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海辺の開拓村編
18.千年の恋も冷める娘に嫌われる父のような臭い(2)
しおりを挟む浄化か。
俺は体に纏わりつく不浄を祓うイメージを思い描く。
神主のお祓いは違うし、坊さんや神父の説教も違うな。どうにも浄化という言葉に引き摺られて、明確なイメージを邪魔されている感がある。
臭気の原因を消滅させるイメージに切り替える。臭いの原因菌を死滅させつつ、人体には一切害を及ぼさない光。
いや、臭いを発する菌だけじゃなく、ありとあらゆる菌を死滅させる光にしよう。ああ、そうか、殺菌光か。紫外線殺菌装置っていうのがあったな。
それを頭の中でより都合の良いものに変えていく。人体にまったく悪影響を与えない、強力な殺菌力。
元々強い光は発さなかったはずだが、強力と念じると想像上の光も眩くなったので、その光量を抑える。目を閉じ、思いを術として固める。
殺菌効果は強く、目に優しい穏やかな光。
んー、腕を折られたからか、戦って興奮したからか、ちょっと体が熱いな。
眉間に痛みが走るほどのイメージと集中。得られる実感。これはいける。
やがて、カチリ、と頭の中で術を掴んだ感覚があった。
だがまだ完成してはいない。感覚が確かなうちに行使しなければ、折角まとめたものが霧散してしまう。それが分かる。【過冷却水球】のときも、回復術のときもそうだった。俺はそのまま自分の体を対象に術を行使する。
仄かな青い光が全身を包み込む。ひんやりと心地良い。十秒くらい浴びてから、深呼吸。森の清々しい良い香りだけがした。うん、成功だ。
こちらを見ていたサイネちゃんが目をぱちくりさせて足を止め、リンドウさんは「ん?」と呟いて立ち止まり、何度か空気を嗅ぐように鼻を鳴らす。
サイネちゃんが、とてとて近づいてきて、俺をくんくん嗅ぐ。
「臭くないのですっ!」
サイネちゃんが飛びついてくるのを笑顔で受け止める。よしよしと頭を撫でてから、地面に下ろし、手を繋ぐ。
顔を上げると、リンドウさんが納得いかないというような表情をしていた。フィルで見慣れているのでよく分かる。俺はまたおかしなことをしでかしたらしい。
「ユーゴ、今のは?」
「『浄化』……です」
「違うのです。浄化はもっと光るのです。それに青くもないのですよ」
「もっぺんやってみぃ」
言われるまま、自分に術を掛ける。今度は手を繋いでいるサイネちゃんまで仄かな青い光に包まれる。
「はぁー、凄いのですぅ。ひんやり涼しいのですぅ」
「ユーゴ、その術、二属性混ざっとるぞ」
「え⁉」
意識を魔力の変化に向ける。確かに、水属性と光属性が混ざり合っている。
あー、体が熱いって部分まで反映されたってことか。けどそれは光属性だけだと無理だったから、無意識に水属性を混ぜ込んだってことね。
魔力を分離してみる。白い光に変わる。水属性だけで試すと、光は放たれずに周囲の温度が下がった。
「これは、今のところユーゴしか使えん術かもしれんな」
「そうなんですか?」
「見たことないのです」
ありそうなものだが。
「帰ったら、スズランに見せたってくれ。あいつは光水土の三属性持ちやから、使えるかも分からん。あと、もし他にも使える術あったら見せてくれ。どんくらい成長したんか気になるからな」
「分かりました」
返事をして、歩き出すリンドウさんに追従する。サイネちゃんは偶然の産物であるひんやり術が殊の外お気に召したようで、リンドウ邸に到着するまで何度か可愛くねだられることになった。
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