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宿場町~裏社会編

9.怒る坊やと気を損ねそうな女と憤る男(3)

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「それじゃあ、ユーゴからだね。体術で戦うって話だけど、バグナウやブラスナックルみたいな武器はいらないのかい?」

「そうですね、今のところ、いらないですね。拳が保護できれば良いです」

「指が動きやすい革手袋ってのもねぇ。こなれないと硬いのは仕方ないよ。防具は軽い革鎧と籠手こてすね当てで良さそうだね」

 見繕ってもらった物を試着し、そこからサイズの調整をしてもらう。

 ベスト型の革鎧と肘下から手首までを覆う籠手、膝下前面を保護する脛当て。すべて西洋風で、見た目もスマート。

 動いてみたが、肩周りの動きが阻害されず擦れるような感覚もなかった。膝と肘、手首足首にも違和感がなく、重量も多少重く感じる程度。

「いいですね、これ。凄く気に入りました」

「うーん、こりゃ驚いた。お世辞抜きでよく似合うね。前垂れか脚が隠れるくらい長めのスカートを付けるともっと決まりそうだね。染色はどうしようか?」

「取り敢えず今のままでいいです。それで、革の手袋なんですけど、なるだけ頑丈で、手に密着する薄手のものを見せてもらえますか?」

「ちょいと待ってなよ」

 エノーラさんが店内を歩き回り、見繕った物をカウンターに三つ置く。俺はそれらを一つ一つ持ち上げて、硬さと厚みを確認し、最も理想に近い一つを試着した。握って開いてを数回繰り返す。

「エノーラさん、この手袋おいくらですか?」

「それはこの三つの中で一番高いよ。デモンバットの翼膜使ってるからね、金貨十枚はするよ」

「うっ、結構しますね。ちなみに全部だとおいくらになりますかね?」

「その革鎧一式もドーベルリザードって魔物の革を使ってるから値が張るね。それだけで金貨十五枚。籠手と脛当てで金貨五枚、手袋も合わせて三十枚ってとこだね。おまけして二十七枚でどうだい」

「あ、それならおまけはいいんで解体用のナイフが一本欲しいです。それと、やっぱり統一感が欲しいんで黒に染色しちゃってください。全部買いますんで」

 エノーラさんは一瞬きょとんとしたが、すぐに膝を叩いて大笑いしだした。

「いやー、気持ちが良いじゃないか。よし、任された。今晩までに仕上げるから、後でまた来な。完璧な仕事をしとくからね」

 俺は「お願いします」と言いながらカウンターに金貨三十枚を置き、試着していた装備を外していく。懐が随分と軽くなったが、なんとなくダンジョン中層辺りまでつくらいの装備な気がしたので良しとする。

「次はヤスヒトだね。あんたは胸当てとそのゴーグルだったね」

「そうっすね。このゴーグルは絶対っすね。革鎧はなるべく動きやすい方がいいんで、軽いのをお願いしたいっす」

 ヤス君はライダーゴーグルを店内を歩いている内に発見し、金貨十枚という価格にもかかわらず購入を即決していた。

「それならいっそのこと、プロテクター加工したツナギにしちゃどうだい?」

「えっ⁉ そんなのあるんすか⁉」

「あるよ。今着てるの脱がないと駄目だね。ついといで、奥で試着してみな」

 エノーラさんとヤス君が店の奥に姿を消す。すると何故かサクちゃんも、ふと思い立ったような素振りを見せて店の奥へと姿を消した。

「そして誰もいなくなった」

「僕がいるんだけど」

「そうだね、言った本人の俺もいるよね。ところでフィルは何も買わないみたいだけど、いいの?」

「このローブがあるからね。里で餞別せんべつにもらった物だけど、ダンジョンの下層くらいまでは大丈夫だってエノーラさんが言ってくれたからさ」

 武器は? と訊くと、杖とナイフがあるから大丈夫だと答えた。使う機会がなく、ずっと【異空収納】に入れっぱなしになっているらしかった。

 そんな感じの他愛もない話をカウンターの前で続けていると、ヤス君とサクちゃんがエノーラさんと一緒に店内に戻ってきた。
 
 
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