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第三章 六年後編
特例措置(1)
しおりを挟む翌日早朝、イスタルテ共和国GS社地下駐車場の一角に白い小屋が出現した。
期間限定ダンジョンの出入口だ。
昨日、俺がフェリルアトスに送信したメッセージは『経験値効率が最高のボーナスダンジョンを作れるか?』というものだった。
返信は『内容次第』で、パパッと要望を伝えて用意してもらったという訳だ。
そして、続々集う十八名。
「よく思いついたわよね。こんな馬鹿げたこと」
「前々から思っていたが、やはりイスカはおかしいかと」
「うえっへっへ、俺もシンの旦那に同意だな」
「そうねぇ。会ったときからこうだったわぁ」
「規格外は変わらずねー。驚かされてばっかりだわー」
「ふっ、まったくだ。いつまでも追いつける気がせん」
「ブハハハハ! そりゃしょうがねぇや!」
「いっひ、イスカだもんなぁ! 逆立ちしたって並べねぇよ!」
「なぁ、イリーナ。俺たちはとんでもない息子を持ったな……」
「アッハッハ、どんどんジジイに似てくよねぇ! 破天荒なとこまでさぁ!」
「なんじゃなんじゃ、坊主はお前らの子じゃったのか!」
「グランパ! イスカは二人の養子デスよ!」
「クハハハハ! これはまた騒々しいな!」
「旦那様の声が一番大きゅうございましょうや」
「まさか俺たちまで呼ばれるとはな。スカーレット、お前は戦えるのか?」
「父さんこそ。オルトレイだったのって私が生まれる前でしょう?」
「うーんと、十八人、いるね。イスカ兄ちゃん、全員揃ったみたいだよ」
「おう、ありがとなハオラン」
俺がフェリルアトスに出した要望は通りはしたものの、二十四時間三パーティー限定という制限が付いた。これはダンジョンの魔物が減少するのを危惧してのこと。
魔物化した悪人の魂は殺される度に罪が軽減される。
赦されればダンジョンから解放されて人の輪廻に戻る。
現状、罪深い魂で溢れそうになっているとはいえ、潜るのは最上級ダンジョンを破竹の勢いで攻略中の俺たちだ。フェリルアトスも相応の危機感は抱いたようだ。
ちなみに俺が出した要望メッセージは──。
『再出現間隔が最短で、出現するのは大量のクリオネスのみ。ボスは不要。部屋は二つか三つで、それとは別に休憩できるように安全な部屋も頼む』
『部屋を行き来しながら馬鹿みたいに狩る気だろそれ!』
さもありなん。驚く程に速い返信だった。
魔物が減少すればダンジョンの環境が悪くなるらしくドロップアイテムやダンジョンで得られる資源まで減少してしまうとのこと。
そりゃ制限がつくのも当然と言えば当然。
いくら危機的状況でも、先がめちゃくちゃになれば本末転倒だものな。
だがこちらもそれで『はいそうですか』と引き下がる訳にはいかなかった。
なんせ命が懸かってるからな。
本当の意味での死活問題だ。
どうあっても折れることはできなかったので必死になって交渉した。
『三日でいいから!』
『駄目! 君たちのパーティーだと一日が限度!』
結局、最初に提案した俺たちのパーティーで三日というのは呑んでもらえなかったので、妥協案としてドロップアイテムなしの三パーティーで一日。
どうにか交渉成立。
時間がないからと煽りに煽ってアル氏族国家のルォシー邸とルシファリス公国にあるノルトエフの車内にまで転移石柱を設置してもらってと至れり尽くせり。
とはいえこれもまた期間限定。飽くまで一時的な措置。
選出するメンバーについても、厳選するよう念を押された。
言われなくても信頼できる仲間しか呼ばないんだが。
どうやら無茶を言い過ぎて心配性が発揮された模様。
まぁ、確かに俺も知らんおっさんとか適当に連れていきそうな勢いだったけれども。数合わせでもそういうことはするなってことだろう。
で、俺たちのパーティーとオンソウのパーティーに、ノルトエフとイリーナ夫妻、ラスコールとスカーレット親子、ジジイとルォシーという六名の臨時パーティーを選出。フェリルアトスに承諾をもらい、こうして集ってもらったという流れだ。
