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第一章 シュンジュ編

合流(2)

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 デモンストレーションがてら、レイキーフィッシュを含めての狩りをする。終わった後で振り返ると、オンソウとタイラン、メイメイの三人は目と口を大きく開けていた。

「まぁ、こんな感じでやってもらおうかと」

「できるか!」と、オンソウとメイメイが声を揃える。

「冗談だよ。実際はもっと簡単だから大丈夫」

 ヨウリンに説明を任せ、編成変更。タイランは足が遅いらしいのでメイメイが引きつけ役を買って出た。【火術イグニス】という魔術を使ってバンシアを釣るとのこと。
 飛距離は結構あるようで五十メートルくらいなら問題なく届くそうだ。命中精度を心配したが【目標追尾ホーミング】という技能を設定しているので、確実に当てられるとか。

「術の発動ってどんな感じでやるの? 術の名前を呼ぶと出る感じ?」

「うんにゃ、それだと『イグニス』って口に出しただけで発動しちゃうでしょ? だから『発動詠唱トリガーワード』ってのを自分で設定するんだよ。普段絶対に言わないような言葉を小声で囁いたりとかすんの。暴発しない程度に短くすんのが基本だね」

「てことは、魔力を込めたりとか調整したりとかはできない?」

「できるできる。それも発動詠唱で振り分けんの。例えば、魔力の一割消費はこの詠唱、三割はこの詠唱みたいな感じで。大体の人は囁きでパパッと撃つけど、格好つけたがりは大きい声で恥ずかしいの叫んでるよ。『唸れ古の神の極炎! ファイナルメギドフレイム!』とか。しかも見栄張るから魔力消費が馬鹿デカかったりすんのよ」

「うわぁ、使い勝手悪そう。死ぬんじゃないのそれ?」

「うーん、自分が死ぬなら馬鹿で済むけど、仲間が死んだら地獄だよね。『お前が馬鹿みたいな発動詠唱トリガーワードにしなかったらアイツは死ななかったんだー!』とか言われるから。恨まれちゃうし恥ずかしいしで、シュンジュにはいられないよねぇ」

 若気の至り、黒歴史で人死にを出すか。怖ろしいな新世界レクタス。

 ちなみにメイメイの詠唱は『フォイェン』という基礎となる言葉の後に術の形や個数を決める『型』と、威力や大きさを決める『数字』を足してようやく発動するそうだ。
 例えば『フォイェン・ライフ・ワン』だと生活に使うような小さな炎が出る。『フォイェン・ダブル・ワン』だと小型の火球が二つ目標に向かって飛ぶといった具合だ。

「魔術ってどうやったら使えるようになる?」

「簡単なのは体に魔術式を彫っちゃうことかなー。でも設定に制限がかかっちゃうし、彫ったところに大怪我したら使えなくなっちゃうから、お勧めはしないねー」

 怪我を負った場所に治癒術を使っても術式までは回復しないらしい。
 それなら魔道具を使えばいいのにと思って口に出したが、整備代やら修理代やらの納得せざるを得ない世知辛いお話が絡んでいると聞かされた。
 そういう訳で、コストを比較して体に彫る人も一定数いるとのことだった。

「はぁ、結局はお金か。それで、お勧めの習得方法は?」

「お勉強と努力! これに尽きる!」

 体の中にある魔力の流れを感じ、それを放出したり留めたりする訓練を行いつつ、魔術について深く考えることが大事だとか。

「ちなみにタイランは闘気ラースが使えるよ。ソンリェンとユーエンもね」

闘気ラース?」なんだそれ? 初耳だぞ。

「どれ、一度やってみせようか」

 タイランが身構え「ふんっ」と力むと体が青い炎のようなもので包まれた。
 脱力すると、ふっと消える。

「今のが闘気?」

「ああ、魔力ではなく生命力を消費して使うものだ。今のは【闘気防御ラースガード】という技能だな。発動している間は装備品と自分が重く硬くなる」

「防御力が上がって、更に押し負けなくなるってことか」

「そういうことだ。ソンリェンとユーエンは【闘気刃ラーススラッシュ】と【闘気撃ラースストライク】が使える。武器のダメージを増加させる技能だが、闘気が飛ぶから遠距離攻撃にもなる」

「ほほう。これも習得方法は訓練とお勉強?」

 タイランが頷く。魔術の生命力版な上に武器や盾の習熟度も必要らしい。

「あとは、怒りの変換認識だな」
「なにその変換認識って?」
「憤怒で作られる気を闘う力に変えたのが闘気らしい。それを認識していないと技能を習得できんそうだ。俺も聞きかじりでよくわかってないがな」

 あ、そういうことかぁ。道理で闘気が『オーラ』じゃない訳だよ。七つの大罪の憤怒ラースから取ったからだったんだな。
 フェリルアトスの奴、設定に色々と混ぜ込んでんなぁ。
 暇だったのかなぁ。まぁ、神域はアレだもんなぁ。暇だったんだろうなぁ。

 ざっくり会話をした後で、一度バンシア狩りが大丈夫そうか確認させてもらう。メイメイが魔術を当てて逃げてきて、後はみんなで異常の付与範囲外から石の投擲。
 投擲で十分なダメージが入るようだったので塩は使わないことにした。メイメイがへばったら休憩するように言い、バンシア狩りは四人に任せることにした。

「よし、じゃあオンソウ。森に行こうか」
「は? 森? 二人でか?」
「【気配遮断】と【気配解放】の修行だよ」
「おおっ! そりゃありがてぇ! 是非とも頼むぜぇ!」

 ゴブリンとストレーダーグだらけの森でオンソウとかくれんぼ。
 それから五時間後、斡旋所に帰還する頃にはオンソウは真っ白になっていた。

    
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