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宿場町~裏社会編
28.初絡まれテンプレ展開とダンジョン特急探検隊(6)
しおりを挟むダンジョン出入口付近に立つ衛兵に軽く会釈し、ざっと説明を受けて中に入る。岩の洞窟と見紛う外観どおり、ゴツゴツとした岩壁と暗闇に迎えられる。
「なーんか、やるせないっすね」
「ああ、あの馬車のことな。もっと早く来てたら、とか思うよな」
「いや、あの、ちょっと集中しない?」
「フィル、集中しようにもこれはちょっと……」
俺たちはやりたい放題やっていた。暗いのは危ないという理由で、俺とフィルとサクちゃんの三人で【光球】を量産して進み、淀んだ空気は気持ち悪いという理由でフィルが頻繁に風を吹き抜けさせる。
見晴らしがとにかく良く、隠れた魔物も風に反応して飛び出してくる。しかも見つけた直後にはヤス君が矢で射殺してしまうので、集中しろと言われても難しい。
一、二階はフィルの言っていたデビラビという小さい角の生えた兎と、デビラットというやたらと耳の大きい鼠に似たものしか出なかった。
俺とサクちゃんは【光球】を二つずつ浮かべての照明係。収納も必要ないだろうとのことでしていないので、ただ歩いているだけ。
三階層に進んでもラジアントという蟻の魔物とラジバットという蝙蝠の魔物が増えただけで、こちらもやはりヤス君とフィルが一撃で絶命させてしまう。
「なぁ、これ俺たちいるか?」
「そうだねー。これは準備しすぎた感が否めないねー。でもその分、見合ったところまで早く進めそうだし、それまでの我慢じゃない? ところでフィル、今更だけど本当にいいの? 収納しなくて」
「ダンジョンは生物の死骸を吸収するから大丈夫らしいよ。実際に見た訳じゃないから本当かどうかは知らないけど」
「じゃあ大丈夫でいいんじゃないすか? 朝方変な話聞かされた所為で気が入らないっすわ。あー暇っすねー。ステボでも見ます?」
ダンジョンに入ってから三十分。皆が飽きてしまうという事態に陥り、ヤス君の提案に乗る。全員がステボを他者閲覧可能状態にして見せ合う。
「あ、フィル魂格上がってんじゃん。十三か。補正値は十パーセントくらいか。うわ結構大きいね」
「何気に俺らも上がってるんすね。五の横並びっすよ」
「いや、俺何もしてないんだよね」
「俺も。ん? おい変なの出てるぞ。何だ【無病息災】って」
渡り人三人に新しいスキルが追加されていた。スキル効果は一切の病気に罹らないとのこと。魂格五になることが取得条件だった模様。
「こらまた凄いスキルだね。筋肉痛って病気かな?」
「あー、どうっすかね? 怪我じゃないすか? でも確かに、どこまで病気として扱われるかは興味がありますね」
「水虫とかにならないのはありがたいよな」
「履くのはほとんどブーツだもんねー。いーなー。そのスキル羨ましいなー」
何組かの冒険者パーティーとすれ違うが、関わらない。俺たちは訳ありパーティーなので、無駄に知り合いは作らないことに努める。談笑しつつ、四階、五階と降りて行く。出てくる魔物の種類は増えるが、大差はない。蜘蛛とミミズが増えただけ。
ミミズはフィル、蜘蛛はヤス君が担当。俺とサクちゃんは相変わらずただ照らして歩く人に徹する。
各階層に転移装置があるとのことなので探す。次の階へ向かう下り階段を探すことに重きを置いているので、今のところ宝箱や罠には遭遇していない。十代前半と思しき冒険者たちとすれ違うだけ。
一度、別の若いパーティーが蜘蛛と戦闘しているところに鉢合わせたが、一匹倒すのに三人がかりでとんでもなく手こずっていた。
まるで少年漫画のような展開に俺たちのパーティー全員で陰ながら握り拳を作って応援。
どうやら蜘蛛はそれなりに強いらしい。名前も忘れたけど。
「フィル、ヤス君、悪いんだけど、次は俺に戦わせてもらっていい?」
「あ、じゃあ俺もその次」
サクちゃんが挙手して続いた。二人から快く返事がもらえたので、俺は次に蜘蛛と遭遇するのを楽しみにして歩いていたのだが、そこで扉を発見。開けてみると小部屋で、中央に円筒状の装置があった。
「あれが転移装置だよ」
「いや、うん、分かるよ。だってあれしかないじゃない」
「た、確かにそうだね。ごめん」
フィルがしゅんとしたので頭を撫でておいた。見切り発車してひけらかすこともたまにはあるさ。凹むな。小さいおじさん。
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