ、ビルさんの所為じゃありませんよ。俺が考えておくべきでした」
申し訳なさそうに頭を下げるビルさんに言い、今できることについて話す。
「姿が見えないってことは、今頃はどこかで悪巧みしていると思います。それが済めば、間違いなく何らかの行動に出てくるでしょう。現状、ビルさんがこの村のリーダーとして認められているように見えますんで、武力行使があった場合の対応を村人たちと相談しておいてください」
ビルさんは「分かりました!」と力強く頷き、近くにいた見るからに士気の高い村人三人に声を掛けて、俺たちの側を離れた。
「ユーゴ、村長はどう出ると思う?」
「分からないけど、すんなり引き下がりはしないだろうね」
「大方、助けを求めに行ったってところでしょうけど、厄介な話になりそうっすね。俺も今朝聞いて驚いたんすけど、ここはアルネス領じゃないらしいんすよ」
「え⁉ 違うの⁉」
「俺も驚いたが、違うらしい。王国政府直轄地だそうだ」
寝耳に水。それは考えていなかった。エドワードさんが手を出してない時点でそういう可能性があると気づくべきだった。少し早まった気がする。
「もしかして、これって反逆罪とかに問われるやつじゃない?」
「まぁ、よく分からんが、代官を追い出したならそうなるだろうな」
「そこっすよね。自分から逃げ出しておいて、村人が反乱を起こしたなんて喚かれてそうっす。王国政府側も権威の失墜がどうのこうのって村長の悪事の揉み消しやら何やら理不尽なことやってきそうっすよね」
「やっぱそうなるよねー。うわー、これエドワードさんに凄く申し訳ないことしちゃったかもしれないなー。俺の浅慮の所為で、今頃、執務室で溜め息吐いて頭抱えてるかも」
「どうしてだ?」
眉根を寄せるサクちゃんを見て、ヤス君が肩を竦める。
「村長が反乱鎮圧の要請をするとしたら、アルネスの街しかないっすから。エドワードさんは立場的にその要請を受けなきゃまずいでしょ。あんなパツンパツンでも王国公爵なんすから」
「そのパツンパツンがこの村の状況を知っていたとしてもか?」
「知ってるから困るんだよ。要請を蹴って村人の肩を持てば、実はパツンパツンが反乱の首謀者だとか村長に騒ぎ立てられるよ。俺がまずったなーと思ったのは、この村が王国政府の直轄地だってこと。パツンパツンがこの村を自領にしたいが為にやったなんて言われたら目も当てられないよ」
「俺がパツンパツンだったら、引き延ばしが精一杯ってとこっすかね。要請は受けるけど、兵の準備がどうのこうのって理由をつけて時間稼ぎします」
「パツンパツンが引き延ばすのか……ぶふっ」
サクちゃんが噴き出し、顔を伏せて肩を震わす。ヤス君も顔を背けて笑いを堪えている。いじくり倒されたなエドワードさん。この二人、領主をいじくって笑うとは大したもんだ。俺もだけども。
「まぁ、実はエドワードさんに関してはそんなに心配はしてないんだけど、王国政府がどう出るかってところがね。国王が今九歳だし、スミレさんから聞いた話じゃアホの子でしょう? 悪い奴に唆されて、おかしな王命出したりしなきゃいいけど」
それ四年前の話だからな。と、サクちゃんが気休めを言うが、俺はまったく安心できなかった。ヤス君もそうだったようで、軽く鼻で笑っていた。
が、心配したところで何が変わる訳でもない。懸念される部分は打ち出せたのだからそれで十分。卑屈になっても仕方がない。後は俺たちにできることを精一杯やるだけだ。
大丈夫。なんとかなるさ。
0
お気に入りに追加
432
あなたにおすすめの小説
僕、婚約破棄されちゃったよ〜!(仮)
撫羽
ファンタジー
ブリタニア王国のソフィア王女に、突然婚約破棄を告げられた、主人公テティス・マーシア。
前髪が、目の下まで延びていていつも少し猫背で俯き加減。ちょっと頼りない、へなちょこ主人公。
王女であり、愛しの婚約者に婚約破棄されちゃった!
