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第二章 レッキス編
制裁譲渡(1)
しおりを挟む俺は歩道から車道に移り、バギーの走る車線を駆ける。隣の車線に車が止まっているところがあった。そこで立ち止まり進路を塞ぐ。
バギーは俺を避けようとしたが、俺はその動きに合わせて移動し前に立ちはだかる。するとバギーは甲高いブレーキ音を発して急停止した。
「おい! どけ! 邪魔だよ!」
「ちょっと止めないでよ!」
後ろでもう一台も止まっている。クラクションがうるさい。
「何止まってんだよ! そんなガキ轢いちまえよ!」
「そうよ! どうせ平民よ!」
「何言ってんだ! 俺を人殺しにする気か!」
「もういいでしょ! 出して早く!」
焦った様子で言い合いをしている。自分のことしか考えていない。
『人殺しにする気か』だって? 何をしたかわかってんのかこいつら?
俺は目の前のバギーに一歩踏み込みストレージに手を入れる。そしてトンファーを取り出すと同時に渾身の力で車体に向かって振り下ろした。
ドガン──!
「なっ!?」
「きゃああああ!」
二台目にも駆け寄り、同じことをする。ズガンと激しい打撃音が響いてフロント部分が潰れる。ひしゃげた車体の隙間から火が噴き上がる。
大破したバギーから、乗っていた四人が転がり出る。
「お、お前! なんてこと!」
「なに考えてんのよ!」
「くそ、どうすんだこれ!」
「クソガキ! 私たちが誰ぐええ──?」
激昂して向かってきた女の革鎧を掴んで引き倒し、そのまま歩いて門の方へと引きずる。泥塗れで滑るかと思ったが、襟裏に指がかかって問題なかった。
「うぐっ、ちょ、ちょっとぉ! 誰か助けなさいよぉ!」
「うるさい」
「ぐえっ」
襟裏を掴む手首を内側に回し込み、革鎧で絞めて黙らせる。
手足をばたつかせて呻くが気にせず進む。
一旦振り返って呆気に取られた様子の三人を流し見る。
「よく聞けよ。俺はこんななりだが街の治安維持に携わってる。しっかり捕縛する権限も持ってんだよ。お前らだろ? ウェドラディアを連れてきたの」
「捕縛する権限? はっ、お前が?」
「信じなくても別にいいぞ。後で不利になるのはお前らだ」
「あ、い、いや、ち、違う! 事故だ!」
「事故? あれがか? よく見ろよ」
俺は門を指差す。ウェドラディアは二十体程に増え、付近の住居や車を破壊し、側にいる人やレッキスを襲いながらこちらに向かっている。
駆けつけた衛兵隊は手を拱いている。緊急マニュアルに従って避難誘導を行っているはずだが、ここまで酷いと自分の身を守るので精一杯だろう。
「事故で片付けるのかあれを?」
「ち、違うんだって」
男の一人が半笑いで両手を広げ遠隔撮影機を見せる。
「ほ、ほら、動画を撮ったんだ! ここに全部入ってる! 金が入れば、どうとでもなるから! 編集して売り出せば有名になるし、何も問題ないんだよ!」
「答えになってないだろ。迷惑系撮影者みたいなことほざきやがって。もう何人も死んでるし街も壊されてる。どうすんだよあれ? 責任取れんのか?」
そう訊ねると、別の男が「だああ!」と吠えて俺を睨みつける。
「おいガキ! 調子に乗ってんじゃねぇぞ! あの辺に住んでるのは、どうせ魔物と平民だけだろうが! 俺たちは貴族の令息令嬢だぞ! 命の重さが違うんだよ!」
「ねぇ、もういいから早く逃げよ! 近づいて来てる!」
「ちょ、ちょっと、私を置いてく気! 放せクソガキぃ!」
呆れて溜息が出た。理解力が乏し過ぎる。
やっぱり思い上がった馬鹿には迫力を消してると侮られて駄目だ。
これだけ力の差を見せても、俺がただの子供にしか見えないらしい。
気配をより深く消す訓練をしているうちに、高レベル者特有の迫力の消し方も体得したが、こういう相手にはさっさと出した方が良かったようだ。
うるさくて話にならないからな。
ついでに【気配制御】も全開だ。
「ひっ、ひぃっ!」
「な、な、なんだ、お前!」
「ば、化け物……!」
三人は途端に後退り、目を見開いて震えだした。
遠慮せず最初からこうしてりゃ良かった。
「なぁ、お前ら目が見えてるよな? よく見てみろよ。街のそこら中に掲げてあんだろ? 字が読めなくてもわかるように絵もつけてあんだよ。なんて書いてある?」
俺は付近に掲げられた看板を指差す。
「大森林に許可なく立ち入る者、貴賤問わず死罪って書いてないか?」
三人が狼狽えた様子で俺の指差した方向へ顔を向ける。
「え? いや、は?」
「し、死罪? 連座って……」
「う、嘘でしょ?」
「貴族であった場合は爵位剥奪の後に取り潰しだ。二親等まで連座が適用されるから、お前らもお前らの親も祖父母も終わりだよ。だから──」
「え?」
俺は出入口の方に向かい駆け、掴んでいる女を放り投げた。放物線を描いて飛んでいく女に向かい、一際大きなウェドラディアが大口を開けて突っ込んでくる。
「きゃあああああ!」
長話で距離を詰めさせた甲斐があった。
丁度良い位置だ。獲物は渡すぞ。
バクンッ──。
「ひぎっ、いぎゃあああ! だっだずげでええ」
女は噛みつかれ、ゴリゴリと咀嚼された。
口からはみ出た手足に他のウェドラディアが噛みつき引き千切る。
頭は最後まで残された。そう簡単に死なせる気はないらしい。
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