64 / 67
24‐1 正木誠司、泣く(前編)
しおりを挟む俺はポチを装着しマリーチの格納庫に足を運んだ。
相変わらず従業員たちが忙しなく動き回っている。その状況を見て、もしかすると別の場所にいるのではないかと思ったが、探し人はいた。
格納庫の隅っこで、邪魔にならないように一人で積み木で遊んでいる小さな後ろ姿に涙が出そうになる。メリッサが作業中で忙しいことをわかっているのだろう。
本当にいい子だ。
「ジーナ」
声をかけると、俺の方を向いて嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「セージ!」
「おうジーナ。いい子にしてたか?」
「うん!」
俺を見るなりトテトテ駆け寄ってきたジーナを抱え上げて頭を撫でる。
可愛いな。でも、この小さな手とも、あと数時間でお別れか。
寂しいが、決めたことだ。大人が胸を詰めていても仕方がない。
「メリッサは?」
「おしごとしてる。あっち」
ジーナが指差す方向はメカニックの作業室だ。入室制限がある場所なのでどうしたものかと思っていたら、ちょうど扉がスライドしてメリッサが現れた。
「あ、セイジだ。どうしたのさ?」
そう言いながら、きょとんとした顔で歩み寄ってくる。この様子だと、まだウシャスが解放間近だという報告は届いていないようだ。
というか、今気づいたがジョニーもジーナと会ってないなこれは。そのお陰で助かった俺がとやかく言えることではないが複雑だ。
気づけば頭を掻いている。この癖もどうにかならんかな。
「あー、ポチの修理をお願いしたくてな」
「えー、もうどっか壊れたのー? できたばっかなのにー」
メリッサが膨れっ面をしてピンクの風船ガムを膨らます。
だが、俺が事情を説明すると風船が割れた。メリッサは目を見開き、顔にべったりと張り付いた薄いガムの膜を慌てて手で剥がして口に入れる。
「オ、オルトロスワームが出たって?」
「おう。そんで俺が一人で戦って首を一つ斬り落としたら、進化してケルベロスワームになったんだよ。でまぁ、今は討伐して居住区が防衛地点になってる」
「ちょ、ちょっと待ちなよ。だってまだ数時間しか経ってないのにさ」
「パワードスーツ隊もいたからな。何体かぶっ壊されたみたいだけど、もうあと数時間もすればウシャスが解放されるんじゃないか? エレス、頼む」
【はい、マスター。ポチ装着解除します】
俺の体からポチが外れ床に着地する。その動きが面白かったのか、ジーナが「わー」と目を丸くして俺の肩をぺしぺし叩いた。
「すごいねー。それ、エレスがうごかしてるの?」
【はい。そうですよジーナ。ポチと言います】
ポチがシュッと右前脚を上げて挨拶する。ジーナは大喜びだ。
「エレス、悪いが外部映像状態になってくれるか?」
【かしこまりました。ジーナと遊べばよろしいですか?】
「ああ、それを頼もうと思ってたんだ」
【喜んでお受けします】
俺はジーナを床に下ろし、軽く頭を撫でる。
「ジーナ、おじちゃんはちょっとメリッサとお話があるからエレスと待っててくれるか? ポチを直してもらわないといけないんだよ」
「ポチ、こわれてるの?」
「ああ、ちょっとだけな。お話が済んだらすぐ戻るからな」
「うん、わかった」
ポチから抜け出た妖精型エレスと共に、ジーナがお喋りを始める。俺はポチを抱え上げ、まだ呆然としているメリッサに向き直った。
「という訳で、直してくれるか? なるだけ早く」
「え、うん。それはいいけど。なんで早く?」
エレスに目配せをすると、察してくれたようで上手くジーナを俺から離してくれた。本当に優秀なサポートAIだと思う。神の御使いなだけはある。
俺はメリッサにウシャスを降りて未開惑星に降りることを伝えた。そこで自分の好きなことをして暮らし、エルバレン商会と取引しながら生きていく。
話し終えると、メリッサは少し考えるようなそぶりを見せた後で、不意に俺からポチをかっさらい、ためつすがめつした。そして、にんまりと悪い顔をした。
第六感が強く働いた。凄まじく嫌な予感がする。
「あー、困った。困った困ったー」
「な、なんだよ?」
「これは時間内に直せるような故障じゃないなー。直し方を教えるっていうのもねー、そんな簡単なもんじゃないんだよなー。困ったねー?」
どうやら俺はミスをしたようだ。メリッサはしたたかな女だということをすっかりと忘れていた。交換条件に何を持ち出されるかわかったもんじゃない。
訊きたくないが、もう訊くしかない。
「はぁ、何が望みだ?」
「望み? 何言ってんのさセイジ。アタシには望みなんてないよ? ただ解決法としてはさー、アタシが一緒に行くってのが一番だよねって話」
「よし、他のメカニックに頼むか」
俺がポチを掴むと、メリッサが抵抗した。引っ張り合いになる。
思った以上に力が強い。戦闘状態でなければ、俺なんてこんなもんだ。
「ぐぬぬぅ、しゅ、修理、終わんないと思うよー? アタシ嘘吐いてないしっ。み、未開惑星でもおっ故障するってこと、ちゃんと考えてんのかいっ?」
「ぬっ、そのっときは、エレスにっ訊きながらっ、どうにか、する」
歯を食いしばって睨み合っていると、ホログラムカードの縁が赤くなった。どうやら俺かメリッサのいずれかが殺意を察知し戦闘状態に移行したようだ。
「へ? いひゃあああああああああ?」
慌てて力を抜いたが、ときすでに遅し。憐れメリッサは宙を舞っていた。
3
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
王妃だって有休が欲しい!~夫の浮気が発覚したので休暇申請させていただきます~
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
【書籍発売記念!】
1/7の書籍化デビューを記念いたしまして、新作を投稿いたします。
全9話 完結まで一挙公開!