なのに、飄々としている彼。その原因は聖女候補か!? 攻略対象者が出てきたり王子まで出てきたり。
でも、聖女候補には近寄りたくないし巻き込まれたくないけど愛しの元婚約者もなんとかしたい!
何故そうなったのか?
どうやって国を守るのか?
王女と主人公の婚約は?
祖母に鍛えてもらったり、家族総出で調査をしたり、小さなドラゴンに力を借りたり。
頼りない、ヘタレな主人公が、心の中で時々毒を吐きながら、愛しの王女を守ろうと奮闘します。
婚約破棄の物語は、令嬢が婚約破棄されるお話が殆どです。
たまには、男性側が婚約破棄されるお話があっても良いじゃない?しかも、俺様主人公じゃなくて、ヘタレだったら?て、単純なお話です。
細かい設定に拘る方、残虐性を求める方には向きませんので、どうかスルーをお願いします。
なろうで完結済です。
世界最強の魔女は争い事に巻き込まれたくないので!邪竜と無自覚に英雄を育てながらひっそりと暮らしたい
赤羽夕夜
ファンタジー
カーバル皇国の聖女として異世界召喚で呼び寄せられた、絵美(エミリア)は、人間の体には毒であり、魔力の元となる魔素を浄化する力を持っていた。帰る方法もないので、皇国の聖女として日々を過ごしていくうちに魔法の勉強が楽しくなり、次第に魔法への理解を深め、魔法の禁忌に触れてしまう。
禁忌に触れるのは神の存在が現実的である異世界ではタブーとされており、神は理の外にでてしまったエミリアに罰として不老不死の呪いを掛け、この世の終わりまで死ぬことは許さないとされた。その一方である事件が起こった。それはエミリアが召喚されてから5年後のこと。聖女として新たに召喚された美憂(ミーユ)は新しい聖女として迎え入れられ、エミリアの立ち位置も危うくなってしまう。
エミリアはありもしない濡れ衣を着せられ、次第に皇子をはじめとしたミーユの取り巻きに目を付けられ始めた。
毒殺の罪を着せられ、国外追放された、エミリアは森で眠っていたドラゴン(邪竜)と出会う。ドラゴンとは魔素の塊とされ、人々から災厄として恐れられていた。ファフニールと呼ばれるドラゴンはエミリアに敵意を向けたが、事情を聴き同情したファフニールは森に住まうことを許可する――。
無自覚大賢者兼森の魔女が世界から恐れられる邪竜と共に森で暮らしたり、無自覚に英雄を育てライフ、ここに開幕!
※グロ表現、下ネタ等告知なく、記述する場合がありますので、念のため15歳以上設定にさせていただきます。
※なろうでも連載していたものですが、告知なく改稿・修正させていただく場合があります。その際に内容がなろうと相違がでてしまう場合もございますがご了承ください。
転生貴族のスローライフ
松倖 葉
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
【R18】喪失の貴族令嬢 ~手にした愛は破滅への道標~
釈 余白
ファンタジー
権力こそ全て、贅(ぜい)屠(ほふ)るこそ全て、そんな横暴がまかり通るどこかの独裁王国があった。その貴族社会で世間を知らぬまま大切に育てられた令嬢、クラウディア・アリア・ダルチエンは、親の野心のため言われるがままなすがまま生きて来て、ようやく第一王子のタクローシュ・グルタ・ザン・ダマエライトの婚約者へと収まることが出来た。
しかし何かの策略か誰かの計略かによってその地位を剥奪、元第一王子であるアルベルトが事実上幽閉されている闇の森へと追放されてしまう。ほどなくして両親は謀反を企てたとして処刑され家は取り潰し、自身の地位も奴隷へとなり果てる。
なんの苦労もなかった貴族から、優雅な王族となるはずだったクラウディアは、闇の森で生き地獄を味わい精神を崩壊したままただ生きているだけと言う日々を送る。しかしアルベルトの子を授かったことが転機となり彼女の生活は少しずつ変わって行くのだった。
この物語は、愛憎、色欲、怨恨、金満等々、魔物のような様々な感情うごめく王国で起こった出来事を綴ったものです。
※過激な凌辱、残虐シーンが含まれます
苦手な方は閲覧をお控えくださいますようお願いいたします
【完結】中身は男子高校生が全寮制女子魔法学園初等部に入学した
まみ夜
SF
俺の名は、エイミー・ロイエンタール、六歳だ。
女の名前なのに、俺と自称しているのには、訳がある。
魔法学園入学式前日、頭をぶつけたのが原因(と思われていたが、検査で頭を打っていないのがわかり、謎のまま)で、知らない記憶が蘇った。
そこでは、俺は男子高校生で科学文明の恩恵を受けて生活していた。
前世(?)の記憶が蘇った六歳幼女が、二十一世紀初頭の科学知識(高校レベル)を魔法に応用し、産業革命直前のプロイセン王国全寮制女子魔法学園初等部で、この時代にはない『フレンチ・トースト』を流行らせたりして、無双する、のか?
