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誘拐犯の独白劇~後編~

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 この絵巻には、欺影虫の幼虫を強制的に鞍替えさせたところが描いてあります。宿主である女性の体から形のないものを藁人形に移し、欺影虫の幼虫に宿主が死んだと勘違いさせて追い出した訳ですね。

 しかし、何だかおかしくありませんか? 矛盾しますよね?

 藁人形に形のないものを移したなら、この女性の肉体は空の器になっているということになります。どうして乗っ取られないんでしょう?

 答えは幼虫だからです。宿替えは成虫のみに許された行動なんですよ。十分な成長を遂げていない欺影虫は、空の器があっても乗っ取れないんです。それだけでなく、栄養源を失うことにもなるので、飢餓消失の危険も出てきます。なので、やむなく鞍替えという行動に出る訳です。宿替え前に宿主の肉体が死んだ成虫も同じですね。

 とはいえ、そもそも人形に移す必要があるのかという話ですよね。

 蜘蛛人になる前であれば、影に幼虫がいるだけですからね。本体が怒り狂うこともありません。影にいる幼虫を、そのまま駆除してしまえば良いだけですよね。そうすれば万事解決です。私も最初はそう思っていました。

 ですが、それはできないんです。影にいる幼虫は宿主と繋がっていますから、攻撃する度に栄養を高速摂取して回復してしまうんです。摂取した栄養は回復に費やされますので、幼虫は一切成長しません。

 結果、幼虫は宿主を食らい尽くした上で鞍替えに走ります。これは最悪な事態ですよ。だから、まずは繋がっていない部分を切り離して人形に移し、宿主と幼虫との繋がりを断つ必要があるということですね。

 ややこしいですよね? 分からなければ流してくださって結構ですよ。私もどうしてこんなに深く説明しているのか分からなくなってきてますからね。一所懸命覚えたことだからひけらかしたいのかもしれません。嫌になっちゃうくらい小難しいですよね、これ。

 どうでもいいですか。そうですよね。じゃあ、次にいきましょう。

 さて、何度も言いますが、蜘蛛人になってしまった人は、既に形のないものが食べ尽されているので救うことができません。が、それはつまり、蜘蛛人になる前であれば救えるということですね。

 この絵巻は、側にいた鎧武者に鞍替えされてしまった失敗談ですが、それさえなければ成功していたんです。この人形移しの術以外に、取り憑かれた人を安全に救い、尚且つ欺影虫を迅速に駆除する方法はありません。

 危険な方法については、言うまでもありませんよね? これまでの話の中に含まれていますので敢えて言いません。他にもっと安全な方法があったとしたら、すいませんね。人形なんかに閉じ込めちゃって。

 
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