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日記

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 俺の推理が合っているならば、いや、もう間違いないのだが、親父とお袋は、薬局のおばさん同様に、化け物になって山をうろついている。もしか、既に鳴神の仕掛けたトラバサミに引っ掛かって、もがいているかもしれない。

 鳴神は容赦がないから、身動きが取れない化け物を、躊躇いなく殺すだろう。

 親父も、お袋も、鳴神に殺される。友人であり、少なからず恋慕の情もある相手に、二親を殺される。そんな親子の別れがあるか。親を殺した相手と仲良く生きていけるか。

 もう、元には戻らないのだから、救ってくれたと考えるべきだということは重々承知しているつもりだ。だが、それでも俺には無理だ。とても耐えられない。

 今まで、飽くまで仮とし続けてきたが、家族が殺人を犯してまで守ろうとする存在は他に思い当たらない。座敷牢の中にいるのは、十中八九、いや、間違いなく好恵だ。

 好恵と爺さんも、いずれは手に掛かる。家族皆が殺される。隠しても無駄な気がする。

 すまない、百さん。これは、俺の遺言だ。そして、嘆願でもある。血判も残そう。これを爺さんに見せてくれ。俺が相続するはずの財産を、すべて百さんに譲る。爺さんなら、分かってくれるはずだ。代わりに、爺さんと好恵を見逃してやってくれ。

 俺の、最期の願いだ。

 いつか、百さんがペドファイルの男を殺したときに、先読みして俺の依頼を受けたように、俺も百さんが願いを聞き届けてくれると先読みしている。

 百さんには見透かされるだろうから、一応、書いておくが、俺はこれを好機として見ている。

 俺はずっと生きるのにうんざりしていた。自分に嘘を吐き続けているような気がしていた。だから、死のうと思っていた。ただ、踏ん切りがつかなかっただけだ。何も遺さずに死ぬというのがみっともなく感じられて、一歩が踏み出せなかったんだ。

 自分の死ですらも、人目を気にして体裁を取り繕おうとする。

 家族のことなんか、本当のところ、おまけ程度にしか考えちゃいないんだろう。

 自意識過剰の、ナルシストなんだ、俺は。

 自分勝手ですまない。

 それから、こんなことを頼むのは本当に申し訳ないし、頼める義理でもないが、できればいつか話したマゾヒストの女に、俺が死んだと伝えてやって欲しい。

 小柄で色白、日本人離れした亜麻色の髪だから、見ればすぐに分かるだろう。

 女の住所は、裏に記しておく。

 では、来世で。
 
 
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