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アルネスの街編
41.神樹も花咲く絶世の笑顔(1)
しおりを挟む翌日――。
「夏といえばこれですよ!」
ヤス君の提案で、俺たちは大衆食堂の一角でカキ氷屋を始めることになった。
用意したのは立て看板だけ。廃材置き場から拾ってきた木の板に、こちらの字で『カキ氷』と書いただけのもの。
書いたのはフィル。俺たちも何故か読めるし書けるが、書き慣れていないからか下手なのでフィルにお願いした次第。
店主とは交渉済で、儲けの二割を渡すことになっている。場所だけでなく、厨房の一部と食器まで借りられたのはフィルが交渉上手だからだろう。
新人と思しき若い女性店員から凄い目で見られたが、そんなことは気にしない。何故なら中身が大人だから。きっと店主が誤解を解いてくれると信じている。
「なんか駄目な大人になった気分なんすけど」
何だって⁉
失敗した。誤解を解く解かないに拘らず、フィルが一人で交渉する光景はそれだけで精神にダメージを受けることが身内の発言により判明。やはり俺が交渉するべきだった。気にしないように言って作業を始める。
ヤス君と俺が協力して氷を作り、フィルが風の術で氷を極薄に削る。【風刃】という術を、氷が薄く剥がれる程度の威力に落として連発するらしい。
そこに商店で購入したレモン風味の果実水と砂糖を煮詰めたシロップと、ミルクと砂糖を煮詰めて作ったシロップを半々にして掛ける。
調理担当は俺で、ヤス君のみならず、転生者のフィルも目を丸くする美味しさに仕上がった。味覚に大差はないと思うが、少なからず不安もあったので、こちらの肉体を持つフィルが味を保証してくれたのは大きな自信になった。
サクちゃんも誘ったのだが、自分では力になれないからと断られた。
「冒険者ギルドで壁の補修の仕事を受けるつもりでいるから、俺のことは気にしなくていいぞ」
土術と肉体の鍛練、冒険者階級の昇級も兼ねているからと、終始俺たちが気を遣わないように努めていた。
打算のない気遣いが見える不器用さが凄くサクちゃんらしい。ヤス君にしろフィルにしろ、俺はいい仲間たちに恵まれた。
あれ? 一番役に立ってないの俺じゃない?
「よ、よし、サクちゃんの分まで頑張るか」
おーっ! と、意気込む必要もないくらいに物凄く簡単に大盛況となった。
開店して間もなく、冒険者らしき兎人の女性が「なにこれ美味しい」と控え目に叫んだことが切っ掛けだった。
その女性が幸せそうにカキ氷を食べる姿を見た食堂のお客さんたちが、涎を垂らして生唾を飲み込み次々に買いに訪れ列を成したのだ。
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