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アルネスの街編

4.スミレさんが女子会を楽しんでるのは多分本当(4)

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 政治と国王の教育は宰相と王妃が苦心しながら行っているそうだが、当の国王は幼児ということもあってかわがまま放題。周囲が急に自分を敬うようになったものだから盛大に増長してしまったのだとか。

 とはいえ、それは決して人をはずかしめたりおとしめたりする非道なものではなく、無邪気なわがままという範疇はんちゅうに収まる程度。だが、だからこそ余計に厄介だったという。

「国王陛下はリンドウ様をそれはもう慕っておいでで、術を見せてくれ見せてくれと毎日のようにせがみにこられて――」

 見せれば羨望せんぼう眼差まなざしを向けて『褒美をやる』と王命を使って爵位を与え国庫を荒らし、見せなければ延々と駄々をこねて泣きわめく上に不遜だ不遜だと聞き分けがなかったらしい。

 これにはリンドウ一家も非常に手を焼いたそうで……。

「正直なところ、私もあまり思い出したくありません」

 スミレさんが自嘲気味な笑みを顔に浮かべて言った。初めて目にする暗く重いどんよりとした雰囲気に俺たちは狼狽うろたえた。スミレさんがそうなるほど酷い状況だったということだろう。

 そんな菌類がよく育ちそうな雰囲気を変えたかった俺は、リンドウさんが爵位を拒否した理由について訊いた。

「リンドウ様はイノリノミヤ神教の神職に就いている為、爵位が不要であると先王に伝えていたのです。爵位を授かれば領地を与えられ、領民から得た税で生活をすることになりますが、それが労働の対価と見做みなされるのか、民からの搾取さくしゅと見做されるのか、判断が非常に難しくなります」

 なるほど。確かにそれは難しい。

「税を得てしまう以上、それがお布施と見做される危惧もあるってことっすね」

「はい。イノリノミヤ様の教えに反し、ややもすれば天罰を落とされる怖れがあるということです」

 加えて、他家の神職からの反発を受け余計な争いを生む可能性、またそれが起因して魔素溜まりへの対処に支障をきたすことも考えられるとのこと。

「そういった事情を先王は理解し、敢えてリンドウ様に爵位を与えず、教えに反することを遠ざけてくれていたそうなのですが……」

 それが新王即位後にころっと覆ってしまった。

 これに激怒したリンドウさんが宰相に猛抗議したが、王妃と宰相がどれだけいさめようが幼い国王は頑として聞き入れず、またも困り果ててしまった宰相と王妃とが打ち出した『領地の選択をリンドウに委ねる』という妥協案でどうにか双方を納得させたとのことだった。

 それでリンドウさんは宰相と王妃と話し合い、王国最南端のアルネスの街からほど近い、あの未開の森を領地として選択し、王都から屋敷ごと引っ越したのだとか。

「リンドウ様はその時点で筆頭術師の地位を捨て、王国軍からも身を引かれました。それほど怒っておられました。それこそ、王都が滅ぶのではないかというほどに」

 スズランさんと、たまたま王都に訪れていた他家のマモリであるツバキさん、ツツジさんの三人掛かりでどうにか止めることができたのだとスズランさんは言う。

 リンドウさんって、そんなに凄いのか。

 そういえば、と思う。俺とヤス君を救ってくれたとき、あの巨大なアンコウを一撃でほふっていたな、と。

 そのときのことを思い出すと途端に背筋が寒くなった。鍛練したからはっきり分かる。ただの煙管で殴っただけで、あの化け物の顔を半壊させるというのは余りに異常だ。凄いにも程がある。

 そんな人が怒り狂って本気を出したとしたら……。

「一人でも欠けていれば大惨事になっていたでしょう。今でも思い出すと血の気が引きます」

 スミレさんがぶるりと身震いしたところで辻馬車が止まった。止まったのが冒険者ギルド前で、俺たちはスミレさんに待つように指示され、中にはスミレさん一人が入っていった。

 しばらくして戻ってきたスミレさんに先導され、俺たち渡り人組は冒険者ギルドの中へと連れて行かれたのだが、何故か受付を無視して奥へと案内された。

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