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愛美~前編~
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しおりを挟む両親を見ていると、ときどき美女と野獣という言葉が頭に浮かぶ。どうして母が小さな野獣と結婚したのか不思議でならなかったけど、母は天然ボケで世間知らずなところがあるので、世間擦れした父にそそのかされたのだろうと短大に入ってから納得した。
高校に通っていた三年間で成長したのは胸とお尻だけだったように思っていたけど、そういう答えを導き出せる程度には私の脳も発達してくれていたようだ。
ただやはり、友人からグラマラスと評されるほどに発育した体はコンプレックスでしかなく、私は昨年辺りから人の視線が気になってぴったりしたものを着れなくなった。
特に、男の人の視線。たまに父まで舐めるように見ていることがあるように感じる。自意識過剰だとも思うけど、不快なことに違いはないので、いやな思いをしないように、服はなるべくボディラインを強調しない露出の低いものを選ぶようにしている。
今回も例に漏れず、ふわっとしたシャツと緩めのデニムジーンズにした。着替えは、シャツとジーンズがもう一組と、部屋着に用意したルームワンピースなどで、私のバッグの中にある服は、およそキャンプとは関係のないものしか入っていない。
他にはスマホの充電器とイヤホン、アランさんのグッズだけ。どうせ何をする訳でもないのでそれで構わないと思っている。私は新しいスマホが買ってもらえれば何でもいいのだ。
ロッジは父の知り合いが管理しているため、家具や電化製品の故障や、内装に大きな傷がつくことさえなければ無料で貸してもらえることになっている。最後まで乗り気ではなかった母が納得した理由がこれだった。私の現金なところは母譲りなのだろう。
ロッジの外観は、よく雑誌なんかで目にする明るい色の丸太小屋。屋根の色はダークブラウンで、柵付のデッキテラスがある。
周辺にも似たような形のロッジが幾つかある。普段の私なら、何棟あるか数えたり、外観の違いを探したりするのだけど、今日はそういう気分にならなかった。たぶん、痴呆気味の祖母をケアハウスの送迎車に預けたときのことが、まだ引っ掛かっているからだろう。
「ちょっとその辺見てくる」
私はロッジに荷物を運ぶ家族にそう声を掛け、周辺を散策することにした。
清々しい自然の中を歩けば、祖母に掛けられた心の枷も外れると思った。
「あんまり遠くに行くなよ」
父が声を掛けてきたので、私は、「はーい」と間延びした返事をして歩いた。
「あ、俺も行く」
「馬鹿、お前は手伝え」
「えー、何でだよ。姉ちゃんばっかり。自分の荷物も運んでねぇし」
「そのぐらい運んでやれよ。男と女じゃ違うんだから。それにほら、お前、釣りするだろ。お姉ちゃん、お前に付き合って無理やり来てるようなもんなんだからな」
「じゃあ来なきゃいいじゃないかよ」
「聞こえてるよ」私は足を止めて振り返り、ふて腐れた顔の学に言う。
「文句は私を連れてきたお父さんに言ってよね。私は来なくても良かったんだから」
「うっわ、最悪。何様だよ。後でアイスおごれよな」
「お父さんが買ってくれるってー」
私はまた歩き出す。すると、「そりゃないだろ愛美」と言う父の声が聞こえたので振り返って笑った。父が苦笑して続ける。
「お父さんも、後から追いかけるから。蛇とか、気をつけろよ」
私はもう振り返らずに、手を上げて応えた。
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