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第三章 六年後編
特例措置(2)
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ダンジョンに入ってから十二時間後──。
休憩室に入った俺は用意したテーブル席に着き、ストレージから取り出した肉まん屋のおっちゃん特製の大盛り炒飯とあんかけラーメンを掻き込みながら小型情報端末でレベルを確認した。
おし、四百。これはいけるな。
事前に組んだ作戦が功を奏した。
すべてソニアのお陰だ。最高の婚約者。いてくれて良かった。
ソニアは三部屋あるうちの一部屋を一人で担当している。
休憩室への移動は禁止。そうするように俺が頼んだ。
「鬼かと」
「婚約者にする仕打ちじゃねーデスよコンチクショー!」
「笑えん冗談だな! 二十四時間だぞ!」
「僕も賛成できないよ! 休憩なしは酷すぎるよ!」
「私は構わないけど、効率は落ちると思うわ」
昨日、提案したときの反応はこんな感じだった。
だが俺は頑として譲らなかった。
鬼畜だの人でなしだの罵声を浴びせられたが絶対に譲らなかった。
理由は既に出来ている攻略法にあった。
「見損ないマシタ! おとといきやがれデスよ!」
「まぁ、聞いてくれ」
「はぁ、こんなクズだとは思わなかったかと」
「最低なゲス野郎だ! 偏屈すぎる!」
「いや、あの、だから、ね」
「ここまで言われても考え直さないってどうかしてるわ」
「意固地になっちゃってるんじゃないかな?」
「えええい! 聞けっつってんだろ馬鹿たれ共がぁっ!」
俺はフェリルアトスと期間限定ダンジョンの内容を詰めているとき、再出現間隔を最短にするよう頼んだ。設定可能範囲だと十秒が限界で、それも飽くまで最低値の設定として置いてあるだけで、そんな速度で再出現する魔物はどこにもいないという。
とはいえ、それで最速かと言えばそうではない。
問題は、倒した後どのタイミングから再出現のカウントダウンが始まるのかということ。仮に魔物の体が消失してからの場合、消失までの間隔も最低である必要がある。
これまではその部分をなおざりにしてきた。
そこまで神経質になる必要もなかったからだ。
しかし、そうも言っていられない事態になった。
とにかく無駄を省き、最高速でレベルを上げねばならない。
そういう思いを抱いた中での期間限定ダンジョン作成。
レクタスの開発者と話せるのみならず、要望を出してダンジョンを作らせることまでできるとなれば、そりゃあ悪巧みの一つや二つはするよね。
つまるところ、俺はこのダンジョンを『先に攻略法を用意し、それに沿うように作らせた』のだ。フェリルアトスに気づかれないように上手いこと誘導して。
まぁ、なんとなく気づかれて厳しい制限は付けられたけれども。
それでも完全には見抜かれなかったから良し!
再出現のカウントダウンは倒した魔物の体が消失してからだったので、まずはそれを最短設定の一秒にしてもらい、部屋に出現するクリオネスの数は三十になるよう誘導。配置は十体ずつ三列に並んでいる状態にしてもらった。
これで仕込みは完成。あとはソニアに【自動追尾】の設定と舞踊する銀剣の調整をしてもらうだけで少ない負担で安全に延々と最高効率の経験値獲得が可能になる。
重要なのは追尾と貫通。追尾する場所をクリオネスのハート型の核にし、ソニアのオリジナル四属性複合魔術である舞踊する銀剣に貫通性能を持たせて射出すれば、一列串刺しで十体討伐完了。隣の列も、その隣の列もそれで終わる。
位置がずれた際の討ちもらしは二丁拳銃で。こちらも魔力が撃ち出されているので【自動追尾】が適用される。ただし銃弾は速度がある為、あまり有効ではない。
という訳でソニアには【精密射手】も設定してもらう。
これは弓や銃などの武器による遠距離攻撃を十万回的に命中させることで入手可能な技能で、その類の武器の命中精度が二割向上するというもの。
俺は所持していないので感覚はわからないが、設定すると違いがはっきりわかるらしい。命中箇所が狙った場所に近くなるそうだ。
加えて、ハオランに頼んで拳銃は速射性のみを重視したものに魔術式を書き換えてもらった。クリオネスの核以外に与えるダメージは威力に関わらず一律で『1』。威力があってもなんの意味もない。手数を増やした方が素早く倒せる。
速射性だけならオートマチックピストルの方が良いのではという意見がシンから出たが、使い慣れた物の方が良いだろうと判断した。
ソニアの銃撃感覚が狂っても良くない。
レベリングは飽くまで過程なのだと言って説き伏せた。
懸念されるのは魔力切れだが、これも対策は考えてあった。
鍵は魔力の自然回復量だ。
俺はこの回復量がどのように決められているのかを既に調べていた。なんのことはない、保有魔力の最大値から割合算出されているだけ。
であれば、保有魔力を積み上げれば良い。
ソニアにはハオランが魔力回復速度上昇の術式を刻んだ戦闘服と魔力保有量を増加させるM参型の軽鎧装甲を装備してもらい、その上で【魔の御守】をあるだけ装備し、更に魔力保有量を底上げしてもらった。
これで剣三本の射出に使う魔力より再出現までの間に訪れる自然回復量の方が多くなる。仮に討ちもらしの対処で銃撃を行っても、余程のことがなければ魔力が枯渇することはない。レベルの上昇に伴い魔力保有量も上がっていくからだ。
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