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宿場町~裏社会編
42.裏社会へようこそ(4)
しおりを挟む俺たちは、レインさんの転移で襲撃現場へ移動した。
転移先は繁華街のど真ん中だった。すぐ側で、着物姿の大柄な獣人が右肩を押さえ、片膝を着いている。見た限りでは猫人。傷は深いようで、かなりの出血が見て取れる。
「兄貴!」
ヒューガさんとフィルが駆け寄り跪く。俺は初めての転移に困惑し立ち尽くしていたが、フィルは既に自分のやるべきことを見出しヒューガさんの後を追っていたようだ。
凄いなフィル。さっきとは別人じゃないか。
俺が心で感想を述べている間にも、事態は進んでいる。もう少しフィルの勇姿を眺めていたいところだが、どうやらそういう訳にもいかなそうだ。
「シャフト! 何が起きた!」
「あー、うるっせぇのが来たな。知るかよ。俺が訊きてぇ」
ナッシュにシャフトと呼ばれた黒い毛並みを持つ獣人の青年が、鋭い視線を向けて三体の魔物を牽制している。
豹を思わせるすらりとした体に軽鎧を着用しており、手には爪のような刃の付いた手甲武器。そしてサングラス。なんだかダンスグループにいそうな印象だ。
ナッシュ、クロエさん、レインさんがシャフトさんの側に合流。俺も周囲を確認しつつ加わる。
魔物は異形の人型が二体、人面の獣が一体。
「グールにアバスマー、マンティコアだね。何だってあんなもんが街に」
「分からない。突然、人混みから湧いて出たのよ」
「んな馬鹿な話があるか! ダンジョン下層に出る連中だぞ!」
「あるからこうなってんだろうが。口より手を動かせ馬鹿が」
グールは皮膚が青緑の腐敗した人間で、革の胸当てを着用した軽装備の女。アバスマーは上半身裸の四つん這いになった膨れた緑色の人間。
マンティコアは人面獣身の化け物。ということで良さそうだ。会話を拾いつつ理解していかないと、対応に遅れが出る。俺は必死になって視覚と聴覚を働かせていた。
しかし、ゴミが邪魔だな。大盾? 装備品の残骸か? 足場が悪い。気をつけないと。
「サイガの親父は何にやられた?」
「マンティコアの尻尾だ。だから奴は俺とレインでやる」
「分かった。ナッシュ、私らはグールをやるよ」
「アバスマーは――」
レインさんが口に出したところで、アバスマーにヒューガさんが突っ込んでいた。刀の鞘で顎先を打ち上げ、回転して顔面を殴りつける。
「こいつは俺が引き受ける!」
ヒューガさんが背中を向けたまま顔を横に向けて叫ぶ。その後、襲い掛かるアバスマーの剛腕を鞘で跳ね除け、浮いた胸部を蹴って吹き飛ばす。
「ひゅー、叔父貴すげぇな!」
「ぼさっとしてないで続くよ」
全員が散開し、密集していた魔物の距離を細かい攻撃で開かせる。
俺は下手に手を出さず、しばらくどこを援護するべきかを見極めることに努めた。
よし、あそこだな。
攻めあぐねているように見えたシャフトさんとレインさんの加勢に入る。
丁度良く、レインさんを襲うマンティコアの尻尾を拳で打ち払えた。
「加勢します。必要ないですかね?」
「いいえ、助かるわ。ありがと。やるじゃない」
「誰だお前?」
「ユーゴといいます。ただの冒険者ですよ」
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