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24‐1 正木誠司、泣く(前編)

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 俺はポチを装着しマリーチの格納庫に足を運んだ。
 相変わらず従業員たちが忙しなく動き回っている。その状況を見て、もしかすると別の場所にいるのではないかと思ったが、探し人はいた。

 格納庫の隅っこで、邪魔にならないように一人で積み木で遊んでいる小さな後ろ姿に涙が出そうになる。メリッサが作業中で忙しいことをわかっているのだろう。

 本当にいい子だ。

「ジーナ」

 声をかけると、俺の方を向いて嬉しそうな笑顔を浮かべる。

「セージ!」
「おうジーナ。いい子にしてたか?」
「うん!」

 俺を見るなりトテトテ駆け寄ってきたジーナを抱え上げて頭を撫でる。
 可愛いな。でも、この小さな手とも、あと数時間でお別れか。
 寂しいが、決めたことだ。大人が胸を詰めていても仕方がない。

「メリッサは?」
「おしごとしてる。あっち」

 ジーナが指差す方向はメカニックの作業室だ。入室制限がある場所なのでどうしたものかと思っていたら、ちょうど扉がスライドしてメリッサが現れた。

「あ、セイジだ。どうしたのさ?」

 そう言いながら、きょとんとした顔で歩み寄ってくる。この様子だと、まだウシャスが解放間近だという報告は届いていないようだ。
 というか、今気づいたがジョニーもジーナと会ってないなこれは。そのお陰で助かった俺がとやかく言えることではないが複雑だ。

 気づけば頭を掻いている。この癖もどうにかならんかな。

「あー、ポチの修理をお願いしたくてな」
「えー、もうどっか壊れたのー? できたばっかなのにー」

 メリッサが膨れっ面をしてピンクの風船ガムを膨らます。
 だが、俺が事情を説明すると風船が割れた。メリッサは目を見開き、顔にべったりと張り付いた薄いガムの膜を慌てて手で剥がして口に入れる。

「オ、オルトロスワームが出たって?」
「おう。そんで俺が一人で戦って首を一つ斬り落としたら、進化してケルベロスワームになったんだよ。でまぁ、今は討伐して居住区が防衛地点になってる」
「ちょ、ちょっと待ちなよ。だってまだ数時間しか経ってないのにさ」
「パワードスーツ隊もいたからな。何体かぶっ壊されたみたいだけど、もうあと数時間もすればウシャスが解放されるんじゃないか? エレス、頼む」
【はい、マスター。ポチ装着解除します】

 俺の体からポチが外れ床に着地する。その動きが面白かったのか、ジーナが「わー」と目を丸くして俺の肩をぺしぺし叩いた。

「すごいねー。それ、エレスがうごかしてるの?」
【はい。そうですよジーナ。ポチと言います】

 ポチがシュッと右前脚を上げて挨拶する。ジーナは大喜びだ。

「エレス、悪いが外部映像状態になってくれるか?」
【かしこまりました。ジーナと遊べばよろしいですか?】
「ああ、それを頼もうと思ってたんだ」
【喜んでお受けします】

 俺はジーナを床に下ろし、軽く頭を撫でる。

「ジーナ、おじちゃんはちょっとメリッサとお話があるからエレスと待っててくれるか? ポチを直してもらわないといけないんだよ」
「ポチ、こわれてるの?」
「ああ、ちょっとだけな。お話が済んだらすぐ戻るからな」
「うん、わかった」

 ポチから抜け出た妖精型エレスと共に、ジーナがお喋りを始める。俺はポチを抱え上げ、まだ呆然としているメリッサに向き直った。

「という訳で、直してくれるか? なるだけ早く」
「え、うん。それはいいけど。なんで早く?」

 エレスに目配せをすると、察してくれたようで上手くジーナを俺から離してくれた。本当に優秀なサポートAIだと思う。神の御使いなだけはある。
 俺はメリッサにウシャスを降りて未開惑星に降りることを伝えた。そこで自分の好きなことをして暮らし、エルバレン商会と取引しながら生きていく。

 話し終えると、メリッサは少し考えるようなそぶりを見せた後で、不意に俺からポチをかっさらい、ためつすがめつした。そして、にんまりと悪い顔をした。

 第六感が強く働いた。凄まじく嫌な予感がする。

「あー、困った。困った困ったー」
「な、なんだよ?」
「これは時間内に直せるような故障じゃないなー。直し方を教えるっていうのもねー、そんな簡単なもんじゃないんだよなー。困ったねー?」

 どうやら俺はミスをしたようだ。メリッサはしたたかな女だということをすっかりと忘れていた。交換条件に何を持ち出されるかわかったもんじゃない。

 訊きたくないが、もう訊くしかない。

「はぁ、何が望みだ?」
「望み? 何言ってんのさセイジ。アタシには望みなんてないよ? ただ解決法としてはさー、アタシが一緒に行くってのが一番だよねって話」
「よし、他のメカニックに頼むか」

 俺がポチを掴むと、メリッサが抵抗した。引っ張り合いになる。
 思った以上に力が強い。戦闘状態でなければ、俺なんてこんなもんだ。

「ぐぬぬぅ、しゅ、修理、終わんないと思うよー? アタシ嘘吐いてないしっ。み、未開惑星でもおっ故障するってこと、ちゃんと考えてんのかいっ?」
「ぬっ、そのっときは、エレスにっ訊きながらっ、どうにか、する」

 歯を食いしばって睨み合っていると、ホログラムカードの縁が赤くなった。どうやら俺かメリッサのいずれかが殺意を察知し戦闘状態に移行したようだ。

「へ? いひゃあああああああああ?」

 慌てて力を抜いたが、ときすでに遅し。憐れメリッサは宙を舞っていた。
 
 
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