上 下
155 / 409
海辺の開拓村編

26.他人の思いって急いでるとどうでもよくなる(3)

しおりを挟む
 
 
「お、ええんか? あ、あー、せやな。なら、帰りは任せてくれ。で、急いどるんやったな。何から話したもんか。あ、ユーゴの無属性転移術からやな」

 リンドウさんが術についての話を始めた。

 術者には周囲に領域があるという。

 名称は発動領域。その名の通り、術が発動できる領域で、人によって大きさが違うらしいが、最大でも半径二メートルほどとのこと。

「わしは、五尺あるかないかや。うちで一番広いんはスミレかなぁ。それでも六尺には届かん」

「俺の発動領域が物凄く広いってことは?」

「いや、ないな。三尺三寸くらいに見えた。王国民の平均以下やな」

 えぇ……。平均以下って情報入れる必要ある……?

 俺は狼狽うろたえそうになるのを、軽い咳払いで誤魔化す。

「そう言われても、俺は目に入る位置ならどこでも発動できてしまうんで」

「それが、無意識に転移術を使つことるからや言うとる。ユーゴが近くで術を発生させたときには無属性の魔力を感じんかったが、遠くに出すときは感じたからな」

 俺が術を使うときは、無意識に領域内、或いは異空内で発生させたものを転移で飛ばしている。というのがリンドウさんの推測。

「でも俺、リンドウさんみたいに転移はできませんし、そもそも転移って闇属性術ですよね?」

「闇属性の転移術は影を使うから、まったくの別物や。影から影にしか飛べん」

「無属性はそういった制限がないってことですか?」

「分かってない。使えたもんがおらんからな。仮説やと、無属性の転移は【異空収納】と同じで、別の空間を利用すると考えられとる。それで、実は何人も死人が出とる」

 ん? んん?

「ちょっと待ってください。死人っていうのは使った人が、いや、えー、使われた場合も、んーすいません詳しくお願いします」

 よく分からなくなった俺に、苦笑したリンドウさんが落ち着けと手で示す。

「術者が転移した後、地面の中とか壁の中とか天高くとか、酷いときは人や魔物の中にめり込んで死んだらしいわ。そういう記録がある。ちなみに全部渡り人や」

「記録ってことは、実験ですか?」

「察しがええな。その通りや。昔、ラグナス帝国が渡り人さらって転移術実験をやらせとったんや。けど転移先が定まらんくて、誰一人として術を完成させたもんは出んかった。で、禁術指定や」

 禁術扱いになった経緯は、転移先が皇太子の体と被ったことだったらしい。

「見るも無惨な遺体で発見されたらしいで。皇帝が激怒してな、実験の関係者全員と、その一族に至るまで、拷問極刑に処されたんやと。ほんまか嘘か知らんけどな」

 話が逸れたな、とリンドウさんが話の筋を戻す前置きをしてから口を開く。

「ユーゴは無属性転移を知らんうちに使つこうとる。ただ、わしはこれ以上の発展は望んどらんっちゅうことを分かって欲しい。発動領域っちゅう常識を得た今、少しは歯止めになるとは思うんやけどな」

「歯止めとやらの実感はまるでないですけどね? でも無属性転移が危険だってことは理解しましたんで、これ以上発展させる気はないですよ」

 これは、本心からの言葉だった。実は俺が無意識に転移術を使っていたと教えられた直後、こっそり術ではなく物にも使えないかと試していた。

 だが、できなかった。正確には、無理にやらなかった。

 物を転移させるには今の魔力量では足りないという感覚があり躊躇ちゅうちょした。

 それでも何故か発動できなくはない。という矛盾。

 魔力が必要量に満たなくても術の発動は可能。それが分かる。だが、どうしても初めの一歩を踏み出せなかった。

 何故なら、頭に転移したブーツがめり込んで死ぬ未来が見えたからだ。

 これは初めての感覚だった。言うなれば映像版の警鐘だ。

 もしかすると、必要魔力量が足りないのに術を使うという行為には罰則のようなものがあるのかもしれない。

 そう推測を立てたところで、帝国の記録の話を思い出してゾッとした。

 さらわれた渡り人たちもこれを見たのだとしたら、監禁されて絶望した末の自殺だったということになる。

 酷い結末が待っていると知った上で転移を行使したってことは、死んだほうがマシだと思うようなことを帝国にされてたんだろうな……。

 一体どんなことをされたのか知るよしもないが、ろくなことではないだろう。
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界八険伝

AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ! 突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!

異世界はモフモフチートでモフモフパラダイス!

マイきぃ
ファンタジー
池波柔人は中学2年生。14歳の誕生日を迎える直前に交通事故に遭遇し、モフモフだらけの異世界へと転生してしまった。柔人は転生先で【モフった相手の能力を手に入れることのできる】特殊能力を手に入れた。柔人は、この能力を使ってモフモフハーレムを作ることができるのだろうか! ※主人公が突然モヒカンにされたり(一時的)、毛を刈られる表現があります。苦手な方はご注意ください。 モフモフな時に更新します。(更新不定期) ※この作品はフィクションです。実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 カバーイラストのキャラクターは 萌えキャラアバター作成サービス「きゃらふと」で作成しています。  きゃらふとhttp://charaft.com/ 背景 つくx2工房 多重投稿有

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...