31 / 409
異世界居候編
31.短い間でもこうなるのは人柄が良いのが集うから(4)
しおりを挟む話し合った結果、俺たち渡り人三人組は冒険者になることを決めた。
理由は元の世界に帰る為、というのは建前で、ヤス君が初日の夜に話したイノリ・ノミヤ説が気になったから。
もしまだ生きているのだとしたら、お礼も言いたいし、どんな冒険をしたのかも聞いてみたいと、年甲斐もなく胸を躍らせている。
マモリになる道も考えなかった訳ではないが、仮にそうした場合、ほぼここで俺の一生が完結してしまうという事実が受け入れ難かった。
こうして異世界に転移するという奇跡に遭遇したのに、最初に訪れた地点だけで一生を過ごすのは酷く勿体ない気がした。
ヤス君とサクちゃんも同じ気持ちだったようで、それなら三人でパーティーを組んで、大冒険をしようということになった訳である。
ただヤス君が言うには、このままでは少々心許ないという。
何が問題か訊いたところ、遠距離火力役が一人欲しいとのこと。
自分だけでは足りないとヤス君が言うのならそうなのだろうと俺とサクちゃんは納得。それなら冒険者活動を開始した時点でパーティーメンバーの募集をすれば良いということで話は決まった。
細かい条件についても話してくれたが、ヤス君が望む人材はリンドウさんのような風属性の術師だとか。
次点は火術師だが、狭い場所だと危険の方が大きそうなので、できれば妥協はしたくないとのこと。
そういう訳で、当面は三人での活動になりそうだ。
身体能力値が平均三十あれば、小型の魔物や野盗にはそう易々とは負けないとの情報を得ていたので、取り敢えずはそこを目指したのだが、その目標は半月前に達成してしまった。
なので期限を一ヶ月と定め、その日が来たらリンドウ一家に冒険者になることを告げ、ここを出ていこうと決めていた。
そして今日がその別れを切り出す日。
俺は体術、ヤス君は弓術、サクちゃんは棒術を用いる戦闘鍛練を続けてきた。組み手などは行わなかったが、体の扱い方は身についた。
それぞれ肉体の鍛練に関してはある程度の自信がついたと感じている。だが術に関しては不安が残る。
俺とヤス君は自分たちの固有属性である水属性の術をいまだにまともに使えない。氷の球を生成し投げるのが関の山。放てればいいのだが上手くいかない。
ヤス君は狙いが定まらず、投げる力も弱いので使い物にならないと早々に攻撃手段から外したが、俺の方はとにかく練習を続けた。
結果、命中率が上がり威力もそこそこついた。いつかこの投球練習が役に立つことを祈っている。
サクちゃんは独力で習得した『武器制作』という術に磨きを掛けている。
元々の身体能力の差もあるが、接近戦では、俺とヤス君に勝ち目はないだろう。
だが、飽くまでそれは接近戦に限った話。武器習熟の鍛練時には弓術用の的も用意するのだが、ヤス君は五十メートル離れたところから矢を放っても的の中心を射抜く。
威力が落ちてしまうとのことで、それ以上の射程距離はとらないが、十発射って九発は中心を射抜く精度はリンドウ一家含めても誰にも真似できない。
しかも、矢を放つまでの間隔が狭いのがまた凄い。投げるのは駄目なのに不思議。
ヤス君は俺たち三人の中で最も感覚が鋭敏で、明朗快活、頭も回る。遠距離アタッカー、参謀、斥候などの役割だと、俺とサクちゃんでは敵わないと思う。
二人と比べると、自分が凄く小さく見えてしまう。俺は武器を使うことに抵抗があるので体術を選んだ。二人より優れているところは魔力量。あとは氷球の投擲ができることだけだ。
【異空収納】の容量は最も大きいが、それでも大差がついている訳ではないので、今後が心配ではある。
二人の足を引っ張らなければいいが……。
なにはともあれ、平均能力値は四十を超え、戦う力も初期の予定より高くつけることができてはいる。
結界内での走り込み、筋力と体術のトレーニング。悔いが残らないように精一杯の思いを込めて午前中の鍛練を終えた俺は、スミレさんの力を借りて水と風の術で身綺麗にした後、ヤス君とサクちゃんに目配せして頷き合った。
そして、それぞれに分担された仕事をする為、一旦別れた。
0
お気に入りに追加
434
あなたにおすすめの小説
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
異世界八険伝
AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ!
突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~
鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。
だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。
実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。
思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。
一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。
俺がいなくなったら商会の経営が傾いた?
……そう(無関心)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる