上 下
147 / 409
海辺の開拓村編

18.千年の恋も冷める娘に嫌われる父のような臭い(2)

しおりを挟む
 
 
 浄化か。

 俺は体にまとわりつく不浄をはらうイメージを思い描く。

 神主のお祓いは違うし、坊さんや神父の説教も違うな。どうにも浄化という言葉に引きられて、明確なイメージを邪魔されている感がある。

 臭気の原因を消滅させるイメージに切り替える。臭いの原因菌を死滅させつつ、人体には一切害を及ぼさない光。

 いや、臭いを発する菌だけじゃなく、ありとあらゆる菌を死滅させる光にしよう。ああ、そうか、殺菌光か。紫外線殺菌装置っていうのがあったな。

 それを頭の中でより都合の良いものに変えていく。人体にまったく悪影響を与えない、強力な殺菌力。

 元々強い光は発さなかったはずだが、強力と念じると想像上の光もまばゆくなったので、その光量を抑える。目を閉じ、思いを術として固める。

 殺菌効果は強く、目に優しい穏やかな光。

 んー、腕を折られたからか、戦って興奮したからか、ちょっと体が熱いな。

 眉間に痛みが走るほどのイメージと集中。得られる実感。これはいける。

 やがて、カチリ、と頭の中で術を掴んだ感覚があった。

 だがまだ完成してはいない。感覚が確かなうちに行使しなければ、折角まとめたものが霧散むさんしてしまう。それが分かる。【過冷却水球】のときも、回復術のときもそうだった。俺はそのまま自分の体を対象に術を行使する。

 ほのかな青い光が全身を包み込む。ひんやりと心地良い。十秒くらい浴びてから、深呼吸。森の清々しい良い香りだけがした。うん、成功だ。

 こちらを見ていたサイネちゃんが目をぱちくりさせて足を止め、リンドウさんは「ん?」と呟いて立ち止まり、何度か空気を嗅ぐように鼻を鳴らす。

 サイネちゃんが、とてとて近づいてきて、俺をくんくん嗅ぐ。

「臭くないのですっ!」

 サイネちゃんが飛びついてくるのを笑顔で受け止める。よしよしと頭を撫でてから、地面に下ろし、手を繋ぐ。

 顔を上げると、リンドウさんが納得いかないというような表情をしていた。フィルで見慣れているのでよく分かる。俺はまたおかしなことをしでかしたらしい。

「ユーゴ、今のは?」

「『浄化』……です」

「違うのです。浄化はもっと光るのです。それに青くもないのですよ」

「もっぺんやってみぃ」

 言われるまま、自分に術を掛ける。今度は手を繋いでいるサイネちゃんまで仄かな青い光に包まれる。

「はぁー、凄いのですぅ。ひんやり涼しいのですぅ」

「ユーゴ、その術、二属性混ざっとるぞ」

「え⁉」

 意識を魔力の変化に向ける。確かに、水属性と光属性が混ざり合っている。

 あー、体が熱いって部分まで反映されたってことか。けどそれは光属性だけだと無理だったから、無意識に水属性を混ぜ込んだってことね。

 魔力を分離してみる。白い光に変わる。水属性だけで試すと、光は放たれずに周囲の温度が下がった。

「これは、今のところユーゴしか使えん術かもしれんな」

「そうなんですか?」

「見たことないのです」

 ありそうなものだが。

「帰ったら、スズランに見せたってくれ。あいつは光水土の三属性持ちやから、使えるかも分からん。あと、もし他にも使える術あったら見せてくれ。どんくらい成長したんか気になるからな」

「分かりました」

 返事をして、歩き出すリンドウさんに追従する。サイネちゃんは偶然の産物であるひんやり術がことほかお気に召したようで、リンドウ邸に到着するまで何度か可愛くねだられることになった。
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...