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異世界居候編

21.五十六の名言と希望ある推測で迎える幸せな朝(4)

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 俺は頭をわしわしと掻きむしる。もしそうだとしたら、イノリ・ノミヤは一体どれほどの苦労をしただろうか。

 これだけの環境を整えてもらっておいて何だが、安穏とした場に身を置いていることが恥ずかしく思えてくる。

「カガミさん、まだ続き、というか、こっからが本題なんすけど、俺の考えだと、まだイノリ・ノミヤは生きてる気がするんすよね」

「は⁉」

 俺とマツバラさんは二人で驚きの声を重ねた。そこからのカタセ君の推測は、突拍子とっぴょうしもないにもほどがあるものだった。だが、やはり視点が鋭く、絶対にあり得ないとは言い切れなかった。

 カタセ君の着眼点は、イノリノミヤ神教が行う魔素溜まりの対処にあった。そもそも、イノリ・ノミヤは何故それを行なおうと思ったのか。

「魔素溜まりに触れた魔物が、俺たちの世界と、この世界とを繋ぐってリンドウさんが言ってたじゃないっすか?」

「うん、大きくなり過ぎると異世界と繋がるって言ってたね」

「ええ、だから、魔素溜まりを使って、元の世界に戻る為の研究とかしてるんじゃないかなーって。ほら、俺たちが見たときも、なんか、上に吸い上げられるみたいに消えてったでしょ? ああやって、どこかから魔素を集めてるんじゃないかって思うんすよ」

 魔素はこの世界のどこにでもある。集まりすぎても魔素溜まりができて危険だが、なくなると土地が枯れ、魔素欠乏けつぼうにより動植物が死ぬなどの深刻な被害が起きてしまう。

 人為的に集めるなどしない限り、魔素がなくなるということはあり得ないので、仮にそういったことが起きた場合は原因究明が急がれ、結果次第では戦争にまで発展する。

 リンドウはそう言っていたが、それならイノリノミヤが魔素溜まりを消滅させた場所はどうなるのか。カタセ君はそんな疑問を抱いたのだという。

「消滅させたんじゃなくて、問題がない量になるまで吸収したって考えれば、辻褄つじつまが合ってくるんすよ。どうすかね、これ」

「いや、でも、五百年だよ?」

「普通、死んでますよね」

「そこは『異世界だから』で説明がつくとこなんで。不老不死の食べ物とか、術とかもあるかもしれないでしょ」

「うっ、それを言われるとなぁ……」

「何でもありになる気が」

 俺とマツバラさんが唸っている間に、カタセ君は大あくびをして「ま、所詮は推測っすよ」と言って横になった。

「真実はどうあれ、まずは生き残る力をつけなきゃなりませんからね。帰れるかもしれないって希望があった方が、前向きになれると思いません?」

 それじゃ、俺はそろそろ寝ます。カタセ君はそう眠たげに言ったのを最後に口を開かなくなった。間もなく聞こえてきた寝息を耳にして、俺とマツバラさんは顔を見合わせて苦笑し、おやすみなさいと挨拶を交わして眠りに就いた。

 翌朝、俺とマツバラさんの間でウイナとサイネがすやすやと寝息をたてていた。何事かと驚いて慌てたが、先に起きていたマツバラさんが顔の前で人差し指を立てたことに気づき、俺は声を出さずに頷いた。

 この小さな狐人たちが、少しでも長くささやかな幸せを味わえますように。

 微笑ましい寝姿を見てそんな風に願いながら、二人が起きるまで静かに見守った。

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