上 下
90 / 409
宿場町~裏社会編

7.怒る坊やと気を損ねそうな女と憤る男(1)

しおりを挟む
 
 
 訓練所を後にした俺たちは、フィルを誘って昼食をとることにした。

 それで三人で部屋まで呼びに行ったのだが――。

「いいけどさ、どこで食べるの?」

 フィルはなんだか不貞腐れていた。俺たち渡り人三人衆は顔を見合わせた後で小さな円陣を組む。

「なんか、怒ってません?」

け者扱いしたからじゃないか?」

「それはないでしょ。ちゃんと言ったし」

 小声でささやくように話した後でフィルの方を向く。ムスッとした顔で腕組みしていたのでまた円陣に戻る。

「腕組みしてましたよ」

「うん、バージョンアップしてたね」

「やめてやれ」

 ひそひそ話はサクちゃんの溜め息で締めくくられた。俺はフィルに向き直る。

「フィル、どうしたんだ? 何かあったのか?」

 サクちゃんが訊くと、フィルは先ほどサクちゃんが吐いたものとは比べ物にならないほど大きな溜め息を吐き出した。

「君たちは営業前の食堂で朝食をとったから知ってるだろうけどさ、今朝は僕、朝食をとらなかったんだよね」

「なんでわざわざ? そんな説明臭い? 言い方するの?」

「それが何か? みたいな言い方腹立つからやめろよ! 変に言葉を切って語尾を優しく上げるんじゃないよ!」

「ユーゴさんあおりまくってますね」

「フィルも確実に拾うからな。仲良いよなこいつら」

 フィルが、ふんっ、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。

「まぁいいよ、君たちは営業前に朝食をとったから知らないだろうけど、僕は営業中の食堂に行ったんだよ。早めのブランチ気分でね。そこで僕はねぇ、それはそれはもう酷い目にったんだよ」

「酷い目って?」

「カキ氷屋だよ! お客さんが来て注文されるし、やってないって言ったら『何でどうして』の嵐だよ! もう本っ当に大変だったんだから!」

「あー、確かに昨日、明日で閉店だとか休業するだとかそういうお知らせは一切してなかったっすね」

「『氷作るから削ってください』とか無茶苦茶言う人までいたんだからね!」

「ハハハ、シロップどうするんだろね?」

「そういえばそうだね。ってそういう問題じゃないよ!」

 俺とヤス君が笑顔で頷き、二人でサクちゃんにも笑顔を向けて頷き、渡り人三人で頷き合いながら拍手する。

「いやー、一回乗ったね。ツッコミまでの間も良かった」

「日々成長してるんすね。使うタイミングも中々っす」

「俺はやったことないが、今のは日本のお笑い限定のものじゃないのか?」

「うるさいよ、もう! 何を分析してるんだよ! 確かに日本のコメディ動画は好きで見てたけども! とにかく食堂では食べられないってことを言いたいんだよ!」

「それならそうと、むくれてないで言えばいいのに。どこで食べるのって」

「言ったろ! それ僕最初に言ったろ!」

「フィル、落ち着け。どうせ明日の準備もあるんだから、適当に出店で買った物でも食いながら武具店に行こう」

 サクちゃんの提案に全員が賛成し寮を出た。お客さんで賑わう大衆食堂の前をこっそり通り抜け、途中の屋台で惣菜クレープらしきものを購入。値段は一つ銅貨五枚。それを食べながらエノーラさんの武具店へ向かう。

「うん、美味くはないな」

「そっすね。これでうちのカキ氷と同じ値段っていうのが腑に落ちないっす。野菜が気の毒なくらいしなびてるじゃないっすか」

「鮮度もそうだけど、僕は生地もあんまり好きじゃないな。タイヤの薄切りみたいだ」

「ああ、いつも食べてるやつね」

「食べてないわ! 君は僕をどうしたいんだ!」

 話をしている間にエノーラさんの武具店に到着した。扉を開けて中に入ると、響きの良い呼び鈴の音と「いらっしゃい!」という豪快な声に出迎えられた。
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

異世界八険伝

AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ! 突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...