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第一章 シュンジュ編
ハオランの事情(2)
しおりを挟む技能【無能】の習得──。
妙に体が重くて仕事でヘマをすることが多くなり、情報端末でステータスを確認してみたら設定枠にあったとのこと。設定した覚えはなく、いつ習得したかもわからない。
通常は開示される習得条件の表示も『?』のままで、思い当たる節は『無能』と呼ばれ続けたことだけらしい。
「【無能】は厄介な技能でさ、設定枠が埋まって、それまで得た技能が何一つ使えなくなっちゃうんだ。僕は大した技能を持ってないから、そこはあんまり影響しないんだけど、ずっと体が重くて頭もふらふらしてさ、すぐ疲れちゃうんだよ」
技能は所持しているだけでは意味をなさない。斡旋所の情報端末にソウルカードを差し込み、技能を設定枠に入れて自分を設定変更することで初めて効果を発揮する。
ハオランとパーティーを組んでわかったが【無能】は呪いのようなものだった。設定枠から外せない上に、パーティーメンバーにまで弱体効果が発生してしまうのだ。
効果説明を見せてもらったところ、技能所持者は全能力値が三割低下、パーティーメンバーは二割低下すると書かれていた。
ハオランが【無能】をどうにかできないかと相談した相手はシンイーだった。しかし返ってきたのは『もう諦めてオルトレイを辞めろ』という言葉だったそうだ。
解除する方法がわからない以上、そう言う他なかったのだろう。
簡単な仕事しか続けられないようじゃ先が見えているし、ダンジョンに行くのも自殺行為。ハオランを思って言ったというのは疑いようがない。
「なんで辞めなかったんだ? 細工師の腕を磨くって手もあるだろ? 技能がすべてって訳でもないんだし【無能】があっても、いつか補正は覆せると思うけど」
「それは、僕だって考えたよ。でも、爺ちゃんが寝込んじゃったから……」
よくよく聞けば、爺さんは寝たきりになっていた。
病状が悪化して立つのも難しくなったらしい。
爺さんの為に大金を稼ぐ必要が出てきたハオランは、悩んだ末にダンジョンに潜ることを決意した。約束を破ってでも爺さんを救いたいと思ったのだという。
「んー……気持ちはわからないでもないが……」
どうにも空回っている感が否めない。確かに、手っ取り早く稼ぐにはそれが一番だと俺も『御使い』から聞いている。だから稼ぐという点においては間違っていないのだが、行っただけで稼げるという訳ではないだろう。
要するに無謀なのだ。
「【無能】を持ってる状態じゃ一人でダンジョンに入れないだろ? かといって【無能】持ちだって知れ渡ってる状態じゃパーティーも組めないと思うけどな。子供ってだけでも煙たがられるだろうし」
「うん。そうなんだ。たまに、いいよって言ってくれる人もいるんだけど、組んですぐに断られちゃうんだ。『こんなに酷いと思ってなかった』って」
それはおそらく【無能】にどの程度の弱体効果があるかを体感したくて興味本位で組んだだけだろう。最初から連れて行く気のない冷やかしだ。
パーティーを組まなければ【無能】の効果を受けないが、そうまでしてハオランを連れて行くお人好しもいないだろう。むしろ弱みにつけ込んでよからぬことを考える奴も出てくるだろうし、シンイーが他のオルトレイに声をかけてハオランが悪い連中に連れていかれないように守っていた可能性もありそうだ。
ムーシェンに便乗したふりをして『無能』呼ばわりしてまでも守る、か。
ふむ、辻褄が合うな。てことは、俺は彼らのお眼鏡に適ったと。
そうか。お人好し認定されちゃったか。そりゃあれだけ怒ればな。
じゃあ、ついでに結果を出して驚かせてやらないとな。『これで駄目だったら、ハオランも諦めがつくだろう』とか思ってそうだし。それを思いっきり覆してやろうじゃないの。受けた恩はしっかり返したいからな。
目標は今日中の借金返済。
日当一万リエムくらいになれば飯と宿もいける。頑張ろう。
「ごめんね。イスカ兄ちゃんにも迷惑かけちゃうけど……」
「ん? ああ、いや、それはない。気にすんな」
俺はとある事情から【魔人】という特異技能を所持している。ハオランの【無能】と同じで外せないが、そもそも設定枠外の扱いなので設定枠を使用しない。
つまり、これはもはや技能ではなく俺の生物的特徴ということだ。
効果は『身体能力、生命力及び魔力最大値、またそれらの自然回復量並びに回復速度を五割上昇。毒、病気に耐性付与。痛覚鈍化付与』というもの。
それだけでも十分破格なのだが、なんと俺は他にも技能を与えられていた。情報端末でステータスを確認したときに目玉が飛び出るかと思った。
技能名は【孤高の野人】。単独のときに身体能力が五割上昇し、気配察知能力が強化される。あまつさえ全状態異常耐性まで付与という単独だととんでもなく強くなる性能。
しかも耐性付与はパーティーを組んでも効果を発揮しているので【魔人】の耐性付与効果と重複する。つまり毒と病気は無効化だ。果たして人と呼べるのかこれは。
使用枠数は一。四つある設定枠の一つを埋めるだけで俺は信じられない程に強化されてしまう。いくら御褒美だからってやりすぎだろう。
説明欄に『新世界レクタスの神フェリルアトスからの御褒美』と載っていたことを思い出す。ちゃっかりそういう一文を載せるところが悪戯好きのあいつらしい。
俺の脳裏に、黒い山高帽のグレーのスーツを着た子供の笑顔が過ぎった。
あのクソガキ、俺をどうしたいんだまったく。
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