67 / 82
誘拐犯の独白劇~後編~
7
しおりを挟むこの絵巻には、欺影虫の幼虫を強制的に鞍替えさせたところが描いてあります。宿主である女性の体から形のないものを藁人形に移し、欺影虫の幼虫に宿主が死んだと勘違いさせて追い出した訳ですね。
しかし、何だかおかしくありませんか? 矛盾しますよね?
藁人形に形のないものを移したなら、この女性の肉体は空の器になっているということになります。どうして乗っ取られないんでしょう?
答えは幼虫だからです。宿替えは成虫のみに許された行動なんですよ。十分な成長を遂げていない欺影虫は、空の器があっても乗っ取れないんです。それだけでなく、栄養源を失うことにもなるので、飢餓消失の危険も出てきます。なので、やむなく鞍替えという行動に出る訳です。宿替え前に宿主の肉体が死んだ成虫も同じですね。
とはいえ、そもそも人形に移す必要があるのかという話ですよね。
蜘蛛人になる前であれば、影に幼虫がいるだけですからね。本体が怒り狂うこともありません。影にいる幼虫を、そのまま駆除してしまえば良いだけですよね。そうすれば万事解決です。私も最初はそう思っていました。
ですが、それはできないんです。影にいる幼虫は宿主と繋がっていますから、攻撃する度に栄養を高速摂取して回復してしまうんです。摂取した栄養は回復に費やされますので、幼虫は一切成長しません。
結果、幼虫は宿主を食らい尽くした上で鞍替えに走ります。これは最悪な事態ですよ。だから、まずは繋がっていない部分を切り離して人形に移し、宿主と幼虫との繋がりを断つ必要があるということですね。
ややこしいですよね? 分からなければ流してくださって結構ですよ。私もどうしてこんなに深く説明しているのか分からなくなってきてますからね。一所懸命覚えたことだからひけらかしたいのかもしれません。嫌になっちゃうくらい小難しいですよね、これ。
どうでもいいですか。そうですよね。じゃあ、次にいきましょう。
さて、何度も言いますが、蜘蛛人になってしまった人は、既に形のないものが食べ尽されているので救うことができません。が、それはつまり、蜘蛛人になる前であれば救えるということですね。
この絵巻は、側にいた鎧武者に鞍替えされてしまった失敗談ですが、それさえなければ成功していたんです。この人形移しの術以外に、取り憑かれた人を安全に救い、尚且つ欺影虫を迅速に駆除する方法はありません。
危険な方法については、言うまでもありませんよね? これまでの話の中に含まれていますので敢えて言いません。他にもっと安全な方法があったとしたら、すいませんね。人形なんかに閉じ込めちゃって。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
岬ノ村の因習
めにははを
ホラー
某県某所。
山々に囲われた陸の孤島『岬ノ村』では、五年に一度の豊穣の儀が行われようとしていた。
村人達は全国各地から生贄を集めて『みさかえ様』に捧げる。
それは終わらない惨劇の始まりとなった。
サハツキ ―死への案内人―
まっど↑きみはる
ホラー
人生を諦めた男『松雪総多(マツユキ ソウタ)』はある日夢を見る。 死への案内人を名乗る女『サハツキ』は松雪と同じく死を望む者5人を殺す事を条件に、痛みも苦しみもなく松雪を死なせると約束をする。 苦悩と葛藤の末に松雪が出した答えは……。
冥恋アプリ
真霜ナオ
ホラー
大学一年生の樹(いつき)は、親友の幸司(こうじ)に誘われて「May恋(めいこい)」というマッチングアプリに登録させられた。
どうしても恋人を作りたい幸司の頼みで、友人紹介のポイントをゲットするためだった。
しかし、世間ではアプリ利用者の不審死が相次いでいる、というニュースが報道されている。
そんな中で、幸司と連絡が取れなくなってしまった樹は、彼の安否を確かめに自宅を訪れた。
そこで目にしたのは、明らかに異常な姿で亡くなっている幸司の姿だった。
アプリが関係していると踏んだ樹は、親友の死の真相を突き止めるために、事件についてを探り始める。
そんな中で、幼馴染みで想い人の柚梨(ゆずり)までもを、恐怖の渦中へと巻き込んでしまうこととなるのだった。
「第5回ホラー・ミステリー小説大賞」特別賞を受賞しました!
他サイト様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる