上 下
56 / 101
第二章 レッキス編

義父との共闘(1)

しおりを挟む
 
 
 *
 
 
 大森林に来てから八日目。ついに俺は【幻覚耐性】を得た。
 三日間ただ遊んでいるだけのようなものだったので、こうして成果が出ると安心する。ミーナも【体力強化】を得たので万々歳だ。

 という訳で、今日はいよいよ問題の魔物を狩りに行くことにした。

 技能設定で【呪い耐性】と【幻覚耐性】の交換も済み、準備は万端。

「アタシ、一緒! ツレテケ!」
「ミーナ、今日は我慢して。危ないからね」
「ぴゃ? アブナイノ? ゴリエント?」
「うん、ゴリエント。狩ってくるよ」

 駄々をこねるミーナにおとなしくしているように言い、一人で白い小屋へと駆ける。すると「おーい」という声が背後から聞こえた。

 振り返るとノルトエフが追い掛けてきていた。

 なんだ?

 立ち止まって間もなく、合流したノルトエフが「俺も一緒に行く」と言った。

「共闘ですか?」

 訊ねつつ歩き始めた俺に「そうだ」と返し、ノルトエフも歩き出す。

「俺が探知機を使って指示を出すから、イスカが狩ってくれ。これを」

 そう言ってノルトエフが差し出したのは黒い耳栓のようなものだった。

「これは?」
「魔道具の無線通信機インターカムだ。魔力は充填してある」
無線通信機インターカム!」
「ああ、半径百メートルまで声が届く。それで作戦だが──」

 無線通信機インターカム。通称インカムがあったことに驚いたが、それ以上にノルトエフの話した作戦に驚かされた。もはや映画で観るような軍の任務だ。

 魔道具の探知機と技能スキル自動地図オートマップ】を使い、敵の位置を割り出して俺に連絡。俺は指示された位置に向かい気配を頼りに狩っていく。

「でも幻覚で探知機と【自動地図オートマップ】は意味をなさないのでは?」

「いや、それに関しては大丈夫だ」

 一応確認したが、やはりノルトエフはちゃんと考えていた。常時『パカの根』を使うらしい。今回でケリをつける気でいるらしく、出し惜しみはしないそうだ。

「あとはこれだ」

 ノルトエフがストレージから直方体の革製ケースを取り出して俺に渡す。
 開けてみるとダーツが数十本並んでいた。

「なんです、これ?」
「シグナルショットという。俺の魔力入りだ。当たったら印が付く」
「マーキングして探知機から表示が消えなくなるとか?」
「いや違う。俺の魔術攻撃がその印に向かうようになる」
「えっ!? 必中ってことですか!?」
「障害物がなければな。だから……」

 そこで言葉を止め、ノルトエフが苦笑して上を指差す。

 なるほど。衛星攻撃的なものですか。そうですか。

「ダッド、怖ろしいこと考えますね……」

「そう言うな。俺は非力だからな。こうでもしないと狩れないんだよ」

「じゃあ、俺は対象を見つけたらダーツを当てて回れば良いってことですね?」

「ああ、それで終わりだ。ただ、少しばかり懸念があってな……」

 生態系の変化が怖い、とノルトエフは言った。
 それは俺も考えていた。どれだけ狩れば良いのか判断に困るところがある。

「レッキス族に訊いても参考になるような話はなかったからな」

「適当に狩ってますからね。俺たちが来なかったら『パカの根』も採取不可になってたかもしれませんよ。環境破壊なんて概念ないですもん」

「それもなぁ……。どう考えても、イスタルテ共和国が原因だよなぁ……」

「うーん、俺は物々交換を任された兵に問題があっただけだと思いますけど。イスタルテは先進国ですし、上が環境に対する配慮を怠るとは思えないので」

 ノルトエフが「またか」と俯いて溜息を吐く。

「これもデッカード絡みだな。志願兵制が導入されてからというもの、兵の質が落ちてると評判だ。職にあぶれた子供や浮浪者が搔き集められたって話だからな。真面目に言うことを聞く者ばかりではないだろう。まったくいつまで……」

「ま、まぁ、それは置いておきましょう。具体的にどうしますか?」

「ん、ああ。イスカには悪いが少し面倒だぞ」

「構いませんよ。後味の悪い思いをするくらいなら苦労した方がマシなんで」

 ノルトエフの提案は【分析アナリシス】による狩る対象の選別だった。
 
 思わず「はぁ、なるほどぉ」と感嘆の息がもれた。
 ちょっと考えればわかることだったのに、俺には思いつかなかった。

「要するに【分析アナリシス】で確認して、一定のレベルに達している、あるいは強力な技能スキルを所持している魔物だけを狩っていくってことですね?」

「そういうことだな。時間がかかると思うが頼めるか?」

「もちろんです。むしろ俄然やる気が出ましたよ」

 そう言い終える頃、ダンジョンの外に出た。

 ノルトエフが文庫本サイズの探知機を操作し、俺に方角を教える。正面が西、右手が北、という具合に説明していたのだが、その手を不意に止める。

「すまん、方位計を渡し忘れてた」
「ああいえ、俺も気づきませんでしたから」

 方位計がなければ、方向を指示されてもただ戸惑うだけ。これから作戦だというのに、そんなことにさえ気づいていない二人。もう笑うしかなかった。
 
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

異世界を服従して征く俺の物語!!

ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。 高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。 様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。 なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...