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第三章 六年後編

動画編集者(3)

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「君は、この動画をスタジアムでも披露するつもりなの?」

「そのつもり。だから悩んでるの。宣伝用と二種類作らなきゃいけないから」

 スカーレットが溜息をこぼす。

「まずは二人に放映の許可をとらないといけないんだけどね……」

 一年前まではマニアックな趣味でしかなかったダンジョン攻略動画が大衆娯楽として認められた。スカーレットはそれが嬉しかった。更に盛り上げたいと考えていた。

 この動画は絶対に人気が出る。そう確信していた。ゆえに、どうあっても放映したかった。放映を断られた場合、二人をどう説得するかが現状最大の悩みだった。

 編集作業が遅々として進まないのは、それが最大の原因。スタジアムの発案者であり、ブームの火付け役である以上、責任は果たしたいと思っていた。

「確かに、この動画は話題をさらうかと。君の編集でより輝くので。ところで、撮影者は誰? 二人のレベルも気になるので、教えてほしいかなと」

「レベルは二人とも三十五って書いてあるけど、それは初級ダンジョンの上限だし、おそらくこの動画ではもっと上になってると思うわ。撮影者はハオランちゃんよ。この子もとんでもないわよね。しっかりとイスカ君たちを捉えてるんだもの」

「へぇ、ならスリーマンセルだね。ハオランちゃんもレベルは同じ?」

「えぇ、そう書いてあるけど。どういうこと?」

「彼女の技能スキルが二人をサポートしているのではないかと。いくら地力が高くてもレベル三十五やそこらの動きではないので。七十二の私でも勝てるか怪しいかと」

「言われてみればそうだけど……。シンが負けるのは想像できないわ……」

「買い被りかと。私はこの二人のようなスタジアム向きな戦い方はできないので。こっそり殺したり騙し討ちする大会でも開かれれば優勝する自信はあるのだけれどね」

「うふふ、向き不向きってことね」

 大部屋のボギーベアをすべて始末した後、イスカが一度振り返って素早く手招きし、前方の通路に向かい駆け出す。ここでソニアが速度を落とし姿を消す。

「下がったね。ハオランちゃんを守りに行ったのか」
「えぇ、でもそれだけじゃないわ」

 先行する遠隔光源が通路に入り、中をうろつく小柄な魔物の姿を露にする。

 レッドキャスケット──赤いキャスケット帽を被ったオーバーオール姿のゴブリン──の群れが身の丈を越える大斧を手に待ち構えている。

 先頭を駆けるイスカが、手近なレッドキャスケットをトンファーで弾き飛ばしていく。が、不意に斧を振りかざした三体が同時に飛びかかる。

「捌け……るのか。君が言った通り、守るだけじゃないようだ」

 シンが軽く息を吐く。

 ソニアの長剣が飛び、イスカに迫る左右二体の眉間を貫き空中で仰け反らせていた。その間、イスカは前方の一体をトンファーで一撃死させている。

「連携が取れてる。余程の信頼がなければ無理かと」

 イスカは前方の敵を一撃死させて道を開き、ソニアの銃撃と長剣が左右の敵を牽制して寄せ付けない。映っているのはイスカ一人だが、連携の高さが窺えた。

 イスカは速度を落とさず駆けていく。映っていない二人もまた同じく。

 スカーレットはその疾走感のある映像と、机の書類とを交互に確認する。
 そこにはハオランのプロフィールが書かれていた。

「身長が百五十センチ。体重は標準より少し下ね。体型的に戦闘に向かないから撮影係になったとばかり思ってたけど、考えてみればパーティーに参加していればサポートは可能よね。でもイスカ君は強化を受けた様子がないわよ?」

 強化バフ系の随時発動型技能アクティブスキルを受けた際は体表が淡い白光に包まれ、周囲に光の粒が舞う。凝視しても、イスカにそれは見当たらない。

「はっきりとしたことは言えないけれど、おそらく特異技能ユニークスキルではないかと」

特異技能ユニークスキル! ハオランちゃんが持ってるって言うの?!」

「そう。パーティーメンバーの能力上昇系の常時発動型パッシブなら、私の中で色々と辻褄が合ってくるので、確度は高いかと。飽くまで、私見だけどね」

 シンは【看破ペネトレイト】という技能を設定している。

 他者が隠蔽している事実を見抜くことのできる随時発動型技能アクティブスキルで、【分析アナリシス】では見えない特異技能ユニークスキルを朧げにではあるが察することができる。

 スカーレットはそれをシンから聞いていた。付き合いはもう六年。伴侶となった今では、シンの多くを知っている。横並びになった三国に同盟を結ばせ、大陸南方を支配する大国アーケイディアを潰すという復讐計画も。

(今思い出すことじゃないわね……)
 
 スカーレットは不穏な考えを頭から掻き消すように話を戻す。

「ハオランちゃんと初めて会ったのって、六年前に治療に来たときよね? そのときに【看破】で覗き見て情報を抜き取ったの?」

「つい癖でね。そのときは【無能】という弱体効果を持つ呪いのような技能だったので、よく覚えているんだよ。開花前の蕾のようだったことも印象に残っているし、傷だらけになった彼女の姿を目にしたことも原因かと」
 
「ねぇ、それってハオランちゃんの【無能】が消えたってこと?」

「というより、好転したのではないかと。フェリルアトスは『頑張る者を贔屓する』と言っていたので。実際、真面目に情報を得ようとしていた私たちにかなり丁寧にレクタスの説明をしてくれた。神域に滞在している間、色々と悪戯もされたけどね」

 シンが微笑む。気配が和らぐのを感じて、スカーレットもまた微笑んだ。

「フォーマルな装いの子供の神様ね。今でも信じられないわ」

「ふふ、お茶会をしようと誘われたときが一番酷かったかと。最初に椅子に座ったのはアメリア。その後で私とクリシュナが座ったんだけど、ペンキが塗りたてだったので。おまけにお茶だと思っていたのは薄めた麺つゆだった。笑ったよ」

「麺つゆって?」

「イスタルテではあまり馴染みがないものかと。それより、佳境なので」

 シンがモニターを指差す。スカーレットは既に見ていたが苦笑するに留めた。
 
 
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