上 下
54 / 101
第二章 レッキス編

レッキス鉱石発掘隊(2)

しおりを挟む
 
 
「獣魔になると技能スキルに制限がつきます。魔物と違い、設定した技能スキルしか使えなくなる上に、その決定権はマスターが持つことになります」

 案の定、この時点での反応はかなり微妙なものだった。だが「従魔になればマスターと一緒にダンジョンに入れる」と言うと、思った通りバモアが目の色を変えた。

「そ、それは、パーティーでダンジョンに入れるということですか!?」

「はい、そうなりますね。ダンジョンで一緒に働けるのは大きいですよ。鉱石を採掘できれば、食料だけじゃなく、生活を豊かにすることもできるでしょうね」

 その事実に大興奮したバモアが若い衆を集め、急遽話し合いが行われた。

 俺は嘘を吐いてはいない。ただ少し煽るように言っただけだ。どっちも幸せになれるならそれでいいだろう。いいはずだ。いいに決まってる。

 どれだけと契約できるかわからないが、意思疎通が可能な魔物は十分労働力になる。色々と学ぶ意欲もあるし友好的。人数次第じゃ会社だって作れる。

 それならもう、一緒に豊かになるしかないでしょう!
 レッキス族の皆さん、魔物に怯える生活はおしまいです!
 我々と手を取り合い幸せになりましょう!

 自己啓発セミナーばりの胡散臭さを発揮して俺は煽りに煽った。

 もちろん、そういったよくわからない類の輩とは違い、変な精神論とか正しい世界の見方とかいうクズの騙し文句は加えていない。健全に嘘なく煽った。

 結果、バモアを含めて十人のレッキス族がノルトエフから【従魔契約テイミング】を受けたいと望み、ノルトエフはそれを受け入れた。

 え? そんなに何体も魔物と【従魔契約テイミング】できるの?

 と、心躍ったが、契約する度に魔力の最大値が減っているとのことだった。
 十人と契約して、三割減ったらしい。

 俺はミーナと契約しただけで二割近く減ったので、ノルトエフと同じことをしたら魔力の最大値がゼロになっていただろう。そう美味い話はないということだ。

 しかし、十人と契約できたのは十分すぎる幸運。
 ノルトエフのデタラメな魔力量に感謝。

 そして更なる僥倖。俺のアイディアをノルトエフが「それは名案だ!」と興奮気味に受け入れ、レッキス族を従業員にした会社を設立することになったのだ。

 経営云々はよくわからないのでノルトエフに丸投げ。
 でも有り難いことにお金はしっかりもらえるらしい。

 うむ、これで借金を返せる目処が立った。

 作業は主に『パカの根』と『快癒鉱石』の入手と輸送。
 これまで共和国軍の兵がやっていた雑務を仕事にする形だ。

 再生促進液リグロウリキッドの素材は需要がなくなることはない。それは『パジマル草』の一件で知っている。しかもよくよく話を聞けば『再生食品』とやらもある。

 これは益々需要が途切れない。

 その上、斡旋所を通さずに直接販売を行えば中間マージンも発生しない。

 つまり、ボロ儲け。

 ちなみに『パカ』の栽培も提案済み。これが叶えば安定供給も実現する。

 このまま放っておいたら採り尽くしてしまうかもしれないという危惧からの発想だったが大正解。レッキス族は環境保護よりも食いはぐれを心配していた。

 あるから採る。採れば食っていける。多分、なくならないから大丈夫。という環境破壊をしまくった一昔前の人のような感覚。実に危ないところだった。

 やがては大森林の管理を行う林業も始めたい。レッキス族が住む街の建設も視野に入れている。宿があれば初級ダンジョンに訪れる探索者も増えるだろう。

 思わぬ一大事業への発展。
 そろそろ年齢的にオルトレイが厳しいと言っていたノルトエフも乗り気。

 恩返しにもなるし、レッキス族の繁栄にも繋がるし、環境保護にも取り組める。それでいてしっかりと収入と社会的地位が得られるのだから言うことなし。

 夢は広がるばかりだ。

「それじゃあ、イスカ。今日も頼めるか?」
「OKダッド。それじゃあ行ってきますね」
「イッテラッシャイ!」

 俺はノルトエフの背で手を振るミーナに片手を上げて応え、場を後にする。
 俺にはもう一つの仕事がある。それは経験値稼ぎだ。

 現場監督はノルトエフに任せ、パーティーの為に経験値を稼ぐ。
 レッキス族はツルハシを振って腕力や体力の地力をつけてはいるが、経験値が入ることはない。レベリングの為に動く者が必要なのだ。

 惜しむらくは、一層でしかそれを行えないこと。
 二層に行くとパーティーに経験値が分配されなくなるからだ。

 その上、初級ダンジョンのレベル上限は三十五だとノルトエフから聞いた。
 一層だと三十一が限界。正直なところ、かなり旨味が少ない。

 だが、そういうときの為のゲーム知識。レベルが上げられないのであれば、別のことをすれば良いだけのこと。俺は時間を無駄にはしないのだ。

 という訳で、俺は技能スキル習得の為の条件揃えと、既に得ている技能スキルの特訓も並行して行っている。ムーシェンから奪った携帯情報端末モバイルターミナルが大活躍だ。

 俺が新たに習得した技能スキルは【隠覆】【体力強化】【脚力強化】【走力強化】【闘気撃】【気配察知】【投擲技術】【呪い耐性】【威圧感】の九つ。

 自分の素性を偽り続けたことで【隠覆】を習得。ジョーブラックとディープブルーの撮影に付き合って何時間も走ったことで得た強化系が三つ。

 バンシア狩りで【投擲技術】と【呪い耐性】。オンソウとの特訓で【気配察知】。【闘気撃】と【威圧感】はムーシェンたちに激怒したときに得たようだ。

 現状、俺が設定しているのは【魔人】【孤高の野人ソリタリーワイルド】【気配制御】【分析】【呪い耐性】【闘気撃】だ。これで六枠使用。【魔人】が消費ゼロなのが助かる。

 今のところ俺が欲している技能スキルはタイランの【闘気防御】だ。話も聞いているし【闘気撃】を得たこともあって、条件の推測はもう済んでいる。

 要は、怒っているのに冷静であれば良い。それで『闘気ラース』になる。
 その感覚を持った状態で防御を行っていれば、やがて習得できるはずだ。

 一層にはおあつらえ向きの魔物がいるので、そいつを相手に習得を目指そうと思っている。バンシアとゴブリンで人型モーションを学んでおいて良かった。

「ほい到着」

 俺が入ったのは魔物部屋。ボーンソードマンという錆びた剣を持った人骨が十二体出現する。再出現リポップ頻度は三十秒と短く、百体倒すと十分程再出現リポップしなくなる。

 ドロップアイテムは錆びた剣と十リエムに換金できる銅貨一枚。
 錆びた剣はノルトエフに喜ばれる。溶かして再利用できるらしい。

「じゃあ、今日もよろしく頼むぞ、おっと!」

 俺はトンファーを装備し、ボーンソードマンたちが振り下ろす剣を受け続けた。

 とっとと成長して、ワサワサ大森林の脅威を取り除く為に。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

処理中です...