題名のわりに、時代考証、当時の科学技術、常識、魔法システムなどなど、理屈くさいですが、ついてきてください。
【読んで「騙された」にならないための説明】
・ナポレオンに勝つには、どうすればいいのかを検討した結果、「幼女が幼女のままの期間では魔法でもないと無理」だったので、魔法がある世界設定になりました
・主人公はこの世界の住人で、死んでいませんし、転生もしていません。また、チート能力もありません。むしろ、肉体、魔法能力は劣っています。あるのは、知識だけです
・魔法はありますが、万能ではないので、科学技術も(産業革命直前レベルで)発達しています。
表紙イラストは、SOZAI LABより、かえるWORKS様の「フレンチトースト」を使用させていただいております。
二人とも好きじゃあダメなのか?
あさきりゆうた
BL
元格闘家であり、がたいの良さだけがとりえの中年体育教師 梶原一輝は、卒業式の日に、自身の教え子であった二人の男子生徒から告白を受けた。
正面から愛の告白をしてきた二人の男子生徒に対し、梶原一輝も自身の気持ちに正直になり、二人に対し、どちらも好きと告白した!?
※ムキムキもじゃもじゃのおっさん受け、年下責めに需要がありそうなら、後々続きを書いてみたいと思います。
21.03.11
つい、興奮して、日にちをわきまえずに、いやらしい新話を書いてしまいました。
21.05.18
第三話投稿しました。ガチムチなおっさんにメイド服を着させて愛してやりたい、抱きたいと思いました。
23.09.09
表紙をヒロインのおっさんにしました。
社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活
楓
BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。
草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。
露骨な性描写あるのでご注意ください。
ファーストカット!!!異世界に旅立って動画を回します。
蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)
BL
トップ高校生we tuberのまっつんこと軒下 祭(のきした まつり)、17歳。いつものように学校をサボってどんなネタを撮ろうかと考えてみれば、水面に浮かぶ奇妙な扉が現れた。スマホのカメラを回そうと慌てる祭に突然、扉は言葉を発して彼に問い掛ける。
『迷える子羊よ。我の如何なる問いに答えられるか。』
扉に話しかけられ呆然とする祭は何も答えられずにいる。そんな彼に追い打ちをかけるように扉はさらに言葉を発して言い放った。
『答えられぬか…。そのようなお前に試練を授けよう。…自分が如何にここに存在しているのかを。』
すると祭の身体は勝手に動き、扉を超えて進んでいけば…なんとそこは大自然が広がっていた。
カメラを回して祭ははしゃぐ。何故ならば、見たことのない生物が多く賑わっていたのだから。
しかしここで祭のスマホが故障してしまった。修理をしようにもスキルが無い祭ではあるが…そんな彼に今度は青髪の少女に話しかけられた。月のピアスをした少女にときめいて恋に堕ちてしまう祭ではあるが、彼女はスマホを見てから祭とスマホに興味を持ち彼を家に誘ったのである。
もちろん承諾をする祭ではあるがそんな彼は知らなかった…。
ドキドキしながら家で待っていると今度は青髪のチャイナ服の青年が茶を持ってきた。少女かと思って残念がる祭ではあったが彼に礼を言って茶を飲めば…今度は眠くなり気が付けばベットにいて!?
祭の異世界放浪奮闘記がここに始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる