上 下
66 / 101
第二章 レッキス編

制裁譲渡(1)

しおりを挟む
 
 
 俺は歩道から車道に移り、バギーの走る車線を駆ける。隣の車線に車が止まっているところがあった。そこで立ち止まり進路を塞ぐ。

 バギーは俺を避けようとしたが、俺はその動きに合わせて移動し前に立ちはだかる。するとバギーは甲高いブレーキ音を発して急停止した。

「おい! どけ! 邪魔だよ!」
「ちょっと止めないでよ!」

 後ろでもう一台も止まっている。クラクションがうるさい。

「何止まってんだよ! そんなガキ轢いちまえよ!」
「そうよ! どうせ平民よ!」
「何言ってんだ! 俺を人殺しにする気か!」
「もういいでしょ! 出して早く!」

 焦った様子で言い合いをしている。自分のことしか考えていない。
『人殺しにする気か』だって? 何をしたかわかってんのかこいつら?

 俺は目の前のバギーに一歩踏み込みストレージに手を入れる。そしてトンファーを取り出すと同時に渾身の力で車体に向かって振り下ろした。

 ドガン──!

「なっ!?」
「きゃああああ!」

 二台目にも駆け寄り、同じことをする。ズガンと激しい打撃音が響いてフロント部分が潰れる。ひしゃげた車体の隙間から火が噴き上がる。

 大破したバギーから、乗っていた四人が転がり出る。

「お、お前! なんてこと!」
「なに考えてんのよ!」
「くそ、どうすんだこれ!」
「クソガキ! 私たちが誰ぐええ──?」

 激昂して向かってきた女の革鎧を掴んで引き倒し、そのまま歩いて門の方へと引きずる。泥塗れで滑るかと思ったが、襟裏に指がかかって問題なかった。

「うぐっ、ちょ、ちょっとぉ! 誰か助けなさいよぉ!」
「うるさい」
「ぐえっ」

 襟裏を掴む手首を内側に回し込み、革鎧で絞めて黙らせる。
 手足をばたつかせて呻くが気にせず進む。
 一旦振り返って呆気に取られた様子の三人を流し見る。

「よく聞けよ。俺はこんななりだが街の治安維持に携わってる。しっかり捕縛する権限も持ってんだよ。お前らだろ? ウェドラディアを連れてきたの」

「捕縛する権限? はっ、お前が?」

「信じなくても別にいいぞ。後で不利になるのはお前らだ」

「あ、い、いや、ち、違う! 事故だ!」

「事故? あれがか? よく見ろよ」

 俺は門を指差す。ウェドラディアは二十体程に増え、付近の住居や車を破壊し、側にいる人やレッキスを襲いながらこちらに向かっている。
 駆けつけた衛兵隊は手を拱いている。緊急マニュアルに従って避難誘導を行っているはずだが、ここまで酷いと自分の身を守るので精一杯だろう。

「事故で片付けるのかあれを?」
「ち、違うんだって」

 男の一人が半笑いで両手を広げ遠隔撮影機リモートカメラを見せる。

「ほ、ほら、動画を撮ったんだ! ここに全部入ってる! 金が入れば、どうとでもなるから! 編集して売り出せば有名になるし、何も問題ないんだよ!」

「答えになってないだろ。迷惑系撮影者みたいなことほざきやがって。もう何人も死んでるし街も壊されてる。どうすんだよあれ? 責任取れんのか?」

 そう訊ねると、別の男が「だああ!」と吠えて俺を睨みつける。

「おいガキ! 調子に乗ってんじゃねぇぞ! あの辺に住んでるのは、どうせ魔物と平民だけだろうが! 俺たちは貴族の令息令嬢だぞ! 命の重さが違うんだよ!」

「ねぇ、もういいから早く逃げよ! 近づいて来てる!」

「ちょ、ちょっと、私を置いてく気! 放せクソガキぃ!」

 呆れて溜息が出た。理解力が乏し過ぎる。

 やっぱり思い上がった馬鹿には迫力を消してると侮られて駄目だ。
 これだけ力の差を見せても、俺がただの子供にしか見えないらしい。

 気配をより深く消す訓練をしているうちに、高レベル者特有の迫力の消し方も体得したが、こういう相手にはさっさと出した方が良かったようだ。

 うるさくて話にならないからな。
 ついでに【気配制御サインコントロール】も全開だ。

「ひっ、ひぃっ!」
「な、な、なんだ、お前!」
「ば、化け物……!」

 三人は途端に後退り、目を見開いて震えだした。
 遠慮せず最初からこうしてりゃ良かった。

「なぁ、お前ら目が見えてるよな? よく見てみろよ。街のそこら中に掲げてあんだろ? 字が読めなくてもわかるように絵もつけてあんだよ。なんて書いてある?」

 俺は付近に掲げられた看板を指差す。

「大森林に許可なく立ち入る者、貴賤問わず死罪って書いてないか?」

 三人が狼狽えた様子で俺の指差した方向へ顔を向ける。

「え? いや、は?」
「し、死罪? 連座って……」
「う、嘘でしょ?」

「貴族であった場合は爵位剥奪の後に取り潰しだ。二親等まで連座が適用されるから、お前らもお前らの親も祖父母も終わりだよ。だから──」

「え?」

 俺は出入口の方に向かい駆け、掴んでいる女を放り投げた。放物線を描いて飛んでいく女に向かい、一際大きなウェドラディアが大口を開けて突っ込んでくる。

「きゃあああああ!」

 長話で距離を詰めさせた甲斐があった。
 丁度良い位置だ。獲物は渡すぞ。

 バクンッ──。

「ひぎっ、いぎゃあああ! だっだずげでええ」

 女は噛みつかれ、ゴリゴリと咀嚼された。
 口からはみ出た手足に他のウェドラディアが噛みつき引き千切る。

 頭は最後まで残された。そう簡単に死なせる気はないらしい。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生まれた時から「お前が悪い」と家族から虐待されていた少女は聖女でした。【強火ざまぁ】☆本編完結☆

ラララキヲ
ファンタジー
<番外編/更新準備中> ★変更前Title[聖女にはなれません。何故なら既に心が壊れているからです。【強火ざまぁ】]    ───  ビャクロー侯爵家の三女【エー】は今年“聖女選定の儀”を受ける。  その為にエーは母や姉たちから外へ出る準備をされていた。  エーは家族から嫌われていた。  何故ならエーが生まれた所為で母はこの家の跡取りの男児を産めなくなったから。  だからエーは嫌われていた。  エーが生まれてきたことが悪いのだから仕方がない。家族を壊したエーを愛する理由がなかった。  しかしそんなエーでも聖女選定の儀には出さなければならない。嫌々ながらも仕方なく母たちは出掛ける準備をしていた。  今日が自分たちの人生の転機になるとも知らずに。     ─── 〔※キツ目の“ざまぁ”を求める人が多いようなのでキツ目の“ざまぁ”を書いてみました。私が書けるのはこの程度かな〜(;^∀^)〕 〔※“強火ざまぁ”の為に書いた話なので「罪に罰が釣り合わない」みたいな話はお門違いです〕 〔※作中出てくる[王太子]は進行役であって主人公ではありません※〕 〔★Title変更理由>>>『なれません』ではおかしいよなぁ……と思ったので(; ˊ∀ˋ )〕 ◇テンプレドアマットヒロイン ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇『ざまぁ』に現実的なものを求める人にも合わないと思います。 ◇なろう&ミッドナイトノベルズにもそれぞれの傾向にあった形で上げてます。 <※注意※『ざまぁ』に現実的なものを求める人や、『罪に釣り合う罰を』と考える人には、私の作品は合わないと思います。> ※☆HOTランキング女性向け【1位】!☆ファンタジーランキング【1位】!に入りました!ありがとうございます!!😆🙏

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾
ファンタジー
前世の記憶を持って生まれたロデス王国の第五王子、セリウス。赤子時代から魔法にのめり込んだ彼は、前世の知識を活かしながら便利な魔道具を次々と作り出していた。しかしそんな彼の存在を脅威に感じた兄の謀略で、僅か十歳のときに王宮から追放されてしまう。「むしろありがたい。世界中をのんびり旅しよう」お陰で自由の身になったセリウスは、様々な魔道具をクラフトしながら気ままな旅を満喫するのだった。

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

処理中です...