さて──。
「はい、皆さん注目!」
俺は手を叩きながら、白い小屋の前に立つ皆の前に出る。
「朝早くから集まってもらってありがとうございます。今日は事前に送ったメッセージにある通り、一日限定ダンジョンでレベリングしていただきます」
「いよっ! イスカ!」
「待ってました!」
「ふひひっ、合いの手入れんじゃないよもう」
笑いながらもイリーナがシンイーの代わりをしてくれる。ソンリェンとユーエンはいつまで経っても馬鹿兄弟だ。どこまでも緊張感がない。
でも、それでいいよ。
緊張してちゃレベリングも上手くいかないからな。
俺は軽く笑い、咳払いをしてから口を開く。
「ダンジョンが開放されるのは二十四時間だけです。入った時点でカウントダウンが開始されますので、事前に仮眠や食事の順番は決めておいてください。出現するのはクリオネスのみになってます。最低でもレベル三百には到達してください」
「レベル三百だって!?」
「き、聞き間違いじゃないわよね……?」
ラスコールが目を剥き、スカーレットが頬を引き攣らせる。
オンソウのパーティーも耳を疑った様子でざわつき始める。
そんな中、扇子で口元を隠したルォシーがそっと手を上げた。
「あ、あのう、ちょっとよろしいでしょうや?」
「はい、なんでしょうルォシー・アル大氏族長?」
「クリオネスとは、どんな魔物なのでしょうや?」
「ありがとうございます。実に良い質問です。クリオネスとは最上級ダンジョンの五十階層以降に極稀に出現する、倒せば全魔物中最大の経験値を得ることができる希少な魔物です。生憎と今回はドロップがありませんが、そこはご了承ください」
「いえ、あのう、そうではなく……」
「ああ、危険性については問題ありません。行動パターンは体当たりと回避のみで、物理的な攻撃力は低いです。【風術】と【水術】を使いますが、こちらも防御主体なのでご安心ください。たまに冷たい水の球を撃ってきますが威力は低いです」
クリオネスは一メートルくらいある宙に浮いたクリオネだ。ハート型の核に攻撃を加えれば一撃死させることができる。ただ【風術】での高速移動と【水術】の壁に阻まれる為、容易には狙えない。
核以外の部位は『1』しかダメージが通らない。ただし生命力は『5~7』しかなく、他の魔物と違って自然回復しないので時間さえかければ倒せる。
「イスカ君、ちょっといいか?」
「はい、なんでしょうラスコール・グッドスピード議長」
「興味本位で訊くが、通常、クリオネスとの遭遇率はどんなものなんだ? 君たちドリームチームの討伐率も合わせて教えてもらいたい」
「うーん、体感になりますが、遭遇率は最上級ダンジョンの九十階層に丸一日こもって一体といったところです。その低さもさることながら、遭遇後の逃げ足の速さもまた討伐を難しくしていますので、三四日に一体狩れるかどうかといったところです」
「なんと。そんな希少な魔物を狩れるのか……!」
ラスコールが興奮気味の笑顔を見せる。もう還暦近いというのに火がついてしまったようだ。若い頃を思い出して胸が踊ったのだろう。
「ねぇ、イスカ君。撮影しても構わないかしら?」
「レベリングに支障が出なければ大丈夫ですけど、撮影後の公開は控えた方が良いと思います。あらぬ疑いをかけられる恐れがありますから」
「ええ、飽くまで資料用としてよ。公開するにしても、希少性の高い魔物であると周知する為の編集をしてからにするわ。勘違いされても困るものね」
説明を終えたところで、それぞれのパーティーに分かれて話し合いに入ってもらう。最後にもう一度、とにかく時間の無駄が発生しないようにとだけ念入りにお願いし、俺はパーティーメンバーと共に一足先にダンジョンへ足を踏み入れた。
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