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アルネスの街編
35.武具店の事情と自由な信仰を話し光の祠で終える(7)
しおりを挟む俺たちの遣り取りが可笑しかったのか、男性が眉を下げてクスクス笑う。
「はい、ええ、おっしゃるとおりです。アルネスの街はリンドウ様が様子を見に来てくださいます。私が今使っているこの竹箒も、リンドウ様に買っていただいたものです。大変助かっているんですよ」
「素晴らしい方ですね」
ところで、と俺は話を変えた。
リンドウさん絡みになるとすぐにボロが出る気がした。今着ている着物にしてもリンドウさんのお古だし、着流し姿というのも同じ。何をどうツッコんでこられるか分からない。早々に目的を遂げて退散したかった。
「光属性を取得しにきたんですけど、どうすれば良いですかね?」
「ああ、それなら境内の端にあるあちらの祠に魔力を放出すれば良いですよ」
神社関係ないんかい!
腑に落ちない心を抱えたまま、男性に感謝の挨拶をして神社の脇にある祠に向かう。ただ、なんとなくではあるが神社を素通りするのは気が引けた。それで一応拝んでおこうかと足を止めたが、隣を歩くフィルに軽く脇腹を小突かれた。
「ちょっと、まさか何かしようとしてないよね?」
「いや拝んでおこうかと」
「はぁ、もう。僕はよく知らないから強くは言えないけどさ、多分、形式はまったく違うと思うよ。下手なことして怪しまれるのだけは避けなきゃいけないんだからね。そういうことがしたいなら、ちゃんとやり方を聞いてからの方がいいよ」
なるほど確かにと思った。考えてみれば、この世界に来て初めて見た神社は神を祀る社ではなく人家だったのだ。神職のリンドウさんもスズランさんも家という認識でいた。誰一人として拝んでなどいない。
本坪鈴が呼び鈴、賽銭箱は不用品回収箱だったしな。
この神社には本坪鈴も賽銭箱もない。形は神社寄りではあるが、小さな寺と言われても納得できそうだ。そう考えたとき、ふと思った。墓はどうなっているのか。
「フィル、お墓ってどこにあるの?」
「アルネスの街にはないよ」
「ない? それじゃあ遺骨とかどうしてんの?」
「基本、散骨だね。土葬は魔物化するし、この世界は生きている者の為にあるって認識だから、死者で場所をとるのは無駄だって考えが一般的。遺体は空の器に過ぎないから、焼いて風に任せてる。だからお墓はないんだ。形見を持ったり、家の中に死者を悼む為の場所を作る人はいるけどね」
なんとも合理的だと思いながら、祠の前で片膝を着く。見た目は黒い石の箱。表面が滑らかで、光沢がある。表には装飾の施された扉がついているが、閉じられたままで、開いていいのかも分からない。
取り敢えず、余計なことは考えず言われたとおりに魔力を放出してみる。すると扉がゆっくりと開き、穏やかな黄色い光の球が姿を現した。それを目にした直後、耳の奥に威厳を感じさせる女性の声が響いた。
「汝その身の闇を消し、光と共に歩むか?」
はい、と心で答えると、祠の扉がすっと閉じた。
「え、終わり⁉」
「それ僕も思った。呆気ないよね。でも使えるようにはなってるはずだから、ステボで属性の確認してみたら?」
言われたとおりステボで確認すると、水の隣に光の表示が出ていた。
おおー、ちゃんと二属性持ちになってる。
試しに僅かな魔力を消費し光術を使うように念じてみる。と、手のひらから頼りなくふらふらとしたホタルのような極小の光球が出た。
「よし、ちゃんと使えるね。あとはフィルに教えてもらいながらって感じだね」
「あんまり期待しないでね。光術に関しては僕も取ったばかりでエキスパートって訳じゃないからね。ああーそれより急ごう。食堂の席がなくなっちゃう」
フィルが焦りを感じさせるような早口で言って駆け出す。
何故フィルはそんなに昼食を食堂でとりたいのだろうか?
多分食堂でしか食べれないものがあるのだろうな。
俺は五秒で自問自答を終え、腕組みしてうんうん頷きながら、駆けるフィルの背をやんわりと追い掛けた。
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