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アルネスの街編

47.神樹も花咲く絶世の笑顔(7)

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「サ、サイネちゃん?」

 呼び掛けると、表情がうっとりとしたものに変わった。

「お、美味しいのですぅ」

 二口、三口と食べ進める。

「ああ、サイネちゃん、あんまり急ぐと危ないよ」

 ピタリと食べるのをやめて、サイネちゃんが顔をしかめる。

 あちゃあ、遅かった。

「くぅ、冷たくて甘くて良い匂いがしてすっと消えて美味しいのですぅ」

「うんうん、そうだね。でも急ぐと頭とお腹が痛くなっちゃうからね。落ち着いてゆっくり食べようね」

「はいなのです」

 俺は立て札を移動しながら、フィルに向かっていく。一人で何もかもやらせて申し訳ないと目で言うと、苦笑して返された。多分、伝わった。

「ユーゴ、あの子、変な感じがするのです」

「え、フィルのこと?」

「フィルというのです?」

 首を傾げられる。俺は、そうだよ、と答えて続きを促す。サイネちゃんは腑に落ちないという顔をして、ゆっくりと言葉を探すように言う。

「フィルは、凄く変なのです。もやもやして、あったかくて、神様みたいな、不思議な感じがするのです」

 なるほど。言い得て妙。

 フィルは元女だが心は男だった。現在は男だけどバイセクシャル。人間でもエルフでもなく、この世界の住人でもなければ元の世界の住人でもない。
 
 おまけに信仰もプロテスタントの家庭で育った無神論から有神論に切り替わり、それからアニミズムに変更とぶれぶれ。サイネちゃんの感じている不可解な印象は、それが理由だと察する。

「フィルはとっても曖昧模糊な良い友達だよ」

「あいまいもこ?」

「そのカキ氷みたいに、ふわふわぼんやりしてるんだ」

 サイネちゃんがカキ氷を見つめたところで、お客さんの列がなくなった。俺はサイネちゃんを下ろし、手を繋ぐ。

「フィル、お疲れ様。早かったねー」

「大して疲れてないよ。大分慣れたし。サイネちゃん、でいいんだよね? こんにちは、僕はフィルっていうんだよ。よろしくね」

「よろしくなのです。フィル、カキ氷くれてありがとうなのです。とっても美味しいのです。こんなの作れるなんて、フィルもユーゴも凄いのですよ」

 サイネちゃんが人見知りを発揮して、俺の陰に隠れてもじもじ言う。それを見たフィルが恍惚こうこつとした表情を浮かべ目を輝かせる。

「ユ、ユーゴ、凄く可愛いんだけど」

「そうだろう、そうだろう。分かるぞ。よーく分かるぞ」

「撫でていい?」

「やめんかおっさん!」

 フィルが手を伸ばしてきたので即座にペシリと叩いて止める。サイネちゃんは完全に俺の背後に隠れてしまった。

 フィルはしゅんとしたが、もう少し時間を掛けて距離を詰めるようにと説教すると「そ、そうだね。そうだよね」と鼻息荒く何度も頷いた。
 
 
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