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海辺の開拓村編

11.スパイキークラブ物語(11)

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「許しがたいな……!」

 夕食の席で、俺はビルさんから聞いた話を皆に伝えた。ヤス君は平然としていたが、サクちゃんが怒りをあらわにした。

「ウハハ、サクやん、言い回しが武士みたいっすね」

「ヤスヒトは腹が立たないのか⁉」

「まぁ、どこにでもありそうな話っすからねー」

 ヤス君が塩茹でスパイキークラブの脚肉にかぶりつき、頬張りながら話を続ける。視線が遠くに向いていて、心ここにあらず、というように見えた。

「元の世界のこと考えてみてくださいよ。胸糞悪い話がザラだったじゃないですか。でも、関係ないってスルーしてたはずっす。それが賢い生き方って教えられたでしょ」

「元の世界を持ち出されるとね。僕アメリカだし、何も言えなくなっちゃう」

 フィルが苦笑しつつ、新たな脚肉に手を伸ばす。

「それはそうだが、腹が立つのは別問題だろ?」

「その後の話っすよ。あっちだと腹が立っても何もしなかったのに、こっちだとすんなり人助けするっていうのが気に食わないだけです」

「突っ掛かるね。ヤス君、元の世界で何かあったの?」

 ヤス君が大袈裟に首肯する。

「ありましたねー。もううんざりするぐらい。馬鹿みたいっすよ。必死になって助けようとした人が死んじゃってたんです。大学中退したのもその所為っすよ」

「死んじゃってた?」

「山で遭難したんす。遺留品は血塗れの服とリュックだけ。熊にやられたって聞いてます。生存の望みなしって言われても仕方ないくらいズタボロでした」

「民間捜索隊の費用か」

 サクちゃんの呟きに、ヤス君が鼻を鳴らして頷く。

「口では綺麗ごと並べて、いざとなったら誰も手を差し伸べてくれませんでしたよ。自己責任だって。今のユーゴさんやサクやん見てると、それ思い出しちゃって」

 ヤス君以外、脚肉に伸ばした手が止まる。サクちゃんが溜め息をく。

「軽く重いこと言うなよ。聞かされても気の利いた返しはできないぞ」

「望んでませんよ。それに、二人がそうだとは思ってないんで、完璧八つ当たりなんすけどね。でも、なんていうんすかね? あのとき、こんな感じで二人が居てくれたらなぁ、なんて思っちゃって。すいません」

 ヤス君が軽く頭を下げて、蟹肉を頬張った。なんだか寂しげに見えたが、仮に俺が元の世界で救いを求められたとしても、大した力にはなれなかっただろう。

 今とは関係性も年齢も違う。それに、自分のことで精一杯だった。他人ひとのことを考えられる余裕などない程に。

 ままならないよなぁ。と思う。

「まぁ、気にすんな。俺は気にしてないからな。それはそうとして、ユーゴはビルさんの為に動くつもりなんだろ? どうするんだ?」

「動くというか、全部ビルさん任せだね。集会所に人を集めて、村長がやったことを周知してもらってる。なるべく熱く、村を憂う思いをぶち撒けてくれとは頼んだけどね」

 ヤス君が脚肉を食べる手を止めてぽかんとする。

「それだけっすか?」

「うん、こっちからの指示は今のとこそれだけ。ヤス君じゃないけどさ、ここは俺たちとは関係が薄いでしょ。村人に解決してもらうのが一番だからね」

 フィルが小首を捻り、ヤス君とサクちゃんは頷いた。

「そうか。事実を明るみにすれば、部外者の俺たちが手を出す必要はないか」

「いや、何言ってんの? 手は出すよ? ビルさんに村長になってもらう『目には目を』だよ」

 全員が声を揃えて「は?」と言う。齟齬があったようだ。俺は最後の脚肉を素早く取って頬張る。フィルが「あっ!」と短く声を上げて体を跳ね上げる。

「日本人って最後の一つ気遣いで残すんじゃないの?」

「ふっ、皆が皆そうだと思うなよ?」

 恨みがましい目を向けられるのを、精一杯の悪人面で返してやる。

「で、ビルさんを村長にって話は?」

「ああ、ごめん。まぁ、現在の村長の行動って、俺が元の世界で勤めてた職場の責任者と似てたんだよ」

 部下の報連相がしっかりしていても、自分は意図的にそれを上げない。だから対策が立たず、それで怪我人が出ても自己責任で済ませる。

 しかも備品や雑費、消耗品は自費購入と嘘をき、その分はちゃっかり横領していた。俺は、そんなことを平然とやってのけていたかつての上司について皆に話した。
 
 
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