「――そう、夫は浮気をしていたのね」
マーガレットは夫に長年尽くし、国を発展させてきた真の功労者だった。
その報いがまさかの“夫の浮気疑惑”ですって!?貞淑な王妃として我慢を重ねてきた彼女も、今回ばかりはブチ切れた。
――愛されたかったけど、無理なら距離を置きましょう。
「わたくし、実家に帰らせていただきます」
何事かと驚く夫を尻目に、マーガレットは侍女のエメルダだけを連れて王城を出た。
だが目指すは実家ではなく、温泉地で有名な田舎町だった。
慰安旅行を楽しむマーガレットたちだったが、彼女らに忍び寄る影が現れて――。
1/6中に完結まで公開予定です。
小説家になろう様でも投稿済み。
表紙はノーコピーライトガール様より
社畜だけど転移先の異世界で【ジョブ設定スキル】を駆使して世界滅亡の危機に立ち向かう ~【最強ハーレム】を築くまで、俺は止まらねぇからよぉ!~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
俺は社畜だ。
ふと気が付くと見知らぬ場所に立っていた。
諸々の情報を整理するに、ここはどうやら異世界のようである。
『ジョブ設定』や『ミッション』という概念があるあたり、俺がかつてやり込んだ『ソード&マジック・クロニクル』というVRMMOに酷似したシステムを持つ異世界のようだ。
俺に初期スキルとして与えられた『ジョブ設定』は、相当に便利そうだ。
このスキルを使えば可愛い女の子たちを強化することができる。
俺だけの最強ハーレムパーティを築くことも夢ではない。
え?
ああ、『ミッション』の件?
何か『30年後の世界滅亡を回避せよ』とか書いてあるな。
まだまだ先のことだし、実感が湧かない。
ハーレム作戦のついでに、ほどほどに取り組んでいくよ。
……むっ!?
あれは……。
馬車がゴブリンの群れに追われている。
さっそく助けてやることにしよう。
美少女が乗っている気配も感じるしな!
俺を止めようとしてもムダだぜ?
最強ハーレムを築くまで、俺は止まらねぇからよぉ!
※主人公陣営に死者や離反者は出ません。
※主人公の精神的挫折はありません。
前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!
yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。
だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。
創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。
そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。
私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ
もぐすけ
ファンタジー
シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。
あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。
テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。
スラムに堕ちた追放聖女は、無自覚に異世界無双する~もふもふもイケメンも丸っとまとめて面倒みます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
どうやら異世界転移したらしいJK田崎 唯は、気がついたら異世界のスラムにどこかから堕ちていた。そこにいたる記憶が喪失している唯を助けてくれたのは、無能だからと王都を追放された元王太子。今は、治癒師としてスラムで人々のために働く彼の助手となった唯は、その規格外の能力で活躍する。
エブリスタにも掲載しています。
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
フェンリルに育てられた転生幼女は『創作魔法』で異世界を満喫したい!
荒井竜馬
ファンタジー
旧題:フェンリルに育てられた転生幼女。その幼女はフェンリル譲りの魔力と力を片手に、『創作魔法』で料理をして異世界を満喫する。
赤ちゃんの頃にフェンリルに拾われたアン。ある日、彼女は冒険者のエルドと出会って自分が人間であることを知る。
アンは自分のことを本気でフェンリルだと思い込んでいたらしく、自分がフェンリルではなかったことに強い衝撃を受けて前世の記憶を思い出した。そして、自分が異世界からの転生者であることに気づく。
その記憶を思い出したと同時に、昔はなかったはずの転生特典のようなスキルを手に入れたアンは人間として生きていくために、エルドと共に人里に降りることを決める。
そして、そこには育ての父であるフェンリルのシキも同伴することになり、アンは育ての父であるフェンリルのシキと従魔契約をすることになる。
街に下りたアンは、そこで異世界の食事がシンプル過ぎることに着眼して、『創作魔法』を使って故郷の調味料を使った料理を作ることに。
しかし、その調味料は魔法を使って作ったこともあり、アンの作った調味料を使った料理は特別な効果をもたらす料理になってしまう。
魔法の調味料を使った料理で一儲け、温かい特別な料理で人助け。
フェンリルに育てられた転生幼女が、気ままに異世界を満喫するそんなお話。
※ツギクルなどにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる