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宿場町~裏社会編
43.裏社会へようこそ(5)
しおりを挟む自己紹介を終えると同時にマンティコアが飛び掛かってきた。
俺は後ろへ飛び退いてそれを躱す。レインさんとシャフトさんは左右に分かれて低く跳んでいた。二人は着地と同時に駆け出し、マンティコアの脚や胴体に鋭い斬撃を加える。が、目に見えて浅い。
マジか。あれが通らないって、相当硬いんだな。
「ユーゴ! あの術を頼む!」
ナッシュが叫んだ。俺は大声で「分かった!」と返し、敵全体の攻撃の要になりそうな箇所に【過冷却水球】を設置しに駆け回った。
尻尾や四肢に水の塊が当たると氷結し、魔物が混乱したような素振りを見せ、一気に動きを鈍らせる。
「流石だぜっ! 【剛斬撃】!」
その隙を突いて、ナッシュが【剛斬撃】とやらでグールの首を刎ねる。攻撃するとき体が赤い光を纏った。あれがおそらく戦技というものなのだろうと解釈。見た目には判断がつかなかったが、威力が上がっているのだと思う。
そういえばクロエさんがいない。どこに行ったのかと視線を動かすと、グールから方向を転換し、アバスマーに向かって高く跳躍していた。
「ガラ空きだよ! 【杭打ち】!」
アバスマーの背中に槍を投げ刺し、落下の勢いそのままに石突きを踏みつける。
貫通はしなかったが、かなり深く入った。グゥオオオと叫んで仰け反ったアバスマーの首を、対峙していたヒューガさんが抜刀一閃。
「神の慈悲を。どうか御国に迎え入れられ給え」
アバスマーの首が落ち、体が地に倒れ伏す。ヒューガさんは刀を振って血を払うと【異空収納】から取り出した紙で刃に残る血を拭った。
「任せるよシャフト! 【疾駆】!」
声に反応して視線を移すと、レインさんが凄まじい速度で駆け抜けざまにマンティコアの側面を短剣で斬りつけていた。ゾリゾリと赤く染まった体毛が散る。
駄目だ、あれじゃ浅すぎる!
マンティコアは忌々しげな視線をレインさんに向ける。高速で動くレインさんの姿をしっかりと捉えているように見えた。
俺は援護の為に駆ける。が、間に合わない。レインさんが足を止めた位置に尻尾が横薙ぎに振られる。
「鬱陶しいんだよっ! 【断ち斬り】!」
レインさんは叫ぶと同時に、眼前に構えた短剣で迫っている尻尾を断ち切った。振り抜いたはずの尻尾が跳ね飛んでいき、マンティコアが目を剥く。
だがそれも束の間のことだった。形相を怒りに染め上げ耳をつんざく咆哮を上げる。
「うるせぇなあ! 【疾駆】! 【纏拳風刃】!」
シャフトさんが凄まじい速度で縦横無尽に動き出した。マンティコアの体がシャフトさんの繰り出す爪の連撃で斬り刻まれていく。
顔、首、脚、胴体、速度重視で出血を狙う技なのか、傷は浅そうに見えるが、辺りに血飛沫が舞い続ける。
「仕舞いだおらああ!」
シャフトさんが跳躍し、マンティコアの背を殴りつける。そしてすぐに跳躍して離脱。途端に背から血が噴き出し、マンティコアが絶叫してのたうち回る。
「今だ! 衛兵隊、突撃!」
いつからいたのか、衛兵長らしき重装備の兵士が号令を発した。鬨の声を上げて槍を構えた衛兵たちがマンティコアを押さえ込みに行く。
そりゃそうだよな。街中に魔物が出たんだ。衛兵が来ない方がおかしい。
集中し過ぎていたので気づかなかったが、辺りは遠巻きに眺める野次馬で溢れていた。こんなに人がいたのかと、今更ながらに驚かされる。
「どいてくれい」
不意に野太い声が響いた。静かだが感情のこもった声と身から溢れる怒気に、衛兵が固唾を飲んで道を開ける。俺も、その男から目が離せなかった。
「あれが、サイガさん、か」
震えた。遥かに大きいマンティコアと対峙しても、まるで見劣りしない圧倒的な存在感。マンティコアの方も、狼狽えているような素振りを見せている。
サイガさんは、恐怖の余り襲い掛かるしかなくなったと見えるマンティコアを、ただの握り拳でぶん殴った。直後、硬い袋が破裂したような音が鳴り、マンティコアの下半身以外が吹き飛んでいた。辺りに赤黒い血肉片が飛び散る。
向かいの商店の壁にはベッタリと付着した血肉と臓物。饐えた臭気と血生臭さが鼻を掠め、思わずしかめた顔を袖で覆うと、隣に並んだナッシュが呟いた。
「お、親父の【剛力砕波】だ……」
表情は歓喜に染まっている。なかなか見れるものではないのかもしれない。
しかし、酷い。えげつない。
「これは掃除が大変そうだ」
俺の隣に立ったヒューガさんが苦笑して言った。
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