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第二章 レッキス編
レッキス鉱石発掘隊(2)
しおりを挟む「獣魔になると技能に制限がつきます。魔物と違い、設定した技能しか使えなくなる上に、その決定権はマスターが持つことになります」
案の定、この時点での反応はかなり微妙なものだった。だが「従魔になればマスターと一緒にダンジョンに入れる」と言うと、思った通りバモアが目の色を変えた。
「そ、それは、パーティーでダンジョンに入れるということですか!?」
「はい、そうなりますね。ダンジョンで一緒に働けるのは大きいですよ。鉱石を採掘できれば、食料だけじゃなく、生活を豊かにすることもできるでしょうね」
その事実に大興奮したバモアが若い衆を集め、急遽話し合いが行われた。
俺は嘘を吐いてはいない。ただ少し煽るように言っただけだ。どっちも幸せになれるならそれでいいだろう。いいはずだ。いいに決まってる。
どれだけと契約できるかわからないが、意思疎通が可能な魔物は十分労働力になる。色々と学ぶ意欲もあるし友好的。人数次第じゃ会社だって作れる。
それならもう、一緒に豊かになるしかないでしょう!
レッキス族の皆さん、魔物に怯える生活はおしまいです!
我々と手を取り合い幸せになりましょう!
自己啓発セミナーばりの胡散臭さを発揮して俺は煽りに煽った。
もちろん、そういったよくわからない類の輩とは違い、変な精神論とか正しい世界の見方とかいうクズの騙し文句は加えていない。健全に嘘なく煽った。
結果、バモアを含めて十人のレッキス族がノルトエフから【従魔契約】を受けたいと望み、ノルトエフはそれを受け入れた。
え? そんなに何体も魔物と【従魔契約】できるの?
と、心躍ったが、契約する度に魔力の最大値が減っているとのことだった。
十人と契約して、三割減ったらしい。
俺はミーナと契約しただけで二割近く減ったので、ノルトエフと同じことをしたら魔力の最大値がゼロになっていただろう。そう美味い話はないということだ。
しかし、十人と契約できたのは十分すぎる幸運。
ノルトエフのデタラメな魔力量に感謝。
そして更なる僥倖。俺のアイディアをノルトエフが「それは名案だ!」と興奮気味に受け入れ、レッキス族を従業員にした会社を設立することになったのだ。
経営云々はよくわからないのでノルトエフに丸投げ。
でも有り難いことにお金はしっかりもらえるらしい。
うむ、これで借金を返せる目処が立った。
作業は主に『パカの根』と『快癒鉱石』の入手と輸送。
これまで共和国軍の兵がやっていた雑務を仕事にする形だ。
再生促進液の素材は需要がなくなることはない。それは『パジマル草』の一件で知っている。しかもよくよく話を聞けば『再生食品』とやらもある。
これは益々需要が途切れない。
その上、斡旋所を通さずに直接販売を行えば中間マージンも発生しない。
つまり、ボロ儲け。
ちなみに『パカ』の栽培も提案済み。これが叶えば安定供給も実現する。
このまま放っておいたら採り尽くしてしまうかもしれないという危惧からの発想だったが大正解。レッキス族は環境保護よりも食い逸れを心配していた。
あるから採る。採れば食っていける。多分、なくならないから大丈夫。という環境破壊をしまくった一昔前の人のような感覚。実に危ないところだった。
やがては大森林の管理を行う林業も始めたい。レッキス族が住む街の建設も視野に入れている。宿があれば初級ダンジョンに訪れる探索者も増えるだろう。
思わぬ一大事業への発展。
そろそろ年齢的にオルトレイが厳しいと言っていたノルトエフも乗り気。
恩返しにもなるし、レッキス族の繁栄にも繋がるし、環境保護にも取り組める。それでいてしっかりと収入と社会的地位が得られるのだから言うことなし。
夢は広がるばかりだ。
「それじゃあ、イスカ。今日も頼めるか?」
「OKダッド。それじゃあ行ってきますね」
「イッテラッシャイ!」
俺はノルトエフの背で手を振るミーナに片手を上げて応え、場を後にする。
俺にはもう一つの仕事がある。それは経験値稼ぎだ。
現場監督はノルトエフに任せ、パーティーの為に経験値を稼ぐ。
レッキス族はツルハシを振って腕力や体力の地力をつけてはいるが、経験値が入ることはない。レベリングの為に動く者が必要なのだ。
惜しむらくは、一層でしかそれを行えないこと。
二層に行くとパーティーに経験値が分配されなくなるからだ。
その上、初級ダンジョンのレベル上限は三十五だとノルトエフから聞いた。
一層だと三十一が限界。正直なところ、かなり旨味が少ない。
だが、そういうときの為のゲーム知識。レベルが上げられないのであれば、別のことをすれば良いだけのこと。俺は時間を無駄にはしないのだ。
という訳で、俺は技能習得の為の条件揃えと、既に得ている技能の特訓も並行して行っている。ムーシェンから奪った携帯情報端末が大活躍だ。
俺が新たに習得した技能は【隠覆】【体力強化】【脚力強化】【走力強化】【闘気撃】【気配察知】【投擲技術】【呪い耐性】【威圧感】の九つ。
自分の素性を偽り続けたことで【隠覆】を習得。ジョーブラックとディープブルーの撮影に付き合って何時間も走ったことで得た強化系が三つ。
バンシア狩りで【投擲技術】と【呪い耐性】。オンソウとの特訓で【気配察知】。【闘気撃】と【威圧感】はムーシェンたちに激怒したときに得たようだ。
現状、俺が設定しているのは【魔人】【孤高の野人】【気配制御】【分析】【呪い耐性】【闘気撃】だ。これで六枠使用。【魔人】が消費ゼロなのが助かる。
今のところ俺が欲している技能はタイランの【闘気防御】だ。話も聞いているし【闘気撃】を得たこともあって、条件の推測はもう済んでいる。
要は、怒っているのに冷静であれば良い。それで『闘気』になる。
その感覚を持った状態で防御を行っていれば、やがて習得できるはずだ。
一層にはおあつらえ向きの魔物がいるので、そいつを相手に習得を目指そうと思っている。バンシアとゴブリンで人型モーションを学んでおいて良かった。
「ほい到着」
俺が入ったのは魔物部屋。ボーンソードマンという錆びた剣を持った人骨が十二体出現する。再出現頻度は三十秒と短く、百体倒すと十分程再出現しなくなる。
ドロップアイテムは錆びた剣と十リエムに換金できる銅貨一枚。
錆びた剣はノルトエフに喜ばれる。溶かして再利用できるらしい。
「じゃあ、今日もよろしく頼むぞ、おっと!」
俺はトンファーを装備し、ボーンソードマンたちが振り下ろす剣を受け続けた。
とっとと成長して、ワサワサ大森林の脅威を取り除く為に。
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