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アルネスの街編
38.属性スタンディングオベーション(3)
しおりを挟む説明後は予想通り、二人とも目を見開いて驚いていた。
「へー、そうなんすね」
「二度目の人生か。しかも、あー、その、何だ、恵まれた混血なんて、小説の主人公みたいだな」
「それ俺も思いました。マジでちょっと羨ましいっすもん。美形だし。あ、すいません話の腰折っちゃって。取得場所の話、お願いします」
フィルは二人の反応がお気に召したのか嬉し恥ずかしといった様子で頷いた。
「う、うん。え、ええっと、光はイノリノミヤ神社でしょ、闇はアルネスのダンジョン近くにある毒沼のほとり、水は海の洞窟の中で、風はちょっと遠いけど、東にあるカナン大平原で暮らす遊牧民の集落で取れるって聞いてる」
「ハハハ、分かっちゃいたけど聞いても分からない場所ばっかりだね。行くとしたら完全にフィル頼みになっちゃうけどお願いね。それで、あとは何だっけ?」
「火と土だな」
「その二属性は、ウェズリー山っていう火山にあるドワーフの街で両方取れるって話。エルフとドワーフは種族的に関係がアレだし、火属性取得はエルフにとって禁忌とされてたから詳しくは知らないけど」
「エルフって火属性を取ると何かまずいんすか?」
フィルが小首を捻って腕組みし、難問に挑んでいるかのような顔をする。
「んー、僕はそうなったエルフを見たことないんだけど、里から永久追放されるみたいだよ。あと、種族適性崩壊による変異が起きて、肉体と精神に深刻な影響が出るとかいうのは本で読んだ」
「あれじゃないか? 俺たちも固有属性持ちで外せないって言われただろ?」
「ホウライは水、クンルンは土を無理に外すと死ぬってやつだね。でも、エルフの固有属性は風じゃないの?」
「エルフは森の民だから、土を固有属性に持って生まれてくる場合もあるよ。外すときは対立属性が自動的に取得されるから、死ぬことはないし土と風の交換もできるんだ。だから固有属性は関係ないと思う。多分、種族的に火属性を受け入れるようにはできてないんだろうね」
どうやら、種族によって体が受けつけない属性があるようだ。ハーフエルフはどうなのか訊いたが、分からないし取るつもりもないとフィルは答えた。
「仮に取れたとしても、里に出入りできなくなるのは嫌だからね。お世話になった人もいるし」
「そんな人いたの?」
「いるわっ! 今でもいるわ! いたって過去形もおかしいだろ!」
テーブルを叩いて立ち上がったフィルを見て三人で笑う。
「ツッコミ早いっすね。しかも細かいし的確」
「リアクションが完璧だな。ちゃんと話を聞いてないとできないぞ」
「これでまだ子供なんだから末恐ろしいよね」
「僕は二十歳だっ!」
ヤス君が徐ろに拍手しながら立ち上がる。俺とサクちゃんも顔を見合わせながら頷き合い、それに続く。
俺たちのテーブルでフィルを喝采するスタンディングオベーションが巻き起こり、他の客からの注目が集まる。
フィルは真っ赤になってむくれたが、すぐに小さく噴き出して笑い出した。
「ねぇ、日本人ってさぁ、皆君たちみたいに馬鹿なの?」
「いや、そんなことはないと思う。俺も二人に乗せられただけで、こんなことをしたのは生まれて初めてだからな」
サクちゃんが蛋白に言い早々に席についたので、全員静かに座り食事に戻る。
まるで今のが夢であったかのように。
「あ、そうだ。土だけなら隣町の炭鉱でも取得できるみたいだよ」
「土かぁ。ユーゴさんはあと一つ何取るつもりっすか?」
「風で決定してるね」
「じゃあ、俺はユーゴさんが取らない土と闇にしますわ」
「なら、俺は二人が取れない火だな」
それぞれ取得する属性が決まったところで、最初はどこに行くかという話にベクトルが向いた。
光属性はアルネスの街で取得できるので、ヤス君以外は二属性持ちになる。
「闇属性の祠って近い?」
「歩いて四半日もあれば着くね。少しはダンジョンに入る時間も取れると思う」
「細かいようだけど、四半日の認識は六時間でいい?」
フィルから、それでいいよ、との返答があったので誤解なく擦り合わせ終了。比較的近場にあるということもあり、ヤス君の闇属性取得がてらダンジョンにも挑戦しようという話でまとまった。
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