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SIDE ヨハン

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 十字路防衛拠点。そこで僕はいまだ続く魔物との戦いの指揮を執り続けていた。
 そろそろセイジが居住区に向かって二時間半が経過するが、状況は拮抗。ややもすれば劣勢とも言える状況となっていた。

 そんな中、ようやく制御盤の修理が済んだとの報告が入った。

「その報告を上げる暇があったら、さっさと左右の隔壁を下ろせ!」
「はい! す、すみません!」
「急げよ! もたもたするんじゃないぞ!」

 慌てて隔壁を下ろしに向かう従業員の背を見て、僕は溜め息を吐く。勝手な真似をせず都度報告を上げろと命じていたのは僕だ。従業員は何一つ悪くない。
 本来、八つ当たりのような叱責を行う役目はジョニーのものだ。僕は今のような目に遭った従業員のフォローをする役割を担っていた。

 癖になってきているのかもな。だけど、それももう終わるかもしれない。

 希望はまだ仄かな輝きを放っている。僕はそれを信じていた。

 ジョニーが行方不明になってから、僕はどうにか彼の代わりを務めようと頑張ってきた。だが人には領分がある。身の丈に合ったことをしないと、反感を買うものだ。

 従業員たちの中には理解のある者もいるが、大半は孤児上がりの元傭兵。突然偉そうな顔をしだした僕に対していい顔をしないものも多かった。

 商会の空気は悪くなる一方。
 これまで保たれていたバランスが崩れてきていた。

 こんな状態で圧し掛かってきた商会の維持という重責を果たせるのだろうか。

 そう思い悩んでいたときに、セイジが目を覚ました。

 最初はまた厄介事が増えると頭を抱えていた。ナツミの件があったからだ。ただでさえ雰囲気が悪くなっているところに、更に異物が入り込むのは歓迎できなかった。

 ところが、セイジはナツミとは違った。セイジが目覚めたその日のうちに、僕の悩みの大半は消し飛んだ。崩れつつあったバランスを一気に修正してくれたのだ。
 従業員たちはこぞって救世主だともてはやした。そうなるのも無理はない。なにもかもが規格外。異常性の塊。問題児だったナツミでさえ、今や優秀な兵士に変貌した。

 たった一日で、全てが上向いた。僕に対しての反感はまだあるものの、表立ってその意を示してくる者はいなくなった。それだけで、どれだけ気が楽か。

 セイジは僕にとって希望だ。そんな存在がジョニーを捜しに向かってくれた。
 一旦は減りつつあった魔物の群れが再び増加し、ポチがセイジと共に場を離れたことで苦戦を強いられてはいるが、まだ誰一人として弱音を吐かずに戦ってくれている。

 僕だけでなく、彼らの希望もまた潰えてはいないからだ。

「左右隔壁下ります!」

 ガシャン──。

 左右の隔壁が閉じ、意識を正面だけに向けることができるようになった。
 従業員たちが大歓声を上げる。これでまた状況は上向いた。

「ヨハンさん! やりましたね!」
「ああ、ナツミ。やっとと言ったところだが」
【なっちゃーん! あ、ヨハンもいた!】

 喜んで駆け寄ってきたナツミの側に、彼女に付き従う浮遊するハリネズミのジェイスが飛んできた。魔物の偵察と攪乱を担ってくれて随分助かっているが……。

 かなり急いでいる様子だ。なにかあったのだろうか?

「どうしたのジェイス? まさか正木さん?」
【違うよ! ジョニーが来てる! エレスも一緒だ!】
「なんだと!」

 僕はバリケードに駆け寄った。ナツミもすぐに追いつき隣に立つ。

【まだ遠いけど、銃撃を止める準備はしておいた方がいいよ】
「わかった!」

 覗き穴で確認すると、遠くに明らかに魔物ではない存在が見て取れた。その周辺で血飛沫が上がっている。どんどん近づいてくる。

「ジョニー……!」

 間違いない。ジョニーだ。あの筋肉ゴリラ。やっぱり生きてたか。

 思わず胸が詰まり、涙ぐむ。だが覚られる前に袖で拭う。
 従業員たちも異変に気づいたようだ。ざわつきだした。

「ジョニーさんだけ……? どうして、エレスが……」

 ナツミの呟きにハッとする。そうだ。何故セイジがいない。
 僕はまた凝視する。だが、やはりセイジの姿は確認できない。もしセイジがいるなら、居住区に向かうときに見せた驚異的な動きですぐにわかるはずだ。

【なっちゃん、心配いらないよ。エレスが来てるってことは、正木さんは無事ってことだ。多分、何か事情があってジョニーだけを返したんだと思うよ】
「そういうことか!」

 ジェイスの言葉で、僕は理解した。セイジは居住区を縄張りにしている魔物と戦う為に一人残ったのだと。ジョニーを守りながら戦うより、護衛を付けて返した方が勝算があると考えたに違いない。セイジならそうするだろう。あいつはそういう奴なんだ。

 僕はすぐに従業員たちに向かい声を張り上げた。

「誰でもいい! 休憩中の全従業員を招集してくれ! メカニックもだ! おそらく部隊の再編が行われる! ボスが戻るぞ! 命知らずがやってくれた!」

 一瞬の静寂のあと、わっと歓声が上がる。まだ喜ぶのは早い。だが士気は上がる。何を相手取っているのかはわからないが、苦戦する相手であることは間違いない。

 無事でいろよ、セイジ……。

 僕は祈るような気持ちで、心でそう呟くのだった。
 
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