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第三章 六年後編
予定変更
しおりを挟む五日目になり、痺れを切らした俺は早朝に装備を整えこっそりと車を出た。だが共に暮らす婚約者二人の方が役者が上だったようで外で待ち伏せされていた。
「すごいわハオラン。言った通りのフル装備だったわ。これはダンジョンね」
「ソニア姉ちゃんこそ。出るなら五日目の朝って見抜いてたじゃない」
そう言う二人もフル装備だ。
俺と同じく、昨夜のうちにストレージに入れてた模様。
これは止めても聞かない場合はついて行くということだろう。
「あー、止める感じ?」
「止めても聞かないだろうからついて行くわ」
「どうせ最上級ダンジョンに行く気なんでしょ?」
俺は頭を掻く。ちょっと違うけど、そういうことにしておこう。
お手上げには変わりない。
「よくもまぁ、そこまで見抜くね君たちは」
「わかるよ。隠してたみたいだけど、ずっと考え事してたもん」
「ミーナも心配してたわよ」
ミーナにまで気づかれていたとは。
侮れないな。やはり可愛いだけじゃない。
「で、どうするの?」
「行くなら僕らも付き合うよ」
「いや、でもなぁ。三人も抜けたら、もし何かあったときに困るだろ」
「何より困るのは一人で最上級ダンジョンに挑まれることよ」
「だよね。なにかあったらどうするのさ」
ごもっとも。
「はぁ。わかったよ。好きにしてくれ」
そう言って、俺は転移石柱のある倉庫へと向かう。
二人は談笑しながらついてきた。
最上級ダンジョンね……。
実のところ、ハオランの予想は外れていた。
ソニアだけ正解って言うのも、なんだかハオランに悪いので指摘せずにいたが、俺がやろうとしていたのは暗黒地帯の偵察だった。
ユイに動きがないことが気になって仕方なかったから、ちょっとばかり中に入って気配を探ろうと考えていたのだ。
無謀だ心配だと小煩くなりそうだったので相談はしなかった。
ただ、一応フェリルアトスにだけはメッセージを入れて意見を求めた。
返信は『しても構わないけど、無理しない程度にしなよ』というもので、特に止められはしなかった。
なので、こっそり決行して成果があれば報告。なければ黙ってようと思っていたのだが、婚約者二人に見咎められてこうなったって訳だ。
まぁ、最上級ダンジョンでも別に構わないけれどもな。
体がなまっても良くないし、息抜きにもなるだろうから。
そんな思いで、倉庫の中に入って転移石柱の前に立つ。
「ねぇ、そういえばさ」
転移前に、ハオランが思い出したように口にした。
「ダンジョンって、最初級から最上級まで、全部大陸北部にあるよね」
「ああ、大陸南部のものは、すべて閉鎖されたからな」
「え? どういうこと?」
「あれ?」
俺はソニアに顔を向ける。すると苦笑してかぶりを振られた。
なるほど。誰も言ってなかったのか。
転移転生者パーティーにいたから、ハオランは知っているとばかり思っていたが誰も伝えていなかったようだ。
そうであれば知らなくても仕方ない。
これは転移転生者かアーケイディアの出身者しか知らない事実だろう。
「あのな、ハオラン。俺たちが生まれる前までは、大陸北部と南部で同じ数のダンジョンがあったんだよ。最初級から最上級までな」
「えぇっ、そうなの!?」
ハオランが驚きの声を上げてソニアを見る。ソニアが知っていたかを表情で確認したようだ。その意図を察したように、ソニアが首肯して口を開く。
「ええ、最初は平等に存在してたのよ。でもね、十六年前、アーケイディアが異世界転移の儀式を行った際に、怒ったフェリルアトスが閉じちゃったの」
「ほぇー! そうだったんだぁ! でも、可哀想だね。悪いのは上の人だけでしょ? 何も知らない人たちまで、そんな罰を与えられちゃうなんてさ」
「間違いない。けどな、フェリルアトスもただ腹が立ってそれをした訳じゃないぞ。アーケイディアって国がどんな場所かを知ってたからそうしたんだ」
「一度目と違って、思惑は外れたみたいだけどね」
ソニアがそう言って肩を竦める。
