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異世界居候編

17.狂喜乱舞する尻尾とお風呂で大騒ぎ(4)

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「いやー、笑った。でも全然駄目っすね」

「そうだねぇ。これじゃまったく意味ないよ」

 勢いと量と熱さがまるで足らない。その辺りを強く意識して念じると、先ほどより少し勢いと出てくる量が増えた。温度も上がったが、あって三十度くらいだろうか。

 どれだけ念じてもそれ以上は熱くならなかった。お湯を沸かすには火属性が必要なのかもしれない。カタセ君も同じように念じたのか、俺と似たような状態になっていた。

 温度に不満こそあるものの、それなりの水量が出てくるようになった手を見て二人で大はしゃぎしながら桶に水を溜めていく。勿論もちろん、マツバラさんの分も。

 その間、マツバラさんはこっそりと術を試していた。多分、俺たちに触発されたのだろう。洗い場に細かい土が散らばっていたので丸わかりだったが、素知らぬ顔をしていたのでそっとしておいた。

 こちらも、触れてシラを切られたらどうしようという恐怖心があった。待っているのは凄い空気だ。そんな危険は冒せない。寡黙な印象だし、俺とカタセ君のような関係になるにはまだまだ時間が必要だと思う。

 桶に水が溜まったところで体を洗った。石鹸はほとんど何の匂いもしなかったが、泡立ちはしたので、まぁいいかという感じだった。
 
 三人で浴槽に入り、肩まで浸かる。ふぅー、と自然と息が漏れた。

 途中で乾燥してもらったり、顔を洗わせてもらったりしていたとはいえ、やはり風呂には敵わない。

 海水でべたついていた体がスッキリしたのは気分がいい。風呂の湯加減もやや温めで、疲れが体から抜け出ていくような心持ち。

「いい湯っすね」

「そうだねぇ」

 マツバラさんは言葉を出さず、数回の頷きだけで肯定した。

 しばらく無言で湯を楽しんだ。先ほどは童心に帰ったようにカタセ君と騒いだが、こうして静かになると、リンドウから聞かされた話が蘇ってくる。

 何故、俺たちがここに転移したのか。

「運が悪かったんやろな」

 愕然がくぜんとする一言だった。

 転移が起こる理由は、魔物が転移者を食べる為。普通の魔物はできないが、魔素溜まりに触れて変異した魔物は、俺たちの世界とこちらの世界を繋げることができるようになるという。

 こちらの世界でも人を襲って食べるらしいが、異世界に罠を張り、より簡単に獲物をとる力を得てしまうのだとか。

「お前らのおった世界には、神隠し、て言葉があるんやろ? 聞いたことあるか? 要はそれや。お前らは神隠しにうたんや」

 俺が部屋で見たあの水面は、魔物の罠だったという訳だ。

 ただ、その罠にカタセ君は気づいていなかった。マツバラさんも同様に。

 マツバラさんは山からの転移なので、水面ではないのかもしれない。そう思って別の異変がなかったかも訊いたが、俺が見たような浮世離れした光景には遭遇していないとのことだった。

 そしてリンドウとスズランも、俺のような渡り人と会うのは初めてらしかった。

「あ、あと、若返ったんですよ。二十歳くらい」

「若返った? ふーん、じゃあ、そんだけ歳を食われたんと違うかな。こっちに来てなかったら死んどったかもしれんな。知らんけど」

 すんなりと怖ろしいことを言われてゾッとしたが、リンドウは俺のことなどお構いなしに推測を続けた。それによると、俺は既に罠に掛かって食われ始めていたのではないか、ということだった。

「ふむ、適当に言うたけど、あながち間違いやないかもしれんな」

 リンドウは顎に手を遣りうんうん頷いた。そして、罠に気づいた渡り人と会ったことがないのは、こちらに渡る前に存在が食われて消滅しているからだろうと結論づけた。

「なるほどなぁ、魔物はこっちに渡らせて物理的に食うだけやのうて、そっちでも食うとったんやなぁ。それも存在した年数を現在から過去に向かって吸い上げるか。そう考えたら、ユーゴは運が良かったんやな」

 さも愉快そうに哄笑するリンドウの姿を最後に、俺は知らずしらずのうちに思い起こすのを止め、ただただ湯の心地良さに沈んでいった。

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