148 / 409
海辺の開拓村編
19.物凄く真剣なときほど周りの声がよく聞こえる(1)
しおりを挟むリンドウ邸に着くと、リンドウさんが一家全員を呼び出した。そして再開の挨拶もそこそこに、俺は皆に術を披露する運びになった。
それも、まずは攻撃術を。
「ユーゴ殿たちは、ここで鍛錬していたときも驚かせてくれたからな。どの程度やるようになったか興味がある」
「私もです。勿論、サツキもよね?」
スミレさんに訊かれ、サツキ君が頷く。真っ直ぐな眼差しが眩しい。相変わらずとても良い子だ。
挨拶のとき、深々と頭を下げた後で少しだけ挙動不審だったのは、ヤス君のことを探していたからだろう。
俺に気を遣い、がっかりした様子は見せなかったものの、表情に僅かな寂しさは滲み出ていた。
ウイナちゃんに至っては、挨拶前から寂しげだった。探知で俺一人しかいないことを察していたのだと思う。
サクちゃんに逢いたいという気持ちが伝わってきて、つい感傷的になる。二人の我慢する姿がいじらしく、内面中年の俺は罪悪感めいたものに苛まれる。
サツキ君とウイナちゃんに悪いことしたなぁ。皆で来れば良かったなぁ。
後悔。そして緊張。
苦笑しながら、緊張をほぐす為に深呼吸する。
わざわざ的まで用意してもらったのだ。何の成長もしていないと落胆させるつもりは毛頭ない。驚嘆させてみせる。
気負いがあると自覚。複雑に乱れた心を落ち着かせる為に目を閉じる。
驕るな。
変わっているとか、おかしいとか、それを特別の言い換えだと気づいている自分に言い聞かせる。
自分なんて、大した者じゃない。ここにいる人たちは、一瞬で俺を殺すことができる力を持っている。
ゴブリンにすら殺されるところだった。そんな俺が、勘違いしてはいけない。
肉体が若返ったからか、或いは、無自覚の鬱積があったからか。
承認欲求、いや、ここまでくると自己顕示欲と言っても過言ではないものが胸の内にある。それが煩わしい。そして恥ずかしい。
真剣に心と向き合うと、それだけで身悶えそうになる。
何様だ、俺は。消せないにしても、今は邪魔だ。
集中しろ。集中しなければ、この術が望んだ形で的に届くことは絶対にない。
距離は約十五メートル。近いようで遠い。二十メートルだったら絶対に届かない確信がある。この距離ならギリギリ維持できる……気がする。
イメージは海。駄目だ。あのときの海は波立っていた。
違う。落ち着け。遡れ。
必要なのは、凪だ。
心の海が凪ぐ。そんなイメージ。そうだ、この旅の始まり。
部屋の、水面――。
「いきます」
俺は目を開く。今ならやれる。
手の平に【過冷却水球】を浮かべ、魔力を注いで顔ぐらいの大きさに膨らます。
「水球、か?」
「ほぉ、留めて膨らますか」
「思ったより普通なのじゃ。らしくないのじゃ」
0
お気に入りに追加
434
あなたにおすすめの小説
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜
四乃森 コオ
ファンタジー
勇者によって魔王が討伐されてから千年の時が経ち、人族と魔族による大規模な争いが無くなっていた。
それでも人々は魔族を恐れ、いつ自分たちの生活を壊しに侵攻してくるのかを心配し恐怖していた ───── 。
サーバイン戦闘専門学校にて日々魔法の研鑽を積んでいたスズネは、本日無事に卒業の日を迎えていた。
卒業式で行われる『召喚の儀』にて魔獣を召喚する予定だっのに、何がどうなったのか魔族を統べる魔王クロノを召喚してしまう。
訳も分からず契約してしまったスズネであったが、幼馴染みのミリア、性格に難ありの天才魔法師、身体の頑丈さだけが取り柄のドワーフ、見習い聖騎士などなどたくさんの仲間たちと共に冒険の日々を駆け抜けていく。
そして・・・スズネと魔王クロノ。
この二人の出逢いによって、世界を巻き込む運命の歯車がゆっくりと動き出す。
■毎週月曜と金曜に更新予定です。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる