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第二章 レッキス編
義父との共闘(1)
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大森林に来てから八日目。ついに俺は【幻覚耐性】を得た。
三日間ただ遊んでいるだけのようなものだったので、こうして成果が出ると安心する。ミーナも【体力強化】を得たので万々歳だ。
という訳で、今日はいよいよ問題の魔物を狩りに行くことにした。
技能設定で【呪い耐性】と【幻覚耐性】の交換も済み、準備は万端。
「アタシ、一緒! ツレテケ!」
「ミーナ、今日は我慢して。危ないからね」
「ぴゃ? アブナイノ? ゴリエント?」
「うん、ゴリエント。狩ってくるよ」
駄々をこねるミーナにおとなしくしているように言い、一人で白い小屋へと駆ける。すると「おーい」という声が背後から聞こえた。
振り返るとノルトエフが追い掛けてきていた。
なんだ?
立ち止まって間もなく、合流したノルトエフが「俺も一緒に行く」と言った。
「共闘ですか?」
訊ねつつ歩き始めた俺に「そうだ」と返し、ノルトエフも歩き出す。
「俺が探知機を使って指示を出すから、イスカが狩ってくれ。これを」
そう言ってノルトエフが差し出したのは黒い耳栓のようなものだった。
「これは?」
「魔道具の無線通信機だ。魔力は充填してある」
「無線通信機!」
「ああ、半径百メートルまで声が届く。それで作戦だが──」
無線通信機。通称インカムがあったことに驚いたが、それ以上にノルトエフの話した作戦に驚かされた。もはや映画で観るような軍の任務だ。
魔道具の探知機と技能【自動地図】を使い、敵の位置を割り出して俺に連絡。俺は指示された位置に向かい気配を頼りに狩っていく。
「でも幻覚で探知機と【自動地図】は意味をなさないのでは?」
「いや、それに関しては大丈夫だ」
一応確認したが、やはりノルトエフはちゃんと考えていた。常時『パカの根』を使うらしい。今回でケリをつける気でいるらしく、出し惜しみはしないそうだ。
「あとはこれだ」
ノルトエフがストレージから直方体の革製ケースを取り出して俺に渡す。
開けてみるとダーツが数十本並んでいた。
「なんです、これ?」
「シグナルショットという。俺の魔力入りだ。当たったら印が付く」
「マーキングして探知機から表示が消えなくなるとか?」
「いや違う。俺の魔術攻撃がその印に向かうようになる」
「えっ!? 必中ってことですか!?」
「障害物がなければな。だから……」
そこで言葉を止め、ノルトエフが苦笑して上を指差す。
なるほど。衛星攻撃的なものですか。そうですか。
「ダッド、怖ろしいこと考えますね……」
「そう言うな。俺は非力だからな。こうでもしないと狩れないんだよ」
「じゃあ、俺は対象を見つけたらダーツを当てて回れば良いってことですね?」
「ああ、それで終わりだ。ただ、少しばかり懸念があってな……」
生態系の変化が怖い、とノルトエフは言った。
それは俺も考えていた。どれだけ狩れば良いのか判断に困るところがある。
「レッキス族に訊いても参考になるような話はなかったからな」
「適当に狩ってますからね。俺たちが来なかったら『パカの根』も採取不可になってたかもしれませんよ。環境破壊なんて概念ないですもん」
「それもなぁ……。どう考えても、イスタルテ共和国が原因だよなぁ……」
「うーん、俺は物々交換を任された兵に問題があっただけだと思いますけど。イスタルテは先進国ですし、上が環境に対する配慮を怠るとは思えないので」
ノルトエフが「またか」と俯いて溜息を吐く。
「これもデッカード絡みだな。志願兵制が導入されてからというもの、兵の質が落ちてると評判だ。職にあぶれた子供や浮浪者が搔き集められたって話だからな。真面目に言うことを聞く者ばかりではないだろう。まったくいつまで……」
「ま、まぁ、それは置いておきましょう。具体的にどうしますか?」
「ん、ああ。イスカには悪いが少し面倒だぞ」
「構いませんよ。後味の悪い思いをするくらいなら苦労した方がマシなんで」
ノルトエフの提案は【分析】による狩る対象の選別だった。
思わず「はぁ、なるほどぉ」と感嘆の息がもれた。
ちょっと考えればわかることだったのに、俺には思いつかなかった。
「要するに【分析】で確認して、一定のレベルに達している、あるいは強力な技能を所持している魔物だけを狩っていくってことですね?」
「そういうことだな。時間がかかると思うが頼めるか?」
「もちろんです。むしろ俄然やる気が出ましたよ」
そう言い終える頃、ダンジョンの外に出た。
ノルトエフが文庫本サイズの探知機を操作し、俺に方角を教える。正面が西、右手が北、という具合に説明していたのだが、その手を不意に止める。
「すまん、方位計を渡し忘れてた」
「ああいえ、俺も気づきませんでしたから」
方位計がなければ、方向を指示されてもただ戸惑うだけ。これから作戦だというのに、そんなことにさえ気づいていない二人。もう笑うしかなかった。
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