67 / 101
第二章 レッキス編
制裁譲渡(2)
しおりを挟む「う、うわ、うわあああ!」
「あ、ああ、そんな……」
「ひ、人でなし……!」
は? 思わず首を傾げてしまう。
「俺が人でなし? じゃあお前らは? こんな惨事を起こして、家が取り潰しになる死罪確定のクズだよな? 俺は街を守る為にやってんだよ。一緒にするな」
青緑の輝きを持つウェドラディアの群れは、鮮血で描かれた斑模様の所為で悍ましい姿になっている。そうはなりたくなかったはずだ。俺も見たくなかった。
ふと、俺が放り投げた女に食らいついたウェドラディアと視線が合う。
強いな──。
そう感じた瞬間、他のウェドラディアも次々とこちらに顔を向けた。
龍のようだと思っていたが、四足獣だった。短い四つ足で歩いている。
速度を落とし、じわじわと警戒した様子で近づいてくる。
おそらく、俺の気配が大きいからだろう。
こっちも同じ感覚だ。これはかなり厳しい。
【分析】で一番大きいウェドラディアを確認したところレベルは四十五。技能の【野生】と【全身強化】に体格補正も加え、能力値は俺より少し低い程度。
一体だけならともかく、あの群れと殺し合うかもしれないのか……。
五体満足でいられるかわからんな……。
寒心に堪えないが、その一歩手前で気持ちを留めて三人に向き直る。
今はできることをする。駄目なら腹をくくる。それだけだ。
「さぁ、次は誰だ?」
「つ、次はって……」
「どどどどういうことだよぉ!?」
一番威勢の良かった男が尻もちを着いた。
他の二人は既に崩れて座り込んでいる。現実を受け入れられないのか呆然としているが、それを許す気はない。しっかりと馬鹿をやったことを理解させてやる。
「ウェドラディアはな、一度狙いをつけた相手をずっと追うんだ。殺すまで追い続けるんだよ。だから帰ってもらうには、お前らを差し出さなきゃいけない」
「な、何言ってんだ!? 正気かよ!?」
「正気だよ。こっちはもうお前らの命で済むことを願うしかないんだよ。もしそれでもウェドラディアが止まらなかったら、死に物狂いで戦わなきゃいけない。そうならないように管理してたのをお前らが台無しにしたんだ。責任は取ってもらう」
「ま、ま、待ってくれ! 違うんだよ本当に!」
「さっきから違う違うって、何が違うんだよ?」
「そんなつもりはなかったんだ! 迫力ある映像を撮りたくて!」
「じゃあ撮影機の準備しとけ。今から撮れるから」
俺は言い訳をする男の足を掴み、ウェドラディアの群れに向かって放り投げる。
「わ、わあああああ! がっ、ぐあ、ひ、ひぃっ」
男は食らいつかれず、ウェドラディアの群れの前に落下した。あえて食らいつかずに見送られたように見えた。やはり、簡単に殺す気がないようだ。
女が殺されたときに感じた拷問刑の雰囲気は間違いではなかった。
ウェドラディアは意図的にこいつらを苦しめている。
「わ、わぁっ、ち、違うんぎゃあああああ!」
ウェドラディアは示し合わせたように男を睨みつけて顔を寄せ、体を押さえつけた上で両手足に噛みつきゆっくりと引き始めた。ぶちぶちと男の四肢が千切れていく。
「うぎっ、ぎぃい、だっだぁずげでぇえ」
グシャッ──。
八つ裂き後の踏み潰しか。よっぽど腹に据えかねてるな。
ここまで怒り狂うなんて、こいつらはウェドラディアに何をしたんだ?
「おい、お前ら、一体何した?」
二人に向き直って訊いたが、返事はない。
男は嗚咽をもらして身を縮め、女の方は失禁して気を失っていた。
俺は気絶した女に歩み寄って胸ぐらを掴み、頬を張って叩き起こす。
「う、痛っ、痛いわね! 何すん……」
女は威勢よく目覚めたがすぐに青褪める。良い夢でも見てたのか気絶しているときは血色が良かった。図太すぎて頭にくる。どういう神経してんだよ。
「なぁ、お前ら、ウェドラディアに何をしたんだ?」
「な、何も……」
「ああそう。じゃあ次はお前な」
そう言いながら女の襟裏を掴む。
すると「待って!」と慌てて手足をばたつかせた。
「いやもういいよ。嘘吐くだけだろ」
「待って! 言うから! 言いますから!」
「なら早く言えよ。投げるぞ」
「た、助けてくれるなら言います!」
「ウェドラディアに頼め。今投げてやるよ」
「え? ちょ、ごめんなさいごめんなさい言います言いますからあ!」
俺は女の襟裏を引き寄せ、軽く助走をつけてウェドラディアに向かい放り投げた。女は先程の男と同じく地面に落ちるのを見送られ、八つ裂きの刑に処された。
「ひぎゃあいだいだいいだいいだいいい!」
汚い悲鳴がグシャリと潰れて消える。
ウェドラディアは俺が協力していると理解してくれたのか、近寄るのを止め、おとなしく待ってくれている。俺に向ける視線も穏やかだ。希望が見えた。
0
お気に入りに追加
837
あなたにおすすめの小説
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
異世界を服従して征く俺の物語!!
ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。
高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。
様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。
なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる