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第三章 六年後編

国賓と思惑(1)

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 オンソウたちとの再会の宴が終わり皆で酒家から出ると、店の前に黒いスーツ姿の青年が四人立っていた。何事かと警戒した直後、最も体格の良い一人が目礼した。

「イスカ様ですね。シン隊長の命を受けて、警護しておりました」
「あ、ああ、そうですか。それはどうもありがとうございます」

 頼んだ覚えはない。ただスカーレットにオンソウたちと食事をすると伝えてあったので、配慮してくれたのだと覚る。

 隣に立っていたタイランが俺に顔を向ける。

「知り合いだったのか?」
「というか、俺たちの動画を買い取った人が手配してくれた警護だな」
「動画の買い取り? そこら辺の仕組みを詳しく教えてくれねぇか?」
「わかった。長いからメッセージを送っとくよ」

 オンソウたちと別れの挨拶を済ませ、見送ったところで警護の一人が口を開いた。

「国賓がお待ちです。案内しますのでついてきてください」
「え、国賓?」
「失礼」

 警護がさっと顔を寄せる。

「アル氏族国家トライブ氏族長ルォシー・アル様と、その伴侶のクリシュナ・チャンドラー様です。既に合議体との会食は済ませられ、皆様方をお待ちの状況です」

 クリシュナ……転移者だな。

「どうしてまたそんな偉いさんが?」

「理由については知らされておりません。我々はただ皆様方を無事に連れてくるよう命じられただけですから。あちらに車があります。行きましょう」

 歩き出す警護の後に続く。
 四人以外にも警護はいるようで、インカムで細々と連絡を取り合っている。

「なんだか映画みたいだな。一気にVIPだよ」
「そうね。気配りが過剰な気もするけど、助かるわ」
「人混みに呑まれないのはいいよね」

 用意されていた車はリムジン型の見るからに高級感のあるものだった。

 コーティングで表面がツヤツヤ。こんなの乗っていいのかよ。

 扉を開けて「どうぞ」と乗るように促され、お腹が痛くなってくる。

 俺は婚約者二人に先に乗るよう手で示し、最後に車内に入った。

「わぁ、なにこれリビングだよもう」
「快適ね。あ、ハオラン、飲み物もあるみたいよ」
「本当だ。小型冷蔵庫まである。すごいねー」

 ソファのような座席に無遠慮に腰を下ろし、車内を躊躇なく探る義妹たち。

 まるで気後れした様子がない。

「何してるの貴方? 座らないと危ないわよ?」
「うーん、君たちはこう、緊張というかそういうのはないのかい?」
「あるよ。イスカ兄ちゃんが獄卒スズカに突っ込んだときは心臓が縮んだよ」
「私も。信じようって言ったけど凄くお腹が痛かったわ」

『信じよう』じゃなくて『好きにさせよう』だった気がするが……。

 それはそうとして言われて納得。
 国賓と聞いて萎縮した自分の方がおかしかった。

 考えてみれば、命懸けの馬鹿をやらかしていた。
 あのときは一切緊張してないってどういうこと?

「俺って危ないことしてたんだなぁ」
「今更!?」
「ほら、動いたわよ。早く座って」

 ソニアがペチペチ叩いて示したのは自分の左隣り。
 俺一人分の隙間を開けてハオランがいる。

「ソニアが右でハオランが左か」
「そういうこと」
「早く早く」

 広いんだからくっつく必要もないんだが。

 愛されてるなぁ。

 オンソウたちとの食事がよっぽど楽しかったのか二人は上機嫌。たっぷり甘やかしたり甘やかされたりしているうちに車が止まり「到着しました」との声がかかった。

 そこはGS社の本社だった。

「案内します。こちらへ」

 扉が開き、車を降りるよう促される。

 唯々諾々。

 厳重な警戒体制の取られているエントランスホールを抜けてエレベーターへ。
 無機質でスタイリッシュな印象のあるメタリックグレーの長い廊下を歩き、やがてスカーレットと商談を交わした応接室前へと到着。

 案内してくれた警護の人がインカムで連絡。ノックした後に扉を開く。

 扉が開いた先には、俺と背丈が変わらないインド風の赤い民族衣装を着た褐色の肌の男と、クレオパトラを思わせる髪型の赤いチャイナドレスを着た美女が待ち構えるようにして立っていた。どちらも酒家のウェイトレスのように興奮した様子。

 この二人がルォシーとクリシュナか。でもなんでこんな──。

「だ、旦那様! イスカが! ここにイスカがおりますえ!」
「クハハハ! 生イスカだ! ソニアもいる! 生ソニアだ!」
「されば後ろの可愛らしい方がハオランなのではありませぬか!?」
「おおおお! 撮影者の! なんと若い!」

 予想だにしていなかった事態に俺たちは立ち尽くす。

 ど、どうすりゃいいんだこれ?

 戸惑っていると、眉根を寄せたシンが溜息を吐いて間に入ってくれた。

「二人とも、少し落ち着くと良いかと。イスカ、よく来てくれた。ソニアちゃんとハオランちゃんも。急な呼び出しに応じてくれて感謝しているので」

「お二人とも、お席にお戻りになってください。イスカ君たちが入れませんので」

 スカーレットが苦笑しながら促すと、ルォシーがはっと我に返った様子を見せて赤面し、素早く開いた扇子で口元を隠した。
 
 
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