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異世界居候編
8.はじめましてとお邪魔します(1)
しおりを挟む「ワイルドスタンプか」
スズランが平然と呟く。
「ふむ、丁度良い。手土産にしよう」
言い終えるなり、一瞬でワイルドスタンプの目前に移動し跳躍。刀を抜き放つと同時に骨の砕けるような音が響き、ワイルドスタンプは横倒れになった。
スズランは静かに刀を鞘に戻す。
俺たちはそれを呆然と見ていた。ワイルドスタンプはこちらに気づいたようだったが、その時点でもう、脳天に刀の柄を打ち込まれていた。目に見えて頭が陥没していたので、あの一撃で脳を潰されたのだと分かる。断末魔の叫びもなかった。
すご、と一言発しカタセ君がワイルドスタンプに駆け寄る。それを見て俺も我に返り、後ろについていく。
「あの、土産って言ってましたけど、こんなの持ち帰れるんすか?」
「ん? ああ、問題ない」
スズランが答えるなり、ワイルドスタンプが地面に吸い込まれるようにして消えた。僅かの間だったが、巨大な黒い穴が開いて、その中に入ったように見えた。
「【異空収納】という術だ。拙者は余り得意ではないが」
「アイテムボックスか!」
カタセ君が嬉しそうに言うが、スズランの表情が怪訝なものになる。
「む、アイテムボックスとは何だ?」
「あ、いえこっちの話です。要は異空間に収納できる術ってことですね。それで、どうやって使うんすか? これ俺らも使えるんすよね?」
目を輝かせてスズランに詰め寄るカタセ君。スズランは若干引いている。
「カタセ君、困らせちゃ駄目だよ」
「あ、そ、そうっすね。すいませんスズランさん」
「う、うむ、では、行こうか」
スズランが戸惑いを誤魔化すように背を向けて歩き出す。俺たちは先ほどと変わらず少しの距離をとってついていく。少々、頭が疲れていたので、特に何を思うこともなく歩いていたのだが、俺はふと違和感を覚えた。
静かすぎる。
季節は夏だ。太陽の輝き、汗が噴き出る暑さ。砂浜にいたときにそれを実感していた。なのに、蝉の鳴き声がない。こんなに木があるのに。
思い返せば、砂浜にいたときから波の音と擦れ合う葉の音の他は聞こえていなかった。今は波の音が消え、時折、控え目な鳥の囀りらしきものが聞こえる程度。
俺たちの足音が一番大きいかもしれないな。
「ん、あれ?」
カタセ君が立ち止まる。
「今、何か変な感じしませんでした?」
そう訊かれたが、俺には思い当たる節がなかった。首を捻って否定すると、スズランが感心したような息を漏らしてこちらに顔を向けた。
「ほぉ、分かったか。ヤスヒト殿は感覚が優れているのかもしれんな。今のは結界だ。この先には魔物は出ん。賊の類もな」
「結界! 魔物! 賊!」
ファンタジーっすね! と大興奮のカタセ君。いや何それ。俺も知りたい。
「ちょ、ちょっとカタセ君、落ち着いて。変な感じがしたって言ってたよね? それってどんな感じだったの? 詳しく教えて」
「あ、そうでしたね。ハハハ、あのですね、こう、なんか薄い膜が体にぺったり貼り付いたみたいな感じがしたんすよね。一瞬でしたけど」
身振り手振りを交えて説明してくれたが、やはり俺には分からなかった。何歩か戻って確認もしてみるが、ここ、と教えられても何も感じなかった。
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