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第二章 レッキス編

義父との共闘(2)

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 ノルトエフから魔道具の方位計を受け取りインカムを装着。ダーツはケースから出しストレージに収めた。これですぐに取り出し投擲できる。

「──テステス、聞こえるか?」
「──聞こえます。そちらは?」

 小声で通信し、互いに親指を立てる。

「ここから南西三百メートル程先に六体の群れがいるな。まずはそこにしよう」
「OKダッド。それじゃ、行ってきます」

 手の平サイズの方位計にあるスイッチを押すと、バックライトが点灯し方角が現れる。形状は違うが日本でこういうデジタル機器を見た気がする。

 進んでんなぁイスタルテ。

 技術力に感心しながら駆ける。もちろん【気配制御サインコントロール】で気配は遮断済み。『幻覚』が無効化されているというだけで安心感がまるで違う。

 だが大森林は草だらけ。気配を消しても茂みのワサワサする音は消すことができない。しかも管理されていないから背の高い草がワサワサしている。

 流石、ワサワサ大森林と呼ばれるだけのことはある。

 この見通しの悪さは最初級ダンジョンの一層目を超えている。びっくりするのは草むらを越えようとすると泥濘ぬかるみがあること。ずるっと足を取られる。

 危なっ! 滑るわここ!

 滑るだけならまだ良い。転ぶのと嵌まるのは避けたい。
 底なし沼がありそうなのがまた恐ろしく、思うように速度が出せない。

「──イスカ。敵が位置を変えた。接近してる」
「了解。むしろ助かりますよ」
「──そうか。警戒しろよ」
「OKダッド」

 俺の【孤高の野人ソリタリーワイルド】にも反応があった。しっかり六体いる。
 うち三体は気配がおぼろげ。消えたり現れたりする。
 どうやらフルードライアとゴリエントが三体ずつ一緒に行動してるようだ。

「──分散した。前方と左右に一体ずつだ」

 通信が途切れないってことは、俺の位置を確認しながらノルトエフも後を追っているってことだな。半径百メートルしかないからそうなるか。

「──のわぁっ!」

 叫び声の後、ズベシャッという音が聞こえる。泥濘で転んだようだ。

 何してるんだダッド。大丈夫なのかダッド。

 聞こえなかったことにして、あえて敵に囲まれに行く。

 あ、そうだ。

 ふと思いつき、俺は一芝居打つことにした。『幻覚』にかかったふりだ。
 周囲をきょろきょろと見ていると、緑色の大型の猿が草むらから顔を出した。よくよく見れば全身が蔓に覆われている。木陰に一体。いや、二体。

 三体とも俺を指差し目配せしながら含み笑いしている。
 プークスクス。こいつ気づいてねぇよぉ。とでも言いたげだ。

 どうやら賢くなりすぎて馬鹿にすることまで覚えてしまったようだ。
 簡単に獲物を狩れるようになったから自惚れてるんだろう。

 どんな強敵が相手かと心配していたが、遭遇してすぐ不安は払拭された。

 どれだけ強くとも、油断していれば脆い。それを理解するところにまで届かなかったのは好都合か。姿を隠そうともしないのは技能スキルに頼りきった所為だろう。

 そう考えると憐れだが、いくらなんでも舐め過ぎだ。

 ついに尻まで向け始めやがった。
 俺はこんな奴らに怯えてたのかよ。

 少しイラッとしながら【分析アナリシス】を使う。

 そういえば討伐の基準レベルを決めてなかったな。まぁ、三十を超えてたら危ないってことで良いかな。【気配遮断】持ちもアウトってことで。

 結果は──。

「全員アウトー!」

 俺が大声で叫ぶと、ゴリエントは驚いて飛び上がり引っくり返った。敵がもたもたしているその隙にストレージからダーツを取り出し投げる。

「ウホォオオオ!」

 ダーツは深々とゴリエントの尻に突き刺さった。悲鳴の合唱だ。

「ざまぁみやがれ! ダッド、三体命中です!」
「──ぐうぅ、そ、そうか。そこから西に直進すると別の三体がいる。ぐぅあ」
「向かいます」

 ノルトエフは尻か腰に深刻なダメージを負った模様。早く仕事を済ませて救出しなければ危険だ。まさか魔物ではなく泥濘に負けるとは。想定外だった。

 方位計で位置を確認して西に進むと、全身に果物を実らせた緑色の女がいた。いちご、洋ナシ、パパイヤ、マンゴーと他にも様々な果物が実っている。

 よくよく見れば、野菜を実らせているのが一体いる。種類が違うのかもしれない。

 とりあえず【分析アナリシス】で確認する。

 ええと、レベルは三十。二体が常時発動型技能パッシブスキル【幻覚芳香】持ちと。
 野菜型の方は【幻覚芳香】を持ってない。
 ん? 果物型の方は『亜種』って書いてあるぞ?

「ダッド。フルードライアを見つけたんですけど、目当ての【幻覚芳香】を持ってるのが『亜種』って書いてあるんです。狩って大丈夫なんですかね?」
「──大丈夫だろう。元々いなかったものだ。いる方が不自然だろう」
「希少性があったりとかは?」
「──わからん。だが『亜種』は割とどこにでもいるぞ」

 ノルトエフの話では希少価値がないようなので、こっそりダーツを取り出して果物型二体にだけ投げた。すぐに逃げられたがしっかり命中した。マーキング完了。

 こんな感じで次々にマーキングしていき、昼で終了。
 ノルトエフと白い小屋の前で合流した。

 ちなみに救出はしていない。その必要がなくて何よりだった。

「戻ったかイスカ。ご苦労さん」
「はぁ、疲れましたよ。結局、何体でした?」
「三十八体だな。ゴリエントの方が多い」

 ダーツを当てて印が付いた魔物の数はノルトエフが把握できるらしい。この魔術は何種類かの複合魔術ミックスだそうだが、詳しくは教えてもらえなかった。

 まぁ、オリジナルだと真似されるのは嫌だよな。
 聞いても使えるかどうかはわからんけれども。

「よし、それじゃ仕上げにかかるか」

 ノルトエフがそう言い、片手を上げる。

「少し離れてろ。『シグナル・ルクス・スプレッド・トレ・キープ』」

 素早い詠唱後、空に向けたノルトエフの手の上に大きな白い光の球が現れる。
 ノルトエフはその球を見つめながら更に小声で詠唱を続け、光の球を空高く浮かび上がらせる。そして位置を調節した後「ロック・ショット」と呟く。

 その途端、光の球から湾曲した光線が何本も森に向かって放たれていく。

 うわぁ……。

 若干引き気味に光の球がなくなるまでその光景を見ていると、背後から「よし。三分の一は始末できたな」というノルトエフの声が聞こえた。

 振り返ると、ノルトエフが手にした探知機を見ていた。

「とりあえず飯にしようか。続きはその後だ」
「あ、はい……」

 マーキングした魔物は、この日のうちに大自然へと還った。
 義父の力を思い知り、ちょっと怖くなった一日だった。
 
 
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