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カラット王国編
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「あっ、アルベルト殿下、そんなに揺らすといけませんわ!」
「どうしてだ? うわっ⁉」
クラウスの口からは魂が抜け出ていました。魔力が高いものには、それが見えてしまいます。アルベルトは今にも天に昇ろうとしているクラウスの魂を魔力で覆った手で引っ掴み、強引に口の中へと押し込みます。
ただ、それだけではいけません。心神喪失状態になった者の口から魂が抜け出た場合の応急処置については、学園の必修科目になっています。ゆえにアルベルトもメイも心得がありました。優秀なアルベルトは手順に従い、アルベルトの胸ぐらを掴み、その頬をバチコーンと思い切り張り倒しました。
それがこういった場合の正しい気付けの処置なので、アルベルトは何一つとして間違ったことはしていません。ですが、アルベルトは焦るあまり加減ができませんでした。力が強すぎた為に、クラウスの首がねじ曲がってしまったのです。
これには野次馬と化した貴族のお歴々も悲鳴を上げました。中には卒倒する方までありました。クラウスの胸ぐらを掴んだままでいるアルベルトの顔面も蒼白です。
「な、なんてこった。クラウス兄さんを殺しちまった」
アルベルトが悄然としながら、そう呟いたときでした。
「まだ諦めるには早いですわ」
メイがアルベルトを退けて、クラウスの胸ぐらを掴みます。そして首に治癒魔法を施しながら、アルベルトが殴ったのとは逆の頬をベチコーンと張り倒しました。
「ハッ⁉ 僕は何を⁉」
クラウスが殴られた両頬を押さえて目を覚まします。アルベルトは額の汗を拭って、安堵の息を吐きました。危うく殺人事件になるところです。寿命が縮む思いでした。
「すまない、エメラルド公爵令嬢。助かった」
「いえ、そんな……」
アルベルトとメイは見つめ合ってそんな遣り取りをします。その間、クラウスはメイの手からゴミのように放り捨てられていました。
「何事だ?」
騒ぎが大きくなった為に、国王陛下と第二王子のガゼルがやってきました。ガゼルはほんの少し前まで寝ておりました。跳ねた茶色い寝ぐせをいじりながら、上背のある体を伸ばし大欠伸をします。
「なんだい。誰かと思ったらメイじゃないか」
ガゼルは欠伸でずれてしまった眼鏡の位置を戻しながら言いました。ガゼルは熱心な魔法研究者なので、いつも寝不足です。学園の特別講師として招かれることもあるので、メイとも面識がありました。
メイは王とガゼルにカーテシーを行います。
「陛下、お目に掛かれて光栄ですわ。ガゼル殿下、お久しぶりです」
「ああ、構わん。挨拶はいい。何があったのかを聞かせよ」
「クラウス兄さんが、エメラルド公爵令嬢に濡れ衣を着せられたと言ってる」
アルベルトがスッパリと言い切ったときでした。
「あら、それは間違っていませんこと?」
メイのお決まりの台詞にクラウスとアルベルトは凍りつきます。アルベルトはトラウマからパブロフの犬のような状態に陥っているだけでしたが、クラウスはそうではありません。
先ほど蘇生処置が施されたばかりだというのに、またも命の危機に瀕していました。口から魂こそ抜け出てはいないものの、眼前に自らの過去が走馬灯のように流れ始めていました。
「どうしてだ? うわっ⁉」
クラウスの口からは魂が抜け出ていました。魔力が高いものには、それが見えてしまいます。アルベルトは今にも天に昇ろうとしているクラウスの魂を魔力で覆った手で引っ掴み、強引に口の中へと押し込みます。
ただ、それだけではいけません。心神喪失状態になった者の口から魂が抜け出た場合の応急処置については、学園の必修科目になっています。ゆえにアルベルトもメイも心得がありました。優秀なアルベルトは手順に従い、アルベルトの胸ぐらを掴み、その頬をバチコーンと思い切り張り倒しました。
それがこういった場合の正しい気付けの処置なので、アルベルトは何一つとして間違ったことはしていません。ですが、アルベルトは焦るあまり加減ができませんでした。力が強すぎた為に、クラウスの首がねじ曲がってしまったのです。
これには野次馬と化した貴族のお歴々も悲鳴を上げました。中には卒倒する方までありました。クラウスの胸ぐらを掴んだままでいるアルベルトの顔面も蒼白です。
「な、なんてこった。クラウス兄さんを殺しちまった」
アルベルトが悄然としながら、そう呟いたときでした。
「まだ諦めるには早いですわ」
メイがアルベルトを退けて、クラウスの胸ぐらを掴みます。そして首に治癒魔法を施しながら、アルベルトが殴ったのとは逆の頬をベチコーンと張り倒しました。
「ハッ⁉ 僕は何を⁉」
クラウスが殴られた両頬を押さえて目を覚まします。アルベルトは額の汗を拭って、安堵の息を吐きました。危うく殺人事件になるところです。寿命が縮む思いでした。
「すまない、エメラルド公爵令嬢。助かった」
「いえ、そんな……」
アルベルトとメイは見つめ合ってそんな遣り取りをします。その間、クラウスはメイの手からゴミのように放り捨てられていました。
「何事だ?」
騒ぎが大きくなった為に、国王陛下と第二王子のガゼルがやってきました。ガゼルはほんの少し前まで寝ておりました。跳ねた茶色い寝ぐせをいじりながら、上背のある体を伸ばし大欠伸をします。
「なんだい。誰かと思ったらメイじゃないか」
ガゼルは欠伸でずれてしまった眼鏡の位置を戻しながら言いました。ガゼルは熱心な魔法研究者なので、いつも寝不足です。学園の特別講師として招かれることもあるので、メイとも面識がありました。
メイは王とガゼルにカーテシーを行います。
「陛下、お目に掛かれて光栄ですわ。ガゼル殿下、お久しぶりです」
「ああ、構わん。挨拶はいい。何があったのかを聞かせよ」
「クラウス兄さんが、エメラルド公爵令嬢に濡れ衣を着せられたと言ってる」
アルベルトがスッパリと言い切ったときでした。
「あら、それは間違っていませんこと?」
メイのお決まりの台詞にクラウスとアルベルトは凍りつきます。アルベルトはトラウマからパブロフの犬のような状態に陥っているだけでしたが、クラウスはそうではありません。
先ほど蘇生処置が施されたばかりだというのに、またも命の危機に瀕していました。口から魂こそ抜け出てはいないものの、眼前に自らの過去が走馬灯のように流れ始めていました。
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