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海辺の開拓村編
26.他人の思いって急いでるとどうでもよくなる(3)
しおりを挟む「お、ええんか? あ、あー、せやな。なら、帰りは任せてくれ。で、急いどるんやったな。何から話したもんか。あ、ユーゴの無属性転移術からやな」
リンドウさんが術についての話を始めた。
術者には周囲に領域があるという。
名称は発動領域。その名の通り、術が発動できる領域で、人によって大きさが違うらしいが、最大でも半径二メートルほどとのこと。
「わしは、五尺あるかないかや。うちで一番広いんはスミレかなぁ。それでも六尺には届かん」
「俺の発動領域が物凄く広いってことは?」
「いや、ないな。三尺三寸くらいに見えた。王国民の平均以下やな」
えぇ……。平均以下って情報入れる必要ある……?
俺は狼狽えそうになるのを、軽い咳払いで誤魔化す。
「そう言われても、俺は目に入る位置ならどこでも発動できてしまうんで」
「それが、無意識に転移術を使とるからや言うとる。ユーゴが近くで術を発生させたときには無属性の魔力を感じんかったが、遠くに出すときは感じたからな」
俺が術を使うときは、無意識に領域内、或いは異空内で発生させたものを転移で飛ばしている。というのがリンドウさんの推測。
「でも俺、リンドウさんみたいに転移はできませんし、そもそも転移って闇属性術ですよね?」
「闇属性の転移術は影を使うから、まったくの別物や。影から影にしか飛べん」
「無属性はそういった制限がないってことですか?」
「分かってない。使えたもんがおらんからな。仮説やと、無属性の転移は【異空収納】と同じで、別の空間を利用すると考えられとる。それで、実は何人も死人が出とる」
ん? んん?
「ちょっと待ってください。死人っていうのは使った人が、いや、えー、使われた場合も、んーすいません詳しくお願いします」
よく分からなくなった俺に、苦笑したリンドウさんが落ち着けと手で示す。
「術者が転移した後、地面の中とか壁の中とか天高くとか、酷いときは人や魔物の中にめり込んで死んだらしいわ。そういう記録がある。ちなみに全部渡り人や」
「記録ってことは、実験ですか?」
「察しがええな。その通りや。昔、ラグナス帝国が渡り人攫って転移術実験をやらせとったんや。けど転移先が定まらんくて、誰一人として術を完成させたもんは出んかった。で、禁術指定や」
禁術扱いになった経緯は、転移先が皇太子の体と被ったことだったらしい。
「見るも無惨な遺体で発見されたらしいで。皇帝が激怒してな、実験の関係者全員と、その一族に至るまで、拷問極刑に処されたんやと。ほんまか嘘か知らんけどな」
話が逸れたな、とリンドウさんが話の筋を戻す前置きをしてから口を開く。
「ユーゴは無属性転移を知らんうちに使うとる。ただ、わしはこれ以上の発展は望んどらんっちゅうことを分かって欲しい。発動領域っちゅう常識を得た今、少しは歯止めになるとは思うんやけどな」
「歯止めとやらの実感はまるでないですけどね? でも無属性転移が危険だってことは理解しましたんで、これ以上発展させる気はないですよ」
これは、本心からの言葉だった。実は俺が無意識に転移術を使っていたと教えられた直後、こっそり術ではなく物にも使えないかと試していた。
だが、できなかった。正確には、無理にやらなかった。
物を転移させるには今の魔力量では足りないという感覚があり躊躇した。
それでも何故か発動できなくはない。という矛盾。
魔力が必要量に満たなくても術の発動は可能。それが分かる。だが、どうしても初めの一歩を踏み出せなかった。
何故なら、頭に転移したブーツがめり込んで死ぬ未来が見えたからだ。
これは初めての感覚だった。言うなれば映像版の警鐘だ。
もしかすると、必要魔力量が足りないのに術を使うという行為には罰則のようなものがあるのかもしれない。
そう推測を立てたところで、帝国の記録の話を思い出してゾッとした。
攫われた渡り人たちもこれを見たのだとしたら、監禁されて絶望した末の自殺だったということになる。
酷い結末が待っていると知った上で転移を行使したってことは、死んだほうがマシだと思うようなことを帝国にされてたんだろうな……。
一体どんなことをされたのか知る由もないが、ろくなことではないだろう。
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