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第一章 シュンジュ編

天と地ほどの差(2)

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「マジかよ! フランケンシュタイナーじゃねぇか!」

 ダメージ表示は白文字で『327』と拍子抜けするほどに低め。おそらく回転力、落下高度、速度など色々と足りず、地面に打ちつける力が弱まったのだと思われる。

 だが──美しい!

 俺、大興奮。握りこぶしの中に汗まで掻いてる。
 ある意味、動画はこれで良いのかもしれない。

「これで終わりデス! イキますよー!」

 片手を上げて宣言した後、アメリアが伸身宙返りし、倒れた馬頭の足元に着地する。そして側に転がる段平を蹴り飛ばすと、馬頭の両足を脇に抱えて回転し始める。

 ブオン……ブオン、ブオン、ブォンブォンブォンブンブンブン──。

 風を切る音が変化し、アメリアを中心に回転速度が上昇していく。

 どんな腕力してんだよもう! 目の錯覚としか思えねぇよ!

「ゴオオオオアウェエエエエイ!」

 アメリアが大声に合わせ、振り回していた馬頭を放り投げる。真っ直ぐに伸びた馬頭の体が、荒々しい岩肌の壁に向かい高速で飛んでいき──。

 ゴパァアアン────!

「マジかよ……」

 思わず陳腐な言葉がもれ出る。
 馬頭は頭部から壁に激突。胸当ての残骸を残し上半身が爆散した。

 血みどろの大惨劇。その中に青く美しい鮫女が立つ。装甲はあるが、ジョーブラックと違って女性らしさを前面に押し出してるからしっかり揺れる。色んなところが。

 どうやらGS社には最新技術の扱い方を間違えている奴がいるようだ。作為を感じずにはいられない。担当した奴が男の性を発揮したな。ありがとう良い仕事だ。

 ダメージは赤文字の致命的打撃クリティカルヒット。『6728』の表示。

 遠心力って怖ろしいな。竜巻みたいになってたぞ。

 アメリアがパンパンと叩くように手を払う。

「フゥー! ま、こんなもんデスかねー」

 ふと、アメリアが遠隔撮影機に気づいた様子を見せた。
 手招きしたので追うと、腕組みして立つジョーブラックに駆け寄り、その肩に手を置いて可愛くポーズを決めた。最後は笑顔でウインク。

 バッチリ撮ったぞ。すげぇ様になってんなぁ。

 アメリアもまた縛りプレイをしているそうだ。
【腕力強化】【脚力強化】【体力強化】を習得すると強化統合される上位技能【全身強化】は付けているらしいが、それ以外はすべて耐性とのこと。レベルは四十五という話だけども、そこまで上げるとこんなになるのかよと愕然としてしまう。

 ボスの姿が惨劇と共に白煙となって消失し、ドロップアイテムが出現する。

 俺は回収係も担当しているのでストレージに収める。一つは牛頭の鬼が使っていた巨大な戦斧が人でもどうにか扱えそうなサイズに変化した『牛頭鬼の戦斧』で、もう一つは『力の御守』という首飾りだった。それを確認後、俺は遠隔撮影機を手元に戻す。

「二人とも、お疲れ様でした」
「うーむ、まるで疲れとらんがのう。こんなもんなのか……」

 首を傾げるジョーブラックの肩をアメリアが軽く叩く。

「グランパ、まだ最初級デスから!」
「む、そうか。そうじゃの」

 俺はアメリアに遠隔撮影機を渡し、少し思案する。

 最初級ダンジョンは上層、中層、下層がすべて五階の全十五階層だということが判明した。各階層の最下層にはボスが存在し、それを倒せねば次の階層には進めない仕様になっている。加えて、一度ボス部屋に入ると倒すまで脱出不可。命がけとなる。

 そしてボス部屋を抜けた先には転移石柱があり、その差込口にソウルカードを差せば地上に戻れるようになっていた。次回からはダンジョン一階層のどこかにある石柱にソウルカードを差すことで転移が可能となっている模様。

 かつてダンジョンを巡っていたというアメリアに確認したので間違いはない。

 問題なのは、オンソウたちがそれを知らなかったという事実だ。

 シュンジュの居着きで知っているとしたら、おそらくムーシェン一派だけだろう。
 上層ではレベルが十九までしか上がらない。レベル二五を超えているというムーシェンは、中層か下層に滞在してレベリングしていることが明らかだからだ。

 あいつらは情報を秘匿することで幅を利かせていたのだろう。レベルマウントさえあれば、同じ居着きで商売敵のオンソウのパーティーを牽制できるとでも考えて。

 つまり、オンソウたちは上層のボスを倒した時点で引き返したって訳だ。

 慎重すぎるあまり、転移石柱の存在に気づけなかったのだろう。そしてそのときの恐怖が身に染みて、中層手前で足踏みしてしまったのだと思われる。
 もし、ほんの少しでも先に進むことができていたなら、命がけの帰還はせずに済み、ムーシェンの横暴を許さない熟練パーティーでいれたかもしれない。

 斡旋所にダンジョンの転移石柱についての説明くらいは必要じゃないか伝えとくかな。というか、そもそもこれまでしなかったのはどういうことだ?

 帰ったらシンイーに訊いてみるか。もしかしたら知らない可能性まであるな。

「おうい、イスカ。行くぞい」
「あ、はい」

 呼ばれたので、転移石柱を利用し地上に帰還。軽い目眩がした直後、視界が真っ白になる。どうやらダンジョン出入口の白い小屋の中に転移したようだ。

 上り階段があるってことは、帰還場所は地上ではなく地上手前だな。

 そして──その場で諸々済ませた後──。

「イスカ。よく最後までついてきたのう。偉いもんじゃ」
「ありがとデシタ! 映像も素晴らしいデス!」

 装備品を外し、フードマント姿に戻った二人が笑顔で言う。斡旋所には戻らず、このまま別の街へと向かうらしいのでここでお別れだ。

 回収したドロップアイテムはすべてアメリアに渡してある。
 撮影報酬は『力の御守』と三万リエムを貰った。多すぎな気がしたが、映像を確認した上で決めた額とのことなので遠慮せず受け取った。

 このままカメラマンとして付いてこないか誘われたが辞退した。それもまた面白そうではあるが、どうせやるなら俺が撮られたい。二人を撮影して、そう思ってしまった。

「なら、ここでお別れじゃのう」
「残念デスが、仕方ないデスね」

 二人と握手を交わし、手を振って別れる。去り際は実に呆気ないものだった。が、ふとアメリアが振り返り、駆け戻ってきた。そして俺を抱きしめ耳元で囁いた。

「アタシたち転移者は、アーケイディアに復讐する為に生きてマス。転生者のイスカにも、協力してほしいデス。そして他にも転生者がいたら、知らせてほしいデス」

 俺は何も言わなかった。いや、言えなかった。
 どう答えるかを悩んでいるうちに、眉を下げたアメリアにソウルカードを出された。一瞬、躊躇したが、俺のソウルカードをタッチしソウルメイト登録をした。

 これで情報端末使用時にメッセージの送信が可能になる。

 ハオランやオンソウたちともしているが、そのときの気持ちとはまるで違った。ここで一切の関係をっておいた方が良いような気がしていた。

 事実を知った場合、復讐の矛先が俺に向いてもおかしくないからだ。

 いや、俺と『俺を転生させた彼女』に。
 そして俺たちを贔屓したフェリルアトスに、か。

 クソ、気持ち良く終われなかったな……。

 俺は二人の背を見送った後で、重い心を抱えて斡旋所に戻った。
 
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