聞き捨てならない言葉だ。初耳だぞ。
「どういうことだ? もしかして一度目は上手くいったのか?」
「とりあえずフェリルアトスの思惑通りに事は運んだみたいよ。ダンジョンの資源が枯渇したことをきっかけに各地で国民の反乱が起こったらしいわ。それでアーケイディアの国力は衰退。最終的には革命が成ったって」
「未来が変わったってこと?」
「そうね。一度目の世界にはイスカはいないし、私もソニアとは別人の転移者だった。それにアーケイディアには囚われる転移者もいなかったから」
「それじゃあ、ガブリエラの実験はどうなったの?」
ハオランの質問を聞いて、心臓が跳ねた。
ソニアの寂しげな微笑みを見て後悔する。
「国民を犠牲にしたらしいわ。だけど結果を出せずに犠牲ばかり増えて、最後は反乱軍に捕えられて魔女として火あぶりの刑にされたって。異形は地球の『御使い』だったものだから、地球人の転移者との適合率の方が高かったみたい」
やってしまった。もっと早くに止めるべきだった。
その部分は俺もフェリルアトスから知らされてたのに。
ソニアはどうもユイの一件から一度目との変化を気にしすぎているように思う。まったく考えないのもどうかと思うが、考えすぎも良くない。
思い詰めないように気を配ろうとはしているのだけれども。
「一度目はユイちゃんも──」
ほら見たことか。心配した矢先にこれだ。
「おういソニア。それは言わなくていいぞ。もう変えようがないことだからな」
「そ、そうね。ごめんなさい」
「あ、あの、ソニア姉ちゃん……ごめん。僕が変なこと訊いたから」
どうしたもんかね。
こんなときは、優しい言葉の一つもかけた方が良いのかもしれない。
でもなんて言う?
結局は自責の念との戦いだ。
自分が恣意的であることを認めて開き直らなければ乗り越えられない。
ソニアは最初そうだった。今はブレているだけだ。
難しいな。間違ったことをしたと省みているところに、間違っていないと心にも無い肯定の言葉を掛けるのはしたくないし……。
よし、アプローチを変えよう。
「あー、ソニア。君が犯した間違いの原因は俺だ。だからこう考えろ。イスカさえいなければ、こんな世界になってなかったって」
「ちょっと、何を言い出すの? そんなこと、思える訳ないでしょう?」
「そうか? 俺は君にならそう思われても受け止める自信があるけどな。それだけ愛されてたって証明だし。男冥利に尽きるってもんだよ」
うわ恥ずかしい。気障ったらしいなこれ。
そっぽを向いて頬を掻きつつ言ったけど、反応はどうだろうか?
ちらりと見ると、ソニアが顔を真っ赤にして俯いていた。
素直に喜べているのだろうかと気になった。
嬉しく思っていること自体が罪悪感に繋がっているかもしれない。
互いを愛しく思うだけでも不謹慎。
これが大勢の屍と引き換えにした幸せ。
なんて、考えてるかもしれない。
だとしても、俺はそんなこと意識するつもりは更々ないけどな。
何があろうが、俺は三人の婚約者を愛するし守り抜く。もう一年ちょっとしたら結婚して子作りだってする。毎日満足できるまでする。妊娠したら出産までずっと俺が家事をする。産まれたら育児もする。嫁さんも子供も目一杯可愛がる。
腹は決まってる。
悪いのは全部アーケイディア。
ユイは和解できない敵。だから始末する。
もうそれで良いんだ。
悩んだってどうにもならないんだから。
「まぁ、とりあえず行こうか」
俺は二人と共に最上級ダンジョンのある砂漠へと転移した。
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今日一発目ハオラン!!ってどきどきしました。
お昼の更新感謝します。
これからも拝読させていただきます。
(⌒∇⌒)
sassyさん、お読みいただきありがとうございます。ハオランを酷い目にあわせ過ぎて作者は書きながら涙しておりました。そろそろ一章が終わります。
現在、二章を別作品として書くか、そのまま続けるかを思案中です。
もし別作品となった場合もお読みいただけると嬉しく思います。感想、ありがとうございます。大変、励